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6.デンマーク・オールボーから(4):留学と情報環境
       古屋将太(Aalborg University, PhD student/ISEP fellow)

時間が経つのは早いもので、21世紀の最初の10年が過ぎ、残り90年とな
りました。何かの間違いがない限り、私は22世紀を迎えることはないとは思
いますが、この10年のインターネットを含む情報環境の変化の大きさを振り
返ると、22世紀の情報環境がどのようになっているのかまったく想像できま
せん。年末年始は、そういったことを考えながら棚を占領している資料や書籍
をスキャナーで次々と電子化していたのですが、この機会に留学と情報環境に
ついて書いてみたいと思います。

まず思い出すのが、学部時代に留学していた友人が、大量のデータをCD─R
に焼いて持って帰ってきたことです。データの内容は音楽やマンガだったかと
思いますが、00年代前半の当時からすでに留学に際して情報を電子化して持
ち運ぶという行動ははじまっていたようです。しかし、このときあくまでも「そ
のまま持っていくとかさばる荷物の物理的な量を小さくする」という意味での
電子化だったようです。

その後、00年代後半に入り、私自身も留学することになったのですが、まず
感じたことは学術雑誌の電子化についての英語圏と日本語圏での落差でした。
これは単純に市場規模の違いによる部分が大きいのだろうと思いますが、英語
圏の学術雑誌の大半は大手出版社が紙版と電子版の両方を手がけており、論文
がPDFで手に入らないということはまずありません。一方、あくまでも私が
関心をもっている範囲内ですが、日本の学術雑誌の論文がPDFで手に入るこ
とは(大学の紀要等を除き)ほとんどありません。

次に感じたことは、論文の電子化は進んでいるといっても、やはり紙の書籍は
「連続性をもったひとつの情報の単位」なのであるということでした。参考文
献を探す際に、ある議論の文脈を辿っていくと、必ずその分野の「スタンダー
ド」として認識されている書籍に行き着きます。博士論文を書くということは、
そういった文脈を掘り起こすことを繰り返し、まさに「巨人の肩の上」に乗っ
て何らかのプラスαを加える作業なのですが、Googleブックスで一部を見るこ
とができるとはいえ、書籍に関しては紙版で手に入れることが多いのが現状で
す。

しかし、10年代に入り、書籍の電子化も量的・質的両方の意味で変化を迎え
つつあると感じます。私は、新しい情報環境の中に入り込んで遊ぶことが好き
な性格なので、昨年一時帰国した際にiPadを手に入れ(※1)、電子書籍とは
どんなものかひと通り試してみたところ、最近では、まずAmazonアメリカの
Kindle eBook Storeで検索し、電子版がなければAmazonドイツもしくはAmazon
イギリスで紙版を探すというように行動が変わってきました(※2)。やはり「そ
の場で手に入る」「検索できる」「ハイライトやノートを残せる」「紙版よりも若
干価格が安い」という電子版のメリットは大きいと思います。

こうした情報環境の変化はますます「世界をフラット化(※3)」させ、ともす
れば「たいていの情報はどこでも手に入るからわざわざ留学する必要もないの
ではないか」という考え方も出てくるかと思います。しかし、どんなに情報環
境がフラット化しても、掘り起こそうとする文脈やキーワードは、現実で空間
を共有する他者と対面でコミュニケーションする中で出会うことが多く、それ
は「情報」に置き換えることができない「知識」なのだろうと思います。これ
からの留学の意味というのは、「スパイキーな世界(※4)」に偏在する知識に
辿り着き、「フラットな世界」の情報を最大限活用することにあるのではないか
と思います。


※1 デンマークではつい最近までiPadは販売されていませんでした。

※2 AmazonのKindle eBook Storeはイギリスでも展開しているものの、現
在購入できるのはイギリス在住者に限定されています。また、デンマークでは
Amazonそのものがないので、書籍を買う場合はAmazonドイツもしくは
Amazonイギリスを利用することになります。

※3 ニューヨーク・タイムズ紙コラムニストのトーマス・フリードマンは、
ICTの進歩により人間活動の舞台は均一化が進んでいるとして、「世界はフラ
ットだ」と提唱しています。(トーマス・フリードマン著/伏見威蕃訳『フラッ
ト化する世界』(上・下巻)日本経済新聞社)

※4カナダ・トロント大学教授のリチャード・フロリダは、フリードマンの主
張に対し、イノベーションの担い手であるクリエイティブ・クラスはより居心
地の良い場所を求めて都市などを移動しており、その集積を地図上で見れば現
実はむしろ「スパイキーな世界」であると主張している。(リチャード・フロリ
ダ著/井口典夫訳『クリエイティブ都市論』ダイアモンド社)

       古屋将太(Aalborg University, PhD student/ISEP fellow)
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