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2.連載「光と風と樹々と」(23)
   新たな「失われた4年」??自民300余議席の呪縛
                長谷川公一(環境社会学者 東北大学教員)

■政治的リベラリズムの再生??アメリカの希望
 「今後4年間でアメリカの世論は、とくにアメリカのメディアはますます保
守化するだろう、日本の世論とメディアもますます保守化し、内向きになるだ
ろう。アメリカのリベラル勢力が再生する希望はどこにあるのだろうか。」
 2004年8月から翌年1月末まで、ミネソタ大学客員教授としてミネアポ
リスに滞在していた。2004年11月2日、アメリカ大統領選でブッシュが
再選された直後に私が抱いた怖れである。ブッシュの破滅的な外交政策と経済
政策は、結果的に、04年7月の民主党全国大会の演説ではじめて全米の注目
を集めたオバマを大統領候補として押し上げ、当選させる契機となった。オバ
マ新政権が直面する課題は、GMの再建問題はじめ、内外にあまりにも山積し
ている。しかしネオコン勢力は後退を余儀なくされ、レーガン大統領が当選し
た1980年から2008年まで約20年間続いた保守主導の時代に代わって、
新しいリーダーシップのもとで、政治的リベラリズムの再生が展開しようとし
ている。
 前任者は全米史上最低の大統領ではあったが、対話重視の政治スタイルを掲
げる47歳の新しい大統領と民主党が制する両院議会のもとで、新しい時代が
切りひらかれようとしている。「後世に語らせよう。真冬のまっただ中、希望と
美徳しか残っていないような絶望的な状況の中で、共通の危機を前に、都市も
農村も力を合わせたと」。1月20日の就任演説の締めくくりでオバマが引用し
た、初代大統領ワシントンが、独立戦争時に敗色迫る中、兵士を鼓舞するため
に読ませたトマス・ペインの言葉である。オバマ新政権には言葉とスタイルが
あり、国内外の世論の支持がある。

■与党三分の二議席の悲喜劇
 では日本はどうか。
 2005年9月11日の衆院選で、自民党は未曾有の296議席を獲得した。
公明党の31議席とあわせて、480議席のうち327議席を得た(議席占有
率68.1%)。06年12月には郵政民営化法案に反対して離党し当選した
11人を復党させ、自民党の議席数は306議席となった(補選で1議席を失っ
ていた)。6月5日現在は党籍離脱中の議長河野洋平をのぞいて303議席、与
党全体(334議席)の占有率は、69.6%である(07年1月以降1人が
入党し、補選で1議席を失い、渡辺善美が離党、1人が市長選立候補のためこ
の5月に辞職している)。
 連立与党が衆院の70%近い議席を占めながら、ある意味ではそれゆえにこ
そ、日本の政治は足踏み状態にある。
 本年09年9月11日には衆議院は任期満了になる。総選挙は早ければ8月
2日、8月30日投票が最有力視されているが、いずれにしろ実質的に任期満
了選挙に近いものとなるだろう(本稿執筆の6月5日現在の見通し)。
 07年7月の参院選で自民党が大敗し、与党がはじめて参院の過半数を失っ
たことが大きいが、参院選での大敗の基本的な要因は、有権者が、05年9月
の衆院選で自民党を勝たせ過ぎたと考えたことにあろう。
 06年9月に発足した安倍政権も、07年9月に登場した福田政権も解散の
機を逸し、政権浮揚をはかれないまま失速した。1年足らずで政権を投げ出し
た背景には、解散すれば大幅に議席を失うのは必定という300余議席の重圧
があった。08年9月に発足した麻生政権も、同様の轍を踏んだまま、8月も
しくは9月、ないしは10月の総選挙に追い込まれつつある。
 4年前の自民大勝時に心ある有権者が怖れたのは、これでついに憲法「改正」
か、という悪夢だった。実際、安倍政権が掲げた「戦後レジームからの脱却」、
「美しい国づくり」は、端的には「憲法改正」をめざすものだった。07年参
院選は、結果的に憲法を救ったことになる。参院選大敗の結果は、憲法改正の
優先順位が高くないことを与野党指導者にあらためて示したからである。
 1990年代の日本は、しばしば「失われた10年」と揶揄される。私たち
を絶望的な気持ちにさせるのは、2005年9月からのこの4年間も、新たな
「失われた4年間」だったのではないか、という思いである。
 各党の衆院議員にたずねたい。この4年間の成果は何か、と。最大の成果は、
憲法改正が実質的に政治日程から遠のいたことである(逆に言うと、憲法改正
論者からすれば、この4年間の成果は何になるのだろうか?)。
 すべての立候補者にたずねたいのは、日本の希望はどこにあるのか、希望を
どこに見出すのか、という問いである。
 暗愚な総理大臣が3代も続けば、当然その国は衰退する。さらに問題なのは、
それに代わる指導者が不在なことである。

■まごまご対決の絶望と悲惨
 吉田茂の孫と鳩山一郎の孫とが「まごまご対決」をする。そんな国が世界を
見渡してほかにあるだろうか。二人の優秀な政治家が、たまたま、50数年前
の政治指導者の孫だったというわけでは決してない。その逆である。孫だから
こそ、この2人がリーダーたりえている、という事実をこそ、国民もメディア
も直視すべきである。祖父の七光りと親から相続した財産を売り物にする政治
家が、たとえ初歩的な漢字が読めなくても、決断力に乏しくても、思いつきの
発言を性懲りもなく繰り返すような者であっても、第一党の代表になり、総理
大臣になれてしまう、そのライバルもまた「孫」が売り物であるというこの国
の国民の甘さ、メディアの甘さ、閉塞的な政治システムにこそ問題がある。「ま
ごまご対決」は、この国の政治の閉塞性、リーダーシップ・クライシスの端的
な証左である。ブランドに弱い国民とメディアが映し出す鏡である。
 来るべき総選挙の真の争点は何で、各党はどのような日本再生のビジョンを
競いあうのか。そのビジョンの中に、温暖化問題をめぐる2020年の中期目
標や、中期目標達成のための具体的な戦略をどう位置づけるのか。自然エネル
ギーの普及促進策と地域経済の振興をどう展望するのか、等々。
 総選挙が近づくにつれて、私はひどく憂鬱である。

                長谷川公一(環境社会学者 東北大学教員)


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