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1.風発:ビル・ゲイツの「夢の原発」とは?
                       飯田哲也(ISEP所長)

 『ビル・ゲイツが東芝と組んで「夢の原子炉」を開発』
 日本経済新聞の3月23日朝刊で一面を飾ったスクープ記事をご覧になった
方は多いと思います。ウィンドウズであれほど成功した同氏が、地球温暖化防
止のために、いよいよ原発開発に乗り出すというこの記事を見て、無邪気に喜
んだ人、不安を感じた人、やっぱりと思った人などさまざまでしょう。
 ところがこれは、ひと言でいえば、ゲイツ氏の少しはた迷惑な「勘違い」に
よるもので、まず実現性はなく、あまり心配する必要はなさそうです。

■ゲイツの勘違い
 ゲイツ氏が資金支援する米原子力ベンチャーのテラパワー(米ワシントン州)
は、TWR(Traveling Wave Reactors)と名付けられた、安く安全で長寿命の
「夢の原子炉」を2020年代に実用化を目指しています。日経のスクープの
内容は、東芝がその次世代原子炉の開発に協力をするというものです。
 ゲイツ氏は、この原発開発を念頭に置いて、今年2月の「TED Conference」
でも「エネルギー奇跡が必要」という講演をしています。世界一の富豪で途上
国の貧困救済を目指すゲイツ氏は、ご承知のとおり、世界最大の慈善財団を通
じて、真剣に地球の未来に貢献しようとしているのだと思います。
 ところがゲイツ氏は、少なくとも2つの致命的な「勘違い」をしています。
第1に、後述するように、原発は温暖化防止やエネルギー危機に役立ちそうに
ないこと。第2に、エネルギー奇跡には、「新技術開発」ではなく「既存技術の
普及」が必要ということを理解していないことです。そのため、ゲイツ氏のT
EDでの「エネルギー奇跡」の講演は、米国を代表する環境エネルギー専門家
(ジョセフ・ロム氏)からは酷評されています(ビル・ゲイツが「エネルギー奇
跡」で間違っていること)。
 ゲイツ氏自身が、今日のPCやインターネットの革新が、「新技術開発」では
なく「既存技術の普及」によって引き起こされたことを自ら語っているにもか
かわらず、温暖化対策では真逆のことを言っているのです。
 さらにゲイツ氏は、親友の富豪投資家ウォーレン・バフェット氏とともに、
気候破壊と自然破壊で最悪と言われるカナダのオイルサンド採掘現場に「投資
マインドを持って」訪問しています(カルガリーヘラルド紙)。また、ゲイツ財
団は、これまで温暖化防止にはほとんど関心を示さず、バフェット氏は温暖化
防止に反対しています。
 これらは、「RE<C」(自然エネルギーを石炭よりも安くする)という目標
を掲げて、分散型の自然エネルギー普及を目指すグーグルとは対照的です。「ゲ
イツ原発」も、社会のための革新(イノベーション)よりも、ビジネスマイン
ドでの投資(インベスト)が先行しているように思えてなりません。

■日本の勘違い
 原発を巡る「勘違い」といえば、日本も負けていません。最近では、アラブ
首長国連邦(UAE)への原発輸出競争で韓国に破れ、ベトナムではロシアに
破れたことで、自尊心とナショナリズムを刺激されたのか、「官民一体のオール
ジャパン体制で原発輸出を!」といった威勢の良い言葉が飛び交い、力こぶが
入っています。
 ところが、その是非をいったん横に置いて、実現性から見ると、幸いにも心
配しなくてよさそうです。なぜなら日本では、「官民一体のオールジャパン体制」
で成功した例がほとんどないからです。一般に国策プロジェクトは、官僚の「上
から目線」や権威主義、縦割りの弊害などで、オープンで自由創発的な知的コ
ミュニティからはほど遠い「空気」が支配します。そのため、第5世代コンピ
ュータ、日の丸ロケット、事業仕分けで話題になったスパコンなど、いくら予
算をつけても、それに見合った成果が生み出されない例は、枚挙にいとまがあ
りません。加えて、輪を掛けて抑圧的な「空気」が支配する原子力では、高速
増殖炉もんじゅや東海村臨界事故(当事者は民間企業だが、国策プロジェクト
の一環での事故)などに見られるように、いっそう無残な状況にあります。


■ナイーブ(無邪気)な原発輸出論
 もちろん、原発輸出については、「是非」も問う必要があります。
 UAEやベトナム、その先にはヨルダン、インドネシア、タイと、原発も原
発技術も持たない国への原発輸出の構想が続きます。過去、イスラエル、イラ
ク、イランのすべてが原発輸出から核拡散へと繋がりうることを立証した歴史
を振り返ってみても、途上国への原発輸出は、原発そのものへの是非とは無関
係に、慎重さが必要です。そのことは、原発開発に前のめりだったブッシュ前
米政権下でさえ、原発推進・慎重の両方の専門家が一致して警告しています
(Keystone報告)。京都議定書でも、途上国支援(クリーン開発メカニズム、C
DM)に関しては「原子力の利用を避けるべし」と定められたゆえんです。
 ましてや日本は、核燃料の供給や核廃棄物の再処理に責任を持つことができ
るわけではなく、また原発を持たない途上国において、技術移転管理や安全保
障に責任を取れる態勢はありません。
 そのような慎重な配慮も姿勢も欠いたまま、また自らの力量も顧みず、「日本
の優れた原発技術を活かす商機だ」というのは、いささかナイーブ(無邪気)
と言わざるを得ません。

