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6.書評:『グリーン・ニューディール』(NHK出版)
        /『日本版グリーン革命で経済・雇用を立て直す』(洋泉社)
    入江理沙(ISEPインターン
             /コロンビア大学国際公共政策大学院 修士課程)

 1)環境政策における日米格差の実況レポートを読もう
   ?『グリーン・ニューディール 環境投資は世界経済を救えるか』

「Cool!」「気持ちのいい仕事」「希望を持てる」と人々が誇らしげに語る職業
‐グリーン・カラー。今、世界中がこのビジネスに熱い。この本は、アメリカ
で環境産業が発展してきた経緯を、躍動感ある数々のエピソードで語っている。
前半ではポジティブな表現が多い一方で、次第に「不安」「未来はない」「憤り
と落胆」といったネガティブな描写が目に留まるようになる。なぜなら後半は、
日本の環境政策に題目を移し、危機感と焦燥感に駆られたテンポで概説してい
るからである。この対比から、あなたは何を感じるだろうか。

NHKの異なる支部局から構成される取材班が、アメリカと日本のグリーン・
ニューディールの内容や具体的事例を編纂し、序章と終章に日本総研理事長の
寺島実郎氏とISEP所長の飯田哲也を迎えて完成したファクトシートがこの
本である。気候変動、経済危機、エネルギー安全保障を背景に両国が推進する
自然エネルギー政策は、同じ名の元に掲げられてはいるものの、実際には決定
プロセスや社会経済効果に大きな格差があるという。臨場感溢れる現場のレポ
ートを読み進めるうちに、あなたはその現実に否応なく直面するであろう。こ
こで、両国がどのように自然エネルギー産業に投資してきたのか、一端を垣間
見てみよう。

アメリカのオバマ政権は、経済再建の主幹として、15兆円のグリーン投資と
500万人の雇用を創出する「グリーン・エコノミー政策」を採択した。この
政策は、環境ベンチャーへの巨額投資やスマート・グリッドの技術開発を活発
にすると共に、かつては各州が率いていた自然エネルギー事業や地域振興にも
一層の拍車を掛けた。アメリカの自然エネルギーへの投資額が、3年で12倍
にも急増したという事実には驚愕する。それだけではない。環境産業により、
町が生まれ変わり、人の生き方や価値観までもが刻々と変化する様子が読み取
れる。失業から脱し太陽光発電設置のプロになった若者、荒んだ鉄鋼の町から
風力発電で復興した町、「風の音がお金の音に聞こえますよ」という農民。グリ
ーン・ニューディールの恩恵を享受する地域や市民が、業界や官民を横断する
新規共同開発を後押しすることで、社会変革をさらに促進する。アメリカのグ
リーン・ニューディールでは、環境と経済の好循環を形成するからくりが既に
機能しているのである。

環境投資に燃えるアメリカから一転、好循環どころか悪循環が巡る日本の国内
事情も赤裸々に綴られる。先月発表された麻生政権の中期目標「温室効果ガス
90年比8%減」は、国内外からの批判と失望の的になったが、そもそも「日
本版ニューディール」自体が杜撰な環境行政を反映していることをこの本は知
らしめてくれる。リアリティを追求するレポートに、「弱小官庁」「シャビー」
と自嘲する環境省職員の吐露、一国政府の省庁連携を「全面戦争」としか捉え
られない歪曲した行政構図が描かれ、風刺漫画を読んでいる錯覚に陥る。日本
の政策が、意義ある投資ではなく、税金のばらまき作戦と批判される根本的要
因は、長期ビジョンに向けた制度設計を阻む政策策定のプロセスに潜むという
事実をあなたは眼前にするはずである。

とはいえ、日本の環境政策を諦めるのはまだ早い。なぜなら、世界を牽引する
環境技術をフル活用した産学官のグリーンビジネスモデルが、莫大な資金と市
場開拓に燃える人材を伴って、日本で次々と展開され始めているからだ。長年
にわたる知能と技術の集積である日本の自然エネルギー産業市場を国内に勃興
させて空洞化を抑止し、環境投資の基盤を創ることこそが喫緊の課題なのであ
る。この本は、現在の環境ブームが決して盛者必衰の物語に終わらないことを
教えてくれる。さらに、環境投資が日常生活の選択肢の幅を多様化し、その変
化が人、町、地域、国さらには世界までにも縦横無尽に波及することが分かる
だろう。あなた自身が、そうした変化を実感するエピソードの主人公になる日
はそう遠くないはずである。その日の前に、まずはこの本を手に取って、目覚
ましく変化する現場のレポートを味わってほしい。

