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3. ドイツ便り Nummer 6

排出量の国際・国内取引制度創設とNGOの新たな役割
(大石りら、ISEPドイツ駐在研究員)

2005年元旦、EU域内における排出量取引がいよいよ始動する。

その直前、EUの政治的圧力によって、ロシアの京都議定書批准がついに決定。今
年最大の世界的ビッグニュースである。ロシア政府にとっては、批准への政策転
換は、地球環境問題重視の立場からではなく、世界貿易機関(WTO)加盟交渉を
促進させるための政治的判断にすぎないかもしれないが、温室効果ガス増大によ
る地球温暖化は、とりわけシベリアの凍土地帯の地下にある永久凍土の融解は、
ロシア経済に深刻な打撃を与えるだろうという予測がある。

京都議定書の発効によって、グローバルな環境政策は大きく前進することが可能
となった。京都体制に関するルールは、その大部分が2001年のCOP7(マラケシュ
会議で決定されたもので、(マラケシュ合意の和訳などが下記からダウンロード
可能。 http://www.gispri.or.jp/kankyo/unfccc/COP7020121.html )

京都メカニズムは、地球温暖化対策に「市場原理」と「ビジネス」を新しく導入
するものである。京都議定書により定められた数値目標であらわされる排出制約
の課せられる先進国企業は、排出量取引制度導入によって、“市場の完全性”に
基づいて-“市場の完全性”などもちろんフィクションにすぎないが、-最終的
には最適状態、すなわち最小コストで排出量削減目標が達成できると期待され
る。京都メカニズムは、多くの企業にとってビッグなビジネスチャンス到来の可
能性を秘めており、アメリカ・カナダ・オーストラリアなど京都議定書を批准し
ていない国々にも、ビッグビジネスととらえている企業は多い。すでに動き出し
ているCDM(クリーン開発メカニズム)やJI(共同実施)をベースとしたプロ
ジェクトも数多く存在する。世界銀行のプロトタイプカーボンファンド
( http://carbonfinance.org )、オランダ政府によるJIやCDMのクレジット買
い取り制度であるERUPT/CERUPTなどが、先渡しやオプションというかたちの先行
取引はすでに行われている。

先見の明のあるいくつかの日本企業は数年前から海外支社と社内排出量取引を実
験的に行っているが、日本政府自体が真剣に取り組まねばならないはずの京都メ
カニズムの制度的導入は、すでに完全に出遅れてしまっているが、国際排出量取
引に関わる国際機関IETAは日本政策投資銀行がバックアップしており、日本の主
要な大手企業や電力会社などが(なぜか)すでに加盟メンバーとなっていること
にも注目せねばならない。(活動内容や加盟メンバーリストについては、英語の
ホームページ http://www.ieta.org を参照。今年11月初めにスイスのチュー
リッヒで開かれる年次会議では、経済産業省の代表もスピーチを行う予定。)

EUの排出量取引スキームは、2003年10月にすでに発表されている。(略称ETS 
英語版のダウンロードは次から可能。排出量取引に関心がある人は必読。
http://europa.eu.int/eur-lex/pri/en/oj/dat/2003/l_275/l_27520031025en00320046.pdf )
EU加盟国はこのETSを国内法に移し変えて国内割当計画(NAP、
http://www.bmu.de/files/nap_kabinettsbeschluss.pdf )を2004年3月31日まで
に完成させねばならなかったのだが、期日を守ることが出来たのは、ドイツを含
めてわずか五カ国のみであった。ドイツ連邦環境省は、EUのETSが発表される以
前の2001年一月より、NAP創出のための作業部会を組織して準備していた。作業
部部会は、連邦環境省、経済省、経済開発協力省、財務省、外務省、防衛省、内
閣府の各代表、ドイツ経団連にあたるBDI、ドイツを代表する国際企業や国内企
業(主に自動車産業、エネルギー産業など)や金融機関、連邦議会の各政党、ド
イツ労働組合、NGO(WWF、地球の友ドイツ支部BUND、DNR、GERMANWATCH)のそれ
ぞれの代表によって構成された。

