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1.風発:よくわかる自然エネルギー(5)
                       飯田哲也(ISEP所長)

・実現へのラストチャンス

 自然エネルギーの普及政策は、電力・温熱・輸送燃料という三つの需要側
に分類して考えることが多い。今回は、まず電力分野での自然エネルギーの
普及を考える。
 自然エネルギー発電の分野は、水力発電が古くから実用化されているが、
近年の状況はまったく異なるものだ。風力発電や太陽光発電に見られるよう
に、近年は「政策による普及」によって、自然エネルギー発電が爆発的に広
まりつつある。
 1990年ごろからドイツや英国、デンマークなどで電力市場を活用した
新しい普及制度が次々に試みられてきた。その中で、2000年にドイツで
改良された固定価格制度(自然エネルギー電力を一定価格で長期間購入する
ことを定めた制度)が、「最も成功した環境政策」と呼ばれるほどの成功を
収めたのである。
 なお、従来の大型ダム式の水力発電は、河川環境や地域社会に与える影響
が大きいため、こうした政策の対象外となっている。
 実は、日本も10年程前まで、議員立法でドイツとほぼ同じ固定価格制度
を導入する試みがあったが、官僚と電力会社の反対に遭い、現状の固定枠制
度(電力会社に一定の量の自然エネルギー購入を義務づける制度)へと姿を
変えた経緯がある。
 この固定枠制度は、本家の英国などでも失敗したもので、日本もこの制度
選択の結果、「自然エネルギー後進国」へと転落したのである。
 今、固定価格制度が見直され実現の機運が高まってきているが、まだ問題
が山積みだ。特に、かつて固定価格制度に反対した官僚や審議会委員が制度
設計しているため、過去の失敗や経験が十分に生かされておらず、各方面か
らの懸念を真摯に受け止める姿勢にも欠けている。
 「21世紀の産業」として出現しつつある自然エネルギーの分野で、新た
な一歩を踏み出すには今がラストチャンスだ。官僚と既得権益による「国益
の喪失」を避けるために、政治が未来への選択を主導すべき時であろう。

・「変動型電源」普及の鍵握る

 電力分野での自然エネルギーの普及では、「固定価格制度」のほかに、電
力系統との連係・接続が重要な鍵を握っている。
 なぜなら、自然エネルギーの中で最もコストが下がり、普及の先頭に立っ
ている風力発電、そして将来的に最も大きな可能性が期待される太陽光発電
の両方が、自然条件によって時々刻々と発電量が変わる「変動型電源」であ
るからだ。
 電力は、基本的に発電量(供給)と消費量(需要)を常に一致させておく
必要がある。そのため従来は、消費量の変動に合わせて発電量を調整し、時
には揚水発電なども使って需給を調整してきた。そこに発電量が大きく変動
する自然エネルギーが入ってくると、調整はさらに困難になるという心配だ。
 とはいえ、日本の現状では風力発電などの割合が低いため、ほとんど問題
は生じない。むしろ電力系統に接続しなければ「市場に参入」できず、普及
できないことから、欧州を中心に、送電系統に自然エネルギーを他の電源よ
りも優先して接続する「優先接続」の原則が早くから確立されてきた。
 さらに電力市場改革が先行している欧州では、送電会社が発電会社や電力
供給会社から切り離されており、普及する自然エネルギーによる電力変動を
緩和し、調整するための「スーパーグリッド構想」が進む。
 これは、出力調整に向く北欧の大型水力と北海の洋上風力群と欧州を結ぶ
もので、送電会社は「将来世代のために自然エネルギー用の送電線を作る」
と胸を張る。
 地域分散型の自然エネルギーが地域に便益をもたらす形で普及するにつれ
て、送電線は電力会社の私物から、高速道路のような公共財に変わりつつあ
る。
 片や日本はどうか。電力会社は、風力発電による電力系統への影響を過剰
に心配し、風力発電に対して厳しい制約を課している。欧州や北米・中国な
どの風力先進国と対比すると、「安定供給」と送電線が、独占を維持するた
めの方便に堕ちているのではないか。

・賢い電力網-実用化に向けた開発を推進

 電力分野での自然エネルギー普及のため、重要な鍵を握る電力系統の将来
像として、「スマートグリッド」(賢い電力網)が期待されている。
 スマートグリッドは、オバマ大統領のグリーン・ニューディール予算の中
で取り上げられてから一躍注目され、今や世界中でバブル的なブームの様相
を呈している。
 特に、その助言者に米インターネット検索大手「グーグル」がかかわるな
ど、話題に事欠かない。
 スマートグリッドとは、情報技術(IT)やスマートメーター(賢い電力
計)を用いて、省エネルギーや分散型電源・バッテリーなどを統合した需給
調整も行うことがイメージされている。やがては、オープンな電力市場の情
報や取引を活用し、分散型の自然エネルギーを分散型の需要家に供給する「
仮想電力会社」など、まったく新しい電力サービスや電力市場を生み出す可
能性を秘めている。
 現在、スマートグリッドは自然エネルギーの普及に欠かせないと喧伝され
ている。自然エネルギーを大量導入した際の出力変動を、家庭の電気機器や
電気自動車の蓄電池等、需要側をスマートグリッドで調整することが期待さ
れているからだ。
 そのため国は、スマートグリッドの開発実証事業に巨額の予算をつけ、国
内はもとよりアメリカなどとも連携した開発を進めようと鼻息が荒い。必ず
しも間違った方向ではないが、開発実証事業だけが先行し、制度や市場が置
き去りになっている状況は、自然エネルギーの普及やスマートグリッドの実
用化という点でバランスを欠いている。
 自然エネルギーの普及には、スマートグリッドの実用化以前に、既存の系
統を最大限活用するための優先接続や運用ルールの整備が急務である。それ
によって特段の系統整備をしなくても、相当な自然エネルギーを増やすこと
が可能だ。
 スマートグリッドを構成する技術やソフトウエアは、10年以上も前から
取り組まれてきたものだ。今後も技術開発の重要性は論をまたないが、それ
以上に重要なのは、日本の閉じた電力市場をオープンにすることだ。そうし
た制度や市場の整備を急がない限り、ここでも新たな「ガラパゴス」(世界
標準からかけ離れた市場)が生み出されることになりかねない。

「聖教新聞」2010年7月26日、8月9日号、8月23日号掲載

                       飯田哲也(ISEP所長)
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