 2)自然エネルギー社会の構築は「革命」の名に値するのか
        ?『日本版グリーン革命で経済・雇用を立て直す』(洋泉社)

“Yes We Can!”の掛け声から怒涛のごとく立ち上がったアメリカのオバマ政権
は、今まさに産業革命以来の社会構造に旋風を巻き起こしている。その動力が、
自然エネルギーの拡充を根幹とする「グリーン・ニューディール」である。エネ
ルギー政策と雇用政策の連結により、持続可能な環境・社会・経済への転換を
導くこの政策は「革命」と称され、日本でも「日本版グリーン・ニューディール」
に立脚した政府の主導力が求められている。

果たして、グリーン・ニューディールは「革命」の名に値する政策価値がある
のか。そして、自然エネルギー社会の構築は、日本にどのような変化をもたら
しうるのか。こうした疑問への明快な答えと解説が、この本には凝縮されてい
る。ISEP所長の飯田を始め、吉田文和氏(北海道大学大公共政策大学院教
授)、筒井信隆氏(民主党衆議院議員)、田中優氏(未来バンク理事長)が独自
の専門や経験に基づく視点に立ち、私達が目下、地球温暖化に立ち向かう時代
の潮流の一員であることを痛感させてくれる。

4人の論者に共通するグリーン・ニューディールとは、自然エネルギー、緑の
雇用、インフラ整備を主軸とする、政府イニシアティブの環境政策である。金
融経済の崩壊、気候変動、エネルギー安全保障の脅威という現代の三大危機に
対処することを目的とする。かつての化石燃料依存型の中央集権から、自然エ
ネルギー創出型の地域分権へと移行することで、国内の地域資源に基づく自立
的発展が新たな産業を育成し、国の国際競争力や持続可能性を向上させる多大
な効果を持つ。欧州に端を発する政策であり、特にオバマ政権が提唱するグリ
ーン・ニューディールは、自然エネルギーへの公共投資と民間投資を同時に進
めることで、社会変革の即効性と長期性を確保していると評価される。年間約
60%増で拡大してきた自然エネルギー市場は、もはや温暖化対策の一環とい
う範疇を超え、日常生活から産業基盤まで重層的にグリーン化する21世紀の
国家戦略として判然と位置づけられることは容易に理解できる。

一方、高度な技術立国にも関わらず、自然エネルギーの世界動向に乗り遅れた
日本に対しては、早急に意欲的な導入目標値を定め、政治主導で制度や事業計
画を整えるべきだと著者各氏は鋭い警鐘を鳴らす。なぜなら、一国家としての
日本版グリーン・ニューディール「緑の経済と社会の変革」は、依然として立
案段階で躊躇しているからである。推進すべき具体的な環境政策に関しては、
政治経済から農林水産に至るまで各氏が異なる観点で呈示しており、多岐にわ
たる内容は非常に興味深い。他方で、政策決定過程が滞る要因に対する各氏の
分析は共通していると読み取れる。それは、官僚主導の縦割り行政や業界構造
に囚われた政治能力の欠落である。日本は、原子力依存の緩和と自然エネルギ
ーの導入を柔軟に両立できない上に、長期的な視野で政策指標や制度を設計で
きずにいる。旧態依然の行政から脱却することで、ようやく日本版グリーン・
ニューディールは離陸するのである。

では、政治家や官僚が動かない限り、日本は自然エネルギー社会を構築できな
いのだろうか。ここで飯田氏は、地域社会が主体となって「現実を1ミリでも
変える」ことの重要性を説いている。すなわち、地域規模で、自治体や市民が
自然エネルギー体系を構築することで、実際にベストプラクティスを蓄積して
いくことこそが、日本版グリーン・ニューディールの原動力となるのである。
この本は、持続可能性を備えた社会に向けて、産学官民の様々なアクターが社
会創成の主体として躍進できるということを明示しているのだ。21世紀の基
盤となる自然エネルギー産業が、20世紀の自動車産業から文明や政治の先導
役を奪取することだけでなく、そのパラダイム転換が私達一人一人の社会変革
への参画によって実現できることに、グリーン・ニューディールが「革命」と
称される意義があると私は考える。

    入江理沙(ISEPインターン
              コロンビア大学国際公共政策大学院 修士課程)


?・?・?・?・?・?・?・?・?・?・?・?・?・?・?・?・?・?
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