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3.  ドイツ便り Nummer 5

東海村の臨界事故がドイツの市民社会と脱原発論争に与えた影響
 - 日本のマスメディアがほとんど報道しなかった事実の記憶 -
 (大石りら、ISEPドイツ駐在研究員)

今月はドイツの環境・エネルギー政策をめぐる重要なトピックがたくさんある。
まず、八月に発効したばかりのドイツの自然エネルギー改正法の主眼とバックグ
ラウンドペーパーの発表。それらに対する再生可能エネルギー各分野の業界団体
や環境NGOによる評価と批判。また、ライプツィヒ郊外に建設された世界最大規
模のシェル=ソーラーの太陽光発電所とその竣工式におけるドイツ連邦環境大臣
の「PV生産においても世界一を目指す」宣言。ソーラーエネルギー促進に貢献す
る全国500以上におよぶ市民イニシアティブの統合組織誕生と活動開始。そして
また、将来における風力エネルギー研究開発の重点についての政府発表。英仏に
おける風力エネルギーブームに対するドイツの風力エネルギー業界の反応。再生
可能エネルギー促進における東欧諸国との経済協力関係の強化に関する政府発
表。(以上のテーマについては、紙面の枚数制限の都合から自然エネルギー専門
誌『ソーラーシステム』の2004年秋号No. 98に拙論掲載予定。)また、電力会
社大手による不当な電力料金値上げ要求に対する政界・経済界・消費者連合から
の批判。(9月30日にシュレーダー首相を中心とする会合の場“エネルギーサ
ミット”が設けられ、電力会社の要求が退けられる見込み。)

来年からいよいよ開始するEU内部の排出権取引とそのルールづくりのプロセス
におけるNGOの積極的参加などは、最も重要なトピックであると思われるが(来
月号の『SEEN』で報告する予定)、今月はチェルノブイリ以来最悪の原子力エネ
ルギーと位置付けられた五年前に東海村で起きた臨海事故の記憶が風化しないよ
うに、犠牲者の死と苦しみを無駄にしないために、東海村の臨海事故がドイツの
市民社会と脱原発論争に与えた影響について、(そのほんの一部についてである
が)日本のマスメディアが報道しなかった事実の記憶として述べておきたいと思
うので、お許し願いたい。

1999年9月30日に起きた東海村の臨界事故は、ヨーロッパの人々にとってチェル
ノブイリの悪夢を彷彿とさせただけではなく、それが“世界をリードする技術大
国とみなされている日本”で発生したという事実が、皮肉なことにドイツにおけ
る「原子力の安全神話」の崩壊に決定的な影響を及ぼした。世論の関心が非常に
高く、事故の犠牲者となられた従業員の壮絶な苦痛に対して強い同情が湧き起こ
り、周辺住民の放射能汚染による健康被害が心配されたために、ドイツのマスメ
ディアは数週間にわたって、事故の全貌をあきらかにしつつ、日本の原子力行政
の内幕についても詳細に論じた。事故の翌週、ドイツ連邦議会においても、事故
原因解明に関する情報をもとに徹底的に討議された。(1999年10月6日の連邦議
会議事録参照。)

日本の原子力行政やエネルギー政策にこの臨界事故を契機として転換が生じるか
という点にドイツのマスメディアの注目が集中したのではあるが・・・。クオリ
ティ・ペーパーとして海外でも有名なフランクフルター=アルゲマイネ紙の女性
特派員記者が数ヶ月にわたって事故後の日本における成り行きについて報じたの
ちに「日本の原子力行政は放射能汚染と同じように不可視である」と結論づけた
のが、最も印象的であった。

東海村の事故を契機として、その翌年にあたる2000年春、「ドイツの原発に完璧
な責任保険を今すぐかけよう」というキャンペーンが開始された。キャンペーン
開始にあたって、東海村の臨界事故の教訓が宣言されており、そのことがドイツ
社会全体における同キャンペーンの隆盛の背景となっている。このキャンペーン
の狙いは、最悪の事態を想定して原発に“完璧な損害賠償のための責任保険”を
かけようとすれば、その保険料はその支払いが経済的に不可能であるほど高額と
なることや、被害総額を試算すると年間の国家予算の10倍から20倍におよぶこと
をあきらかにすることである。(試算は経済省の調査結果と科学研究機関による
データを基礎としている。)

キャンペーンの中心となったのは、1985年にノーベル平和賞を受賞したIPPNW
「核戦争を防止する国際的な医師たちの会」、ドイツ法曹界を代表するNPOであ
るNPV、BUND地球の友ドイツ支部(会員数約37万人)である。それに最大野党で
ある保守党CDU/CSUの「核エネルギー反対する議員グループ」、ドイツ最大の環
境NGOであるNABU(会員数約39万人)、カソリック教会の青年部組織、再生可能
エネルギー業界団体など多数が加わった。

ドイツのマスメディアが大きく取り上げたこの署名運動には、政治家、三百人以
上の大学教授、文学界や芸能界やスポーツ界の著名人、ホテルチェーンを含む観
光関連業界団体や農業共同組合などが参加している。この署名運動は現在もなお
続けられている。

(キャンペーンに関心を持たれた方へ。全体像についてはドイツ語のホームペー
ジ参照 http://www.atomhaftpflicht.de/ 。IPPNWのキャンペーン担当者ヘン
リック・パウリッツ氏とは英語でコミュニケーション可能paulitz@ippnw.de ま
たはkontakt@ippnw.de に直接メールで御連絡お願いします。)

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