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2.連載「光と風と樹々と」(26)─ 元気な町・葛巻のエネルギー
                長谷川公一(環境社会学者 東北大学教員)

■ないもの探しから、あるもの探しへ
 「新幹線もない、高速道路もない、ゴルフ場もない、リゾート施設もない、
温泉もない、「有名人」がいたわけでもない」。それなのに、岩手県葛巻町は元
気な町だ。50歳代半ばの町長はじめ、森林組合の参事、畜産開発公社のふれ
あい交流室長等々、みんな溌剌として、この町に誇りを持っている。6月4日
から6日まで、久しぶりに葛巻町を訪れた。なぜこの町は元気なのか。環境社
会学会のセミナーに参加した110余名がほぼ共通に抱いた疑問だ。

■年間50万人の入込客数──自然エネルギーのメッカ
 葛巻町は、人口7678人、世帯数2890の北上山地の高原の町だ。新幹
線の沼宮内駅(東京から最速で2時間40分)から町の中心部までバスで約
50分、盛岡駅からバスで1時間40分。酪農と林業の、この町を一躍有名に
したのは風力発電と木質バイオの自然エネルギーである。長年この町をフィー
ルドにしている岩手大学や岩手県立大学の研究者によると、脚光を浴びるよう
になったのはこの10年ぐらいだそうだ。現在年間約50万人の入り込み客数
があり、そのうちの30万人はエネルギー関係の人たちではないかという。役
場の農林環境エネルギー課は、昨年は年間約200回、一昨年は300回、視
察に対応したという。

■山間高冷地での風力発電のパイオニア
 葛巻林業が木質ペレット製造を始めたのは1981年。日本のペレット製造
の草分けである。
 風力発電は、袖山高原に、町も出資する第三セクター、エコ・ワールドくず
まき風力発電所の400kWの発電機が3基ある。1999年6月に稼働。
1000mの山間高冷地での商業用発電の日本初のケースだった。トラブルが
多く、稼働率はそれほど高くないという。上外川(かみそでがわ)高原では、J
パワー(電源開発)の1750kWの風力発電機が2003年12月から12基
稼働している。年間想定発電量は前者が約200万kWh、後者が約5400
万kWh(稼働率は約29%ときわめて高い)。合計5600万kWhは、1世
帯あたりの年間の電力需要を3500kWhとすると、1万6000世帯分の
需要に相当する。一般家庭での電力需要でいうと、町の全世帯数の5.5倍の
電力需要をみたしうるだけの設備量である。固定資産税は双方で3300万円。
町全体の固定資産税収入が3億円というから、その11%は風力発電機が稼い
でいることになる。
 大規模な風力発電を行うには、風況データと高圧送電線とアクセス道路が必
要だが、幸いなことに、1975年から北上山地で大規模酪農開発が行われた
際に、これらが基本的に準備されることになったという。
 2000kWの風力発電機25基づつ2サイトを建設しようという計画はあ
るが、2003年4月から施行された新エネルギー特別措置法によるくじ引き
がここでも足枷となり、計画の実現を阻んでいる。

■多彩な自然エネルギー事情
 家畜の糞尿から電気と熱を取り出す畜ふんバイオマス・システム、木質バイ
オマスガス化発電設備、ペレットボイラー、冷暖房を地中熱で賄うゼロエネル
ギー住宅など、町に設置された自然エネルギー施設の種類は多い。町が紹介し
ている自然エネルギー施設は、16箇所にも及ぶ。経産省「新エネ百選」(20
09年4月)にも選ばれた。
http://www.town.kuzumaki.iwate.jp/images/library/File/エネルギーマップH21_3_1.pdf
 基盤にあるのは、第三セクター葛巻畜産開発公社による酪農事業である。町
内・関東方面の酪農家から生後3ヶ月から6ヶ月までの雌の仔牛を2年間預か
り、妊娠牛で返す事業を行っている。預かり料は1日1頭あたり500円。
2000頭を預かっているから、これだけで1日100万円、年間で3億65
00万円の安定的な収入になる。
 酪農をもとに、ヤマブドウを使ったワイン醸造、自然エネルギーによる地域
づくりへと展開してきた。風力発電で町が有名になることによって、酪農やワ
イン醸造にもイメージを高め、需要を拡大するプラスの波及効果がある。「北緯
40度ミルクとワインとクリーンエネルギーの町」が町のキャッチフレーズで
ある。
 東京豊洲のららポート豊洲内に、「キッザニア東京」という子どもたちが本物
そっくりのユニホームなどを着て職業体験できるテーマパークがある。5月
26日からは、葛巻町森林組合による、葛巻町のナラをつかった枝打ち体験パ
ビリオンの常設出展も始まった(同森林組合が参加するNPO法人・オフィス
町内会による出展)。一次産業の出展は初めてである(2010年5月21日付
岩手日報)。

■市民・地元女性によるプロジェクトも
 これらは町主導のプロジェクトだが、吉成信夫氏らによる分校の廃校をリニ
ューアルしたエコ・スクール「森と風のがっこう」のような市民的なプロジェ
クトや、地元の女性による、水車で回す石臼で挽いた地元産のそば粉を使った
農家レストラン「森のそば屋」など、魅力的な取り組みが多い。
「森と風の学校」
http://www5d.biglobe.ne.jp/~morikaze/
「森のそば屋」
http://www.pref.iwate.jp/~hp020102/morinosobaya/index.html

■六ヶ所村のもう一つの可能性
 葛巻町を移動し、高原を見下ろしながら思うのは、この町と対照的な、むつ
小川原開発と核燃料サイクル施設に翻弄され続けてきた青森県六ヶ所村のあり
ようである。両者に部分的に共通する本州離れした高原状の景観は、内発的発
展という、ありえたかもしれない、もう一つの六ヶ所村の可能性を想起させる。

                長谷川公一(環境社会学者 東北大学教員)
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