ドイツは京都議定書に定められた(1990年比で)21%という削減目標数値のうち、
すでに2002年までに19%削減を実現しているが、NAPによってドイツ産業界の排
出量は、EUのETSの第一段階(2005~2007)において年間4億9500万トンに制限さ
れることとなった。(環境省資料Nr.253/04)これは環境省やNGOが提案していた
よりも低い数値であり、これに対してはNGOサイドに強い不満を残す結果となっ
た。作業部会では、CDMやEU域内JI、その他の重要テーマについても討議されて
いるが、ここでは紙面の制限上立ち入らない。

NAPをめぐるドイツ経済界との妥協の結果、今年度計画されていた環境税の値上
げは見送られることになった。しかし、環境税、排出量取引、自然エネルギー促
進法の三つは、地球温暖化防止とエネルギー転換を同時実現するための三本柱で
あることに変わりはない。(ドイツ版NAPの概要とその背景については、下記か
らダウンロード出来るドイツのエコ研究所フェリックス・マテスの論文を参照の
こと。日本版NAPの可能性についても書かれており、重要な論証を多く含んでい
るので絶対に必読である。WWFジャパンの見事なイニシアティブによる。
http://www.wwf.or.jp/lib/climate/20040928b.pdf )しかしながら、EUのETSと
ドイツ版NAの双方に対して、ビジネスサイド、NGOサイドのそれぞれからさまざ
ま批判が寄せられている。それらについては、いずれまた、別の機会にまとめて
取り上げることとする。

それから、ドイツの排出権取引制度に関連して、是非ともここで指摘しておかね
ばならないことは、連邦環境省直属の環境庁に排出量取引所(略称DEHST)が創
設されたことである。これは、環境省の役割強化に結びつく重要ポイントである
ことを強調しておきたい。DEHSTにはこれまで約2400のドイツ企業が排出量取引
申請手続きを完了させており、2005年度から始まるEU域内の排出量取引に参加す
る。

また、グローバルな排出量取引市場の急速な拡大の波に乗じて、世界中で“ビジ
ネスNGO”と呼ばれる利潤追求を目的とするNGOの仮面を被ったニセNGOが増えて
いる。完全な情報開示を拒否して不透明なCDMやJIをベースとする国際プロジェ
クトを推進するような“ビジネスNGO”に対して、真のNGOは対峙して行かねばな
らなくなる。

それゆえに、国際的なNGOとシンクタンクが協力して、京都メカニズムのひとつ
であるCDMプロジェクトの完全な透明性や情報公開義務の要求、実際の排出量削
減の検証、CER(削減量のクレジット)の認証・発行、そしてまた、プロジェク
ト全体の評価のための社会的基準・環境的基準の導入が極めて重要となる。とり
わけ、WWFインターナショナルが提案するゴールド・スタンダードは内容もたい
へん素晴らしい。CDMプロジェクトの評価基準として、それが真に「持続可能な
発展」に貢献するものであるかどうかということを吟味することはたいへん重要
なポイントであると思われる。(ゴールド・スタンダードの概要と背景について
わかりやすくまとめたもの。ダウンロード可能。絶対必読。
http://www.panda.org/downloads/climate_change/thegoldstandardoverview.doc )
現在において、WWFの提案を補完、または具体化する方向で、環境NGOのグローバ
ルな統合組織であるCAN(Climate Action Network)のメンバーによるゴールド・
スタンダードの模索が続けられている。ヨーロッパ各国やその他の国々の政府環
境政策担当者、研究者、NGO、ビジネス関係者のあいだのエキサイティングな議
論のなかで多彩な創造的提案が行われている。(この議論については、次号の
「SEEN」参照。)

創造的なアイディアがたくさん盛り込まれた議論が、日本においても専門家のあ
いだだけではなく国民全体を巻き込んで大いに盛り上がって欲しいと心から願
う。さまざまなヴァリエーションを組み合わせつつ、日本オリジナルの国内版
CDMプロジェクト実施のためのルールを創出して、地域格差を是正して“地方の
活性化”に役立てることなども実現可能かもしれない。(これについては、次号
において自然エネルギー促進との関連において再論する予定。)日本で生まれた
排出量取引制度に関わる個性的なアイディア、独創的なプロジェクトが有意義で
転用可能な内容であれば、海外においても大きな関心と注目を集めることは間違
いないだろう。

来月は、ヨーロッパで開かれるいくつかの会議報告などをふまえて、「排出量取
引と自然エネルギー促進」というアクチュアルなテーマについて、もちろん、ビ
ジネス至上主義からではなく、市民社会の視点から論じてみたいと思う。

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