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4.バイオマスエネルギーの将来展望
         ~ECOFYSのエネルギーシナリオに寄せて~
        熊崎 実(筑波大学名誉教授・日本木質ペレット協会会長)

・思考実験としてのシナリオ
 今年の初めにWWFは「再生可能エネルギー100%」のビジョンを公表し
ました。その基礎になっているのが、オランダに本拠を置く著名なコンサル会
社ECOFYSが作成したエネルギーシナリオです。大きな筋書きとしては、
2050年までに化石燃料と原子力を再生可能なエネルギーに置き換えるとい
うものです。
 脱化石燃料を目指す長期シナリオはすでにいくつも公表されていますが、バ
イオマスエネルギーに限って言えば、ECOFYSのシナリオは、気配りがよ
く行き届いていて、一番の出来ばえではないかと思います。たぶんバイオエネ
ルギーに詳しい優秀なスタッフがこのコンサル会社にいるからでしょう。彼ら
はドイツ太陽エネルギー協会(DGS)の依頼で『Planning and Installing
Bioenergy Systems』(Earthscan、2005)という優れた書物をつくってきました。
バイオエネルギー・システムの設計や機器の設置に携わる人たちの必読書にな
っています。
 ECOFYSのエネルギーシナリオは一種の思考実験です。自然エネルギー
100%の社会が40年後に簡単に到来するとは思えません。問題はどのよう
な条件がそろえば、そのような社会が実現するかということです。私の専門領
域に即して言えば、「化石燃料や原子力の利用がなくなったときに、バイオマス
にどのような負担がかかってくるか」を示唆してくれるのです。

・バイオマスの究極の出番
 問題のシナリオの全体像は図1に描かれています。世界全体のエネルギー消費
量(供給量)は2000年の270EJから始まって、2030年の350EJにまで上昇し、
2050年には260EJに減少しています。人口が増加しているにもかかわらず、
エネルギーの最終消費をここまで減らすには、もちろん徹底した省エネが欠か
せません。
 当初、総エネルギー消費の16%でしかなかった再生可能エネルギーのシェアは
50年後には95%にまで上昇しています。バイオマス単独で同様のシェアを求め
ますと、13%から40%に引き上げられている。絶対量でも35EJから105EJへと
きっかり3倍に増えています。
 実のところ、ECOFYSのシナリオ作成者たちは、将来に必要とされるエネルギー
は可能な限り太陽エネルギーや風力、地熱などでまかない、バイオマスは使わな
いようにするという原則をかかげています。それが結果的には総エネルギー消費
の4割をバイオマスに頼ることになった。近年に公表された類似のシナリオのなか
で、バイオマスシェアがこれほど高い例は見当たりません。

Smallbiomass1(変換後)


 なぜそうなったかと言えば、化石燃料を全面的に排除しているからです。シナ
リオでは熱の利用を極力抑えて再生可能なエネルギーによる「電化」を進めてい
るのですが、それではカバーしきれない領域が残ってしまうのです。例えば、
長い距離を走る航空機や船舶に使われる燃料がそれですし、また製造業や機械工
業、製鉄業などの一部の工程で要求される高温熱もその典型例です。この部分は
バイオマスで埋めるしかありません。
 現在のところ、バイオマスのエネルギー利用で主流になっているのは暖房や給
湯などの低温の熱供給ですが、こちらのほうはある程度太陽熱や地熱でカバーで
きる。したがって将来的には、バイオマスの主たる仕向け先が輸送用の燃料と工
業用の高温熱に収斂していく可能性は十分にあります。ECOFYSが描いた図1の
シナリオではまさにそれでした。
 化石燃料も元をただせば遠い昔に生きていた生物であり、その意味ではバイオ
マスとは近縁関係にあります。石炭や石油がなくなることで、エネルギーのみな
らず、成分利用やマテリアル利用の分野で、さまざまな穴が開くことになります
が、バイオマスを使えばたいていの穴を埋めることができる、それがバイオマス
の最大の特徴と言えるかもしれません。