■原発推進・反対の二項対立を越えて
 原発を巡っては、推進と反対との対立で、日本社会がずっと二分されてきま
した。政権が代わっても、国の極端な「推進姿勢」は変わらず、先の地球温暖
化対策基本法案でも「原発推進」の条項が盛り込まれました。また、「わくわく
原子力ランド」という、まるで戦前の「教育勅語」を思い出させるような「国
策教科書」が、小学生のためのエネルギー副読本として臆面もなく配布されて
います。
 このように公共政策としてのバランスを欠いた国のもとでは、原発に対する
あらゆる問題提起は、即座に「反対派」として退けられてきました。そのため、
真正面から議論すべき論点がほとんど議論されず、それがますます問題を大き
くしてきたように思います。
 たとえば温暖化対策では、原発に頼り切った計画が頓挫し、それを石炭火力
で埋め合わせたことで、日本の温室効果ガスがプラス9%(1990年比)も
の排出増となりました。安全性と温暖化対策をどのように両立させるのか、推
進と反対を越えてリアルに問題点を見極め、対策する必要があります。
 また今後の温暖化対策や懸念の高まってきた石油ピーク危機に対しては、5
~10年という限られた時間との競争になりますが、原発はあまり大きな期待
はできません。コストが高く、経営リスクも高く、ウラン供給の見通しが不透
明といった理由に加え、何と言っても速効性がなく、間に合わないのです。し
かも日本をはじめとする先進国では、老朽化のために原発の総設備容量が一気
に減少していくことが予想されています。
 原発依存しすぎた温暖化対策やエネルギー対策に警告を発した論文が、近年、
数多く報告されています。以下、いくつかを例示しますが、これ以外にもグリ
ーンアクションが日本語で良くまとめています(原子力発電は温暖化対策に有
効なのか?─海外情報から読み解く)。

・ヤコブソン・スタンフォード大教授「原子力は、高く、遅く、リスキーなオ
プション」(2010年2月22日)
http://edition.cnn.com/2010/OPINION/02/22/jacobson.nuclear.power.con/
・シティバンク「新規原発への投資にエコノミストはノー」(2009年11月)
http://www.scribd.com/doc/29017408/091109-CITI-New-Nuclear-the-Economics-Say-No
・マサチューセッツ工科大学(MIT)「ウランの供給は2013年頃に厳しくな
る」(2009年11月)
http://www.technologyreview.com/blog/arxiv/24414/
・ファイナンシャル・タイムス「日本のウラン供給の脆弱性指数は世界2位」
(2009年11月)
http://blogs.ft.com/money-supply/graphics/peak-uranium/
・世界銀行「原子力による短期的なCO2削減効果は限られている」(2009月
10月)
http://econ.worldbank.org/WBSITE/EXTERNAL/EXTDEC/EXTRESEARCH/EXTWDRS/EXTWDR2010/0,,menuPK:5287748~pagePK:64167702~piPK:64167676~theSitePK:5287741,00.html
・コバリエル・スウェーデンエネルギー庁長官「フィンランド原発の建設はど
んどん遅延し、最終的に総建設コストは2兆円、発電コストは200円/kW
時を越える」(2009年8月)
http://www.polsoz.fu-berlin.de/en/polwiss/forschung/systeme/ffu/veranstaltungsarchiv/09_salzburg_conference.html
・マサチューセッツ工科大学(MIT)「原発のコストは急激に上昇している」
(原子力の将来)(2009年5月)
http://web.mit.edu/ceepr/www/publications/workingpapers/2009-004.pdf
・エイモリー・B・ロビンズ「『原子力は競争力があり必要で信頼でき安全で安
い』というのは妄想だ」(2008年)
http://rmi.org/rmi/Library/E08-01_NuclearIllusion

 以上は、経済面と現実面からの冷静な分析に過ぎませんが、これらに加えて
核拡散の問題や核廃棄物、潜在的な事故のリスクといった、過去、長く議論さ
れてきた原発固有の問題群があるのです。
 原子力政策について、推進と反対との対立をいったん棚上げして、まずは現
実を直視し、直面する問題に関する共通認識を持つことから出発してはどうで
しょうか。かつて反対論は「空想的」と退けられましたが、今や現実を見ない
推進論こそが「妄想」と化しつつあるようです。

                       飯田哲也(ISEP所長)
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