上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
4.ベルリンの風 第8回 比較による謎解き
                     山下紀明(ISEP主任研究員
           /ベルリン自由大学環境政策研究センター博士課程)

 1月のベルリンは気温零度前後と寒いものの雪はほとんど降らず、12月に
積もった雪もすっかり解けてしまいました。そんなある日、一人の博士候補生
が環境政策研究センター(FFU)の会議室でディフェンスに臨みました。
 ディフェンスとは博士論文を提出した後の口頭試問です。その場で自らの論
文の正当性を守りきれば晴れて博士として認められます。形式は国や大学、学
部によっても異なりますが、FFUでは指導教官を含む5人の教授陣を相手に
20分のプレゼンテーションと2時間ほどの質疑応答が課されます。
 今回ディフェンスを行った同僚は、欧州各国における自然エネルギー電力の
固定価格買取制度が収斂してきた要因を研究してきました。彼は数百ページに
渡る論文の内容を短い時間で端的に述べ、教授陣からの質問に対しては理論も
現実もふまえた上で時折ジョークを交えつつ回答。博士を名乗るにふさわしい
資質を示し、見事に審査を通りました。自分も数年後には今の研究をまとめ、
ディフェンスを行うのだと想像し、身の引き締まる思いでした。

 今回から2回にわたり、これまでの研究から明らかになったことを述べて
いきます。指導教官は「研究は推理小説に似ている」と言います。ある事件(社
会的に重要な出来事)に対して、研究者はWho done it?(=誰がそれをしたの
か?)やHow done it?(どうやってしたのか)を、データや証言を集めて当時
の状況を再構築した上で、そこに含まれる謎を解き明かしていきます。特に比
較政治学は、単に各ケースの状況を羅列するのではなく、それぞれの共通点と
相違点を比較することで、それらにまたがる謎を解き明かすことに本質があり
ます。
 私にとっての謎は、「なぜ、ときには悪条件の中でさえも、いくつかの都市は
積極的な気候変動政策、特に再生可能エネルギー政策を発展させることができ
たのか?」です。そこには外部要因と内部要因があり、今回は外部要因につい
て考察します。
 これまでの連載でご紹介してきたように、私の研究調査地は東京、バルセロ
ナ(スペイン)、ハンブルク(ドイツ)です。3カ国とも自然エネルギー、特に
太陽エネルギーの推進で重要な地位を占めてきました。一方で気候変動政策全
般についての姿勢は大きく異なり、日本は停滞中、EUの中では後追い型のス
ペインと先導役のドイツとに分かれます。
 研究の中で顕著な違いが見られたのは、都市の太陽熱推進策でした。東京都
は補助制度の開始にあたり、ISEPや事業者と協力して太陽熱利用システム
の製品規格の再整備、グリーン熱証書制度の立ち上げを働きかけました。さら
に公共建築物への太陽熱導入ガイドラインや大規模開発時の自然エネルギー導
入検討義務も整備しています。バルセロナは新築・改修時の太陽熱導入義務化
を発案し、現在でも国よりも厳しい基準を設定していますが、金銭的な補助制
度はありません。他方ハンブルクでは補助金はあるものの、他に特筆すべき制
度はありません。
 こうした独自制度の違いの説明する外部要因として、一つは国の政策の空白
(ギャップ)、もう一つは自治体の権限が考えられます。3都市を比較すると、
国の制度のギャップが大きい日本やスペインで独自の取組みが行われています。
そのギャップをどのように埋めるのかは、自治体に備わっている権限とそれを
活用する工夫が大きく関わってきます。
 東京とバルセロナについては、自治体が制度を形成する時点で、国による自
然エネルギー熱利用の政策は手つかずの状態でした。東京は本来国が主導する
べきであろう製品規格やグリーン熱証書スキームの制度を自ら整備。さらに建
築規準に加える形での太陽熱導入義務化は権限上難しいものの、大規模開発時
の検討義務化として一部導入に成功しました。バルセロナでは太陽熱義務化に
あたって、既存の建築規準に組み込んだ点に工夫が見られます。新たな条例を
作る際には権限の議論が起こると想定されたため、既存の制度を改正して入れ
込むことで、摩擦を避けたのです。
 ハンブルクでは国の自然エネルギー導入義務化があるため、現在策定してい
る気候変動マスタープランでも太陽熱についての目新しい施策は検討されてい
ないようです。
 次回は上述の謎を解くためのもう一つの鍵、内部条件について紹介します。

                   山下紀明(ISEP主任研究員/
            ベルリン自由大学環境政策研究センター博士課程)
スポンサーサイト
Secret

TrackBackURL
→http://isepseenarchive.blog88.fc2.com/tb.php/482-cc4e2951
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。