・安定供給の難題
次にバイオマスの供給面に目を向けます。図2によれば、現在では「在来的な木質
燃料」が圧倒的なウェートを占めています。これは発展途上国を中心に大量の木
材が燃料用に伐採されているからですが、この部分は2030年頃までにゼロになる。
代わって増えてくるのが農林産物の生産・加工から排出される残さや有機系都市
廃棄物などの「残廃物」です。これらは放置すると環境汚染にもつながるもので、
エネルギーとして率先して利用すべきバイオマスとされています。

Smallbiomass2(変換後)


 2番手に登場するのが森林での「補間伐採」(complementary fellings)です。
毎年森林で成長する林木ストックのうち、建築材やパルプ材などとして伐り出され
ない部分を、持続可能な形で利用することを狙っています。「成長量」と「伐採量」
の差分の利用ということで補間伐採と訳しておきました。
 日本の例で言えば、森林の成長量は1.2憶m3程度と推計されていますが、伐採量と
して統計に計上されているのは0.35億m3程度。この差分が補間伐採の候補になるの
ですが、総量の半分がエネルギー用として収穫できるとしたら結構な量になります。
かつて薪炭林として利用されていた広葉樹林の成長分が有力な候補になるでしょう。
ECOFYSのシナリオでは、在来型の木質燃料のうちの1/3だけが持続的に生産されて
いると見て、この部分を補間伐採に組み込んでいます。
 ところで、残廃物というのは農林業生産や人びとの消費活動の結果として生じるも
のですから、調達できる量におのずと限界がありますし、また補間伐採の場合には、
林木ストックの成長量以上には収穫できません。残念ながら、この二つだけでは必要
なバイオマスがまかなえないのです。
 そこで3番目に「エネルギー作物」が登場します。優先される作物としては輸送燃料
が得やすい菜種やオイルパーム、シュガーケインやメイズがまず入ってくるでしょう。
さらには成長の速い草本(エレファントグラスやミスカンサス)や木本(ヤナギや
ユーカリ)も植えられるはずです。
 エネルギー作物の栽培に必要な土地は世界全体で2.5億ha(農地面積の1/6)。WWF
では、食料や木材の生産に要する農林地の転用や、環境保護に必要な森林などの開発は
やらないとしています。灌水の必要な乾燥地も除外されている。となると土地を見つけ
るのが容易ではありません。結局、対象になるのは主として粗放に利用されている放牧
地などに限られてきます。放牧地が減れば肉などの生産が当然落ちてくる。先進国の
住民は肉の摂取量を半分にし、途上国の人たちも少ない肉で我慢するよう求められてい
るのです。

・見えてきた一筋の道
 ECOFYSのシナリオにしたがって、2050年までに再生可能エネルギー100%の社会を
実現しようとすると、バイオマスに相当な負担がかかるのは明らかです。エネルギー作物
の栽培に大きな面積が取られるだけでなく、エネルギー用として森林から伐り出される
木材の量も45億m3と言いますから、これは現在の総木材生産量33億m3(燃料用+産業用)
を大幅に上回っています。
 このシナリオでは、すでに実用化されているか、あるいは実用化が確実に見込める技術
を前提にしています。ただその例外としてオイル用藻類の栽培が2030年以降に実用化する
と見て入ってきている。そうでもしないと辻褄が合わないのでしょう。少し無理をしてい
るのではないかというのが、率直な感想です。しかしそのことを非難しているのではあり
ません。
 おそらく40年後に化石燃料と原子力の利用をゼロにするというのは、いささか非現実的
な目標というべきでしょう。多少時間が余計にかかるとしても、減少していく化石燃料を
できるだけ上手に使って、再生可能なエネルギーとのベストミックスやベストコラボレー
ションを探求していけば、それほど無理をしないで脱化石燃料の時代が迎えられるのでは
ないか。WWFのエネルギーレポートを一読して、その思いを強くしました。
 最後に意地悪じいさんのコメントを一つ。WWFジャパンは本レポートの要約版を日本語
で公表していますが、そのなかでcomplementary fellingsを「間伐」、energy cropsの
cropsを「穀物」と訳している。これが完全な誤訳であることは、小論からも明らかでしょう。
これらは特別の専門用語ではありませんし、英語の本文の中で繰り返し説明されているこ
とですから、少し注意していれば、この種の間違いは避けられたはずです。



        熊崎 実(筑波大学名誉教授・日本木質ペレット協会会長)
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