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10.(連載)デンマーク・オールボーから(2)
     古屋将太(オールボー大学PhD student/ISEP海外インターン)

 Beyond Kyoto オーフス会議
今回は、3月5日・6日にオーフスで行われた会議「Beyond Kyoto: Addressing
the challenges of climate change」への参加から得られたデンマーク国内の
最新の動向をお伝えしたいと思います。
Beyond Kyoto: Addressing the challenges of climate change
http://www.klima.au.dk/dk/forside/konferencebeyondkyotoconferen/

■会議概要
このオーフス会議の目的は、12月にコペンハーゲンで開催されるCOP15
に向けての議論を活性化することであり、特に京都議定書以降の気候変動対策
の枠組みにアメリカおよび中国・インド等の新興国やアフリカ諸国がどのよう
に関与する可能性があるのかという点について、議論を深めることに力点が置
かれていました。
会議はオーフス大学を中心に、オーフス市、中央デンマーク開発フォーラム、
DONGやGRUNDFOS等のエネルギー企業、独立シンクタンクのCON
CITOなどの協力によって組織され、オープニングセッションと7つの分科
会という形で構成されていました。
オープニングセッションでは、1987年の“Common Future”で持続可能性の
理念を広く認知させたことで知られるグロー・ハーレム・ブルントラント氏に
よる講演、デンマーク・開発協力大臣のウーラ・トーネス氏による講演、
1994年から2001年までデンマーク環境エネルギー大臣を務め、90年
代に「環境パイオニア」としてのデンマークの環境エネルギー政策の基盤構築
に貢献したスベン・オーケン氏らによる講演があり、この会議がCOP15に
向けて非常に重要なステップであるというメッセージが発信されていたように
思えます。
ここでは、そのオープニングセッションでの議論の中で浮かび上がってきた3
つのキーワードと、クロージングセッションでまとめられた「オーフス声明
(Aarhus Statements)」における2つのキーワードを軸に、COP15に向け
たデンマーク国内での議論を見ていきましょう。

■Realistic
オーケン氏は、COP15での合意に向けて、第1にアメリカのコミットメン
ト、第2にEUのリーダーシップ、第3にその他の先進国、新興国、途上国の
参加の3つを考える必要がり、これらの要因には多くの不確実性があるため、
「私たちはCOP15での到達点について、「現実的(realistic)」でなければ
ならない」と述べていました。
「現実的」というキーワードは、ジョン・D・ホフマイスター氏(Citizen 
Affordable Energy)が今後のアメリカの動向について語った講演にも通底し
ていました。ホフマイスター氏は、オバマ政権が大胆な自然エネルギー利用拡
大の政策を掲げてはいるものの、これを実践していくには議会をはじめとして
国内のさまざまなアクターの協力が必要であり、現実的に考えていくことが必
要であるといった懸念がありました。

■Optimism
「現実的」というキーワードと共にCOP15での合意形成に向けて重要とな
るのが「楽観主義(optimism)」でした。「楽観主義」という言葉は、ブルント
ラント氏の講演の中で強調されていたのですが、その背景には、COP15で
の議論の複雑性、困難性に直面しても議論を後退させてはいけないというメッ
セージがあったように思えます。具体的には、(1)アメリカを含む先進国の具
体的なコミット、(2)中国をはじめとする新興国のコミット、(3)アフリカ
をはじめとする途上国の貧困問題も含めた位置づけなど様々な課題があり、決
して合意形成は容易ではないことが予想されるのですが、それらの課題に対し
て「現実的」に考えながらも「楽観主義」のもとで合意形成を目指すことが重
要であると述べられていました。

■Grass-roots
オープニングセッションのほぼすべての講演がアメリカの今後の動向に言及し
ていましたが、そのアメリカについてのホフマイスター氏の発言で頻繁に使わ
れていた言葉が「草の根(grass-roots)」でした。オバマ大統領の誕生におい
て、インターネットの活用と若者のボランタリーな選挙運動といった「草の根」
的な運動戦略が非常に大きな要因であったことは記憶に新しいところですが、
こうした「草の根」的な運動の展開は、分散型の自然エネルギーやスマートグ
リッドなどの技術の普及と高い親和性があると考えられます。オバマ政権の誕
生を機に、ブッシュ政権下で忘れ去られていたアメリカの伝統的精神としての
「草の根」が国民の間に再興しつつあり、これが持続可能なエネルギーの普及
を加速させるひとつの要因になる可能性が考えられます。それは、同じく「草
の根」の伝統的精神をもつデンマークの風力発電の普及の歴史にも傍証されて
います。

■Aarhus Convention
クロージングセッションでは、7つの分科会のそれぞれの成果が「オーフス声
明」にまとめられ、COP15への提言として政府に直接提出されることにな
りました。この中で重要なキーワードの1つ目が「オーフス条約(Aarhus
Convention)」であり、声明ではオーフス条約の内容をCOP15での合意形成
プロセスに反映させることが提案されています。
オーフス条約は、国連欧州経済委員会(UNECE)で作成され、1998年
6月の第4回環境閣僚会議で採択され、2001年10月に発効しています。
具体的には、環境に関する情報へのアクセス、意思決定における市民参加、司
法へのアクセスを保障することを約束するものであり、2003年には本条約
第5条9項にもとづいて化学物質の排出・移動データを収集・公表するPRT
R議定書にもつながっています。
いわゆる「環境民主主義」や「インフォメーショナル・ガバナンス」の根拠と
なるオーフス条約が提言に加えられたことは、COP15での合意内容に直接
影響を与えるわけではありませんが、プロセスの形成には大きな影響を与える
と考えられます。

■Carbon Currency
もう1つの重要なキーワードは、第7分科会:統合的エネルギー対策の議論に
基づいて提案された「炭素通貨(carbon currency)」です。
具体的には、国や地域の二酸化炭素長期削減目標と二酸化炭素クオータ(割り
当て)を管理する二酸化炭素中央銀行を設立し、炭素通貨市場の中で二酸化炭
素削減技術の導入にインセンティブをもたせるという構想が提案されています。
この提案の背景には、この十数年の間にさまざまな二酸化炭素削減技術が開発
されてきてはいるものの、そうした技術の普及具合は決して十分ではなく、ま
た、EU-ETSなどの排出量取引制度も決して効果的ではないという現状認
識があり、こうした状況を変えるために適切なインセンティブを備えた枠組み
が必要である、という議論がありました。

■まとめ
今回のオーフス会議から、大きくまとめると(1)アメリカの政権交代による
マクロなディスコースの変化、(2)より効果的な二酸化炭素削減のための枠組
みの具体化という2つの動きを見てとることができました。
2001年以降、保守政権のもとでデンマークの環境エネルギー政策イノベー
ションの勢いは衰えていました。しかし、オーフス条約の反映や炭素通貨など
の提案が出されていることを考えると、デンマークには、バックラッシュを経
てもなお、歴史的な議論の積み重ねの総体としての「環境ディスコース」がし
っかりと根付いているようです。

■参考リンク
・オーフス条約
http://www.unece.org/env/pp/
http://aarhusclearinghouse.unece.org/index.cfm

     古屋将太(オールボー大学PhD student/ISEP海外インターン)


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