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7. エネルギー、環境、持続可能な発展を巡る問題意識の共有へ向けて
 (小圷一久、ISEP研究員)

ドイツ、ボンで開かれた自然エネルギー2004が6月4日で閉幕した。154カ国から
3,000人を超える参加者があり、自然エネルギーというトピックに関して様々な
議論が展開され、それにまつわる多数のイベントが開かれた。

国際会議という場に身を置く時、いつも感じることの1つは、その議論される
テーマおける緊張感の共有である。本会議場を中心として、その回りで同時並行
的に開催されるサイドイベントと呼ばれるNGOや国際機関によるシンポジウムな
どに参加するうちに、日本国内における問題のとらえられ方と異なる点に気づく
ようになる。これがいわゆる国際的な流れと日本との「温度差」の違いになるの
だろうが、なぜこのような温度差が生まれるのか、それを考えるヒントとなった
2つの事例を紹介したい。

今回の会議期間中、ISEPは2つのサイドイベントを開催した。1つは会議初日、
ISEPが主催者となってドイツと韓国から、各国の議員や副市長、自然エネルギー
事業者等を招いて3カ国間の政策対話を行った(号外2号の飯田報告を参照)。そ
して、2日目にはアメリカ、ドイツ、インドの政策研究NGOと共催で、これも国際
間の政策議論を通して、自然エネルギー政策の成功事例や課題の報告がされた
(号外3号の小圷報告を参照)。この2日目のサイドイベントにおける質疑応答の
中で、インドの若い青年が教育問題に関して以下の質問をした。「今回の会議に
出席して、自然エネルギーの促進はこれからの途上国の発展や貧困問題の解決と
なりうることが分かった。しかし、問題は自然エネルギーと持続可能な発展に関
する教育プログラムが自分の国にあまりにも少ないことである。まわりの仲間は
エネルギーと環境や発展についての意識が低い。これまでの教育システムを再考
する必要があるのではないか。」

米国で環境エネルギー政策を学んだ筆者にとって、この発言には大いに納得でき
る。自然エネルギー2004で扱われるテーマを本質的に理解するにはエネルギーを
巡る、広くかつ深い知識を必要とする。それはもはや、エネルギーという物理学
的な側面を超え、地球温暖化問題という地球環境問題と、京都議定書を巡って繰
り広げられる国際政治の問題や途上国の貧困問題の解決と持続可能な発展という
国際開発問題、またエネルギーを実際に使う場面で見られる男女の格差(ジェン
ダー)問題解決としての自然エネルギーの意義、そして自立的な自然エネルギー
市場を作り上げるために必要な金融ファイナンス制度確立へ向けた取組みなど、
これまで、個別の課目(物理、政治、経済、開発、女性問題、経営)で教えられ
てきた「点」を結びつける作業が必要になるからである。欧州や米国など途上国
の開発問題や国際政治、政策論議にコミットしてきた国々と比べて、日本では、
それぞれの「点」を「線」として結びながら考える機会が社会全般や教育システ
ムに制度的に位置づけられていないと感じる。今回の会議の主催国ドイツのト
リッテン環境大臣や閣僚の話を聞いていると、自然エネルギーを巡る議論は既に
「線」から「面」へと移行し、政治・政策・経済・国際協力の全ての面で全面的
に自然エネルギーを中心とした持続可能な発展へと舵を切っている。ここに、日
本の政府レベルとは異なる問題意識の差がある。

もう1点、印象に残った事例を挙げたい。会議2日目のISEP共催サイドイベント
終了後、パネリストの1人である、エリック・マルティノット氏(元Global
Environmental Facilities、世界銀行、自然エネルギープログラムマネー
ジャー)と立ち話をした時だった。彼は途上国における自然エネルギー促進政策
に関する最近の論文の中で、補助金の賢い利用を通じた自立的な自然エネルギー
市場確立の必要性を主張している。彼の専門分野は途上国であり、その個別事例
も途上国における自然エネルギー政策であるが、基本的な考え方やアプローチの
仕方はこれからの日本の自然エネルギー政策に当てはまるし、県など地方自治体
のレベルでは、おそらく共有できる政策モデルや知識も多いのではないかと話す
と、大いに共感してくれた。自然エネルギー政策は地域ごとの背景や選ぶエネル
ギーの性質によって政策の選択や評価が異なる。これを具体的事例に則して適切
に政策評価を行い、その経験や知見を広く国際的に共有することはとても意義の
あることであろう。おそらく、前述の問題意識もこのような政策事例や経験の積
み重ねを通して、地域レベルの共有から一気に国際的な自治体や地方や国会の議
員の連携へと積み上がってこそ問題意識の共有へとつながっていくと考える。こ
の点で、今回の会議で初の試みとして試された「自治体会議」や「議員フォーラ
ム」は、これからも様々な国際会議に応用されるべきものとして注目したい。

総じて、駆け足で(時には全速力で)駆け抜けた会議期間であった。また、多く
のすばらしい出会いがあった。感動的なスピーチもあった。朝から晩まで休まる
時はなかったけれど、これだけ密度の濃い時間を過ごせるのも国際会議の醍醐味
である。今回の会議ではサイドイベントの事務方として、号外のニュースレター
の現地編集担当として働かせて頂いた。朝7時の会議から始まり、その日の午前
中には原稿を集約するという過酷なスケジュールの中、飯田所長、大林副所長、
笹川研究員には不可能とも思える注文にも応えて頂いた。その他、現地でのレ
ポートや日本総合研究所から出席をされた村上さんにも最後の最期まで寄稿を頂
いた。環境社会学者の長谷川先生には時流にあった鋭い寄稿を連載頂くことにな
り、ニュースレターに深みと幅が広がった。北海道ニセコ市長の逢坂さんにも特
別寄稿を頂いた。あの、雨に濡れたボンの夜の祝宴はドイツでの忘れられない思
い出である。日本から送った荷物が予定通り届かないというハプニングもあっ
た。その際は、何度となく会議主催者事務局へと足を運び様々な点でお世話に
なった。特に、サイドイベント担当のSusan Tschurschさんには感謝の気持ちで
いっぱいである。その他にも数多くの方々のご協力があって、ISEPのサイドイベ
ントを成功裏に終えることができたし、このニュースレターの発行も当然その例
に漏れない。ドイツ現地で協力を頂いた、近江さん、逢沢さん、大石さんには改
めてお疲れ様でしたということを伝えたい。また、日本現地での編集取りまとめ
と配信を(ドイツ時間にあわせて)行ってくれたISEP菊池編集長にもたいへんお
世話になった。改めて、お礼を申し上げたい。

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