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2. 連載「光と風と樹々と」(18)
      市民協働か、都市成長か――本当は対立軸がある
               長谷川公一(環境社会学者 東北大学教員)

■「小さな石原慎太郎」が跋扈する
 3月5日に、仙台市議選立候補予定の75名(最終的な立候補者は76名に
なった)に、仙台市政と仙台市議会に関して、郵送による質問紙調査を行った。
大変面白い結果が出たので、本メルマガの読者にもポイントを紹介したい。
 仙台市長は2005年7月に、3期12年を務めた藤井前市長が勇退したあ
とを受けて、彼が後継者として指名した、経済産業省の元官僚の梅原氏が当選
し、市長に就任した。
 藤井前市長は、教育長などを務めた社会教育畑出身の元市役所職員で、前任
の石井市長が汚職事件で逮捕されたために、急遽、市長に担ぎ出されることに
なった。何かと話題の多かった、パフォーマンス好きの浅野前知事ほどの派手
さはないが、「市民協働」を旗印に、市職員のバックアップを受けて、ほぼ安定
した12年間を務め上げた。仙台市のNPO活動が全国的にみても活発で評価
が高いのは、NGO側のリーダーの貢献度が大きいが、この市長が政策的にバ
ックアップしてきたことも見逃すことはできない。
 しかし後継のはずの梅原新市長は、市長に就任するや早速、市長室に「日の
丸」を掲揚、独自路線を突っ走り始めた。市の中堅職員や幹部職員から、私自
身、直接いろいろなエピソードを聞かされ唖然とするばかりだ。わかりやすく
いうと「小さな石原慎太郎」である。
 選挙時の市長の公約は「市民満足度日本一」だったが、市議会で、議員から
「市長満足度日本一」ではないか、と揶揄されたほどである。この市長の挨拶
を、直接何度か聞いたことがあるが、「市民」という言葉は、ほとんど出てこな
い。「市民活動サポートセンター」とか、固有名詞の一部として出てくるのみだ。
市民という言葉を辞書に持たない市長を有する市民ほど不幸なものはなかろう。
 これは私の住む仙台市の例だが、今、「小さな石原慎太郎」が全国で少しづつ
跋扈しはじめているのではないか。私はこのことを何よりも憂うる。
 ただしわが仙台市の救いは、これまでのところ、この市長が市役所の中でも
孤立気味で、心ある職員は市長に批判的で、地元のメディアも批判的なことで
ある。市議会でも、唐突に提案されるそのユニークな政策をめぐって論争が巻
き起こり、浅野時代の県議会とは異なって、ここ何年も惰眠をむさぼっていた
議員たちを活気づかせることになった。
 石原を見習って、市長が打ち出した思いつきの中でも、とくに市民の反発を
呼んだのは、財政難を理由にした「エルパーク仙台」という19年続いてきた
男女共同参画センターの突然の廃止提案である。女性グループが反対署名を集
め、リコール運動も辞さずという構えをとったことで、事実上、市長は、提案
を棚上げせざるをえなくなった。
 しかし市議選が近づくにつれて私が残念に思ったのは、これだけ問題のある
市長であるにもかかわらず、真っ向から市長批判、市政批判を掲げて市議選に
出馬表明する立候補者が、共産党などをのぞくとほとんど見当たらないことで
ある。「少数激戦」ではあるが、市長の路線を肯定するのか、否定するのかも曖
昧で、現市政の是非はどこかに隠れてしまい、表向きは「無風」状態に近くな
ってきた。国政への「転校」を断念し、「お殿様」としての政令市の市長職の面
白さに目覚めてしまい、再選を狙いはじめた市長も、「市長満足度日本一」と揶
揄した議員含め、共産党をのぞく全会派の候補者の選挙事務所を陣中見舞いし
はじめた。
 そこで市民グループの人たちとも相談し、かつて東北大学で教鞭を執られ、
仙台の幾つかの NGOのリーダーでもある新川達郎(同志社大学教授・行政
学・地方自治論)とともに、私が中心となって企画し、実施したのが、市議選
立候補者へのアンケート調査である。調査票と主な調査結果は、私のウェブに
掲げてある。
http://homepage.mac.com/hasegawa3116/Sendai2007.htm
 主な質問項目は、立候補者の政策認識、議会改革認識、仙台市政およびその
政治手法への評価、藤井前市政への評価、村井県政への評価、分権化、NPO・
NGOとの協働についての認識などである。表面的には隠れかけていた選挙戦
の争点を、調査をつうじて、明確にしようとした試みである。
 候補者たちができるだけホンネで答えやすいように、回答は無記名にした。
 3月14日まで議会開会中であり、告示を目前に控え、回収率が危惧された
が、最終的には47名から回答が得られ、回収率は62.5%だった。

■「市民感覚に乏しい」市長
 興味深い知見が幾つも得られたが、梅原市政を肯定的に評価する候補者も、
否定的に評価する候補者も、梅原市長を藤井前市政の継承者とは見ていない。
梅原市政は、藤井市長の後継者として誕生はしたが、藤井前市政とは政治手法
や政策目標が異質なものと見なされている、ということがデータの裏づけをも
って示されたことも、この調査の重要な貢献である。
 梅原市政を肯定的に評価する主な理由(問6a複数回答)は、「改革への意欲」
「市政のめざす方向の明確性」(ともに8人、評価する候補者の61.5%)、
「リーダーシップへの期待」(6人、同46.2%)であり、藤井前市長の後継
者であることを理由にあげた者はわずか1名にとどまった。
 梅原市政を評価しない主な理由(問6b複数回答)は、「市民感覚に乏しい」
(24人、評価しない候補者26人の92.3%)、「政策に共鳴できない」(1
3人、同50.0%)、「議会軽視が目立つ」(10人、同38.6%)であり、
藤井前市政との継続性の乏しさを理由にあげた者も8人(30.8%)にとど
まった。与党系・野党系含め、評価しないと答えた26人の候補者のうち、2
4人から、「市民感覚に乏しい」と指摘される市長をいただく市民の哀しさ、市
職員の哀しさを想像してほしい。

■「市民協働志向」と「都市成長志向」――市政評価を規定する2つの因子
 私の予想を超えて、もっとも興味深かったのは、梅原市政の重点施策10項
目と市議会、市役所職員との関係をたずねた次の12項目への回答(評価する
/どちらかといえば評価する/どちらともいえない/あまり評価しない/評価
しないの5段階評価)を因子分析(潜在的な構造や潜在的な規定因子を抽出す
る代表的な統計手法)した結果、2つの対立軸が得られたことである。
(1)安全・安心のまちづくり/(2)シティ・セールスへの取り組み/(3)
歴史的町名の復活/(4)政策調整局の新設/(5)仙台都市総合研究機構の
廃止/(6)地下鉄東西線の着工/(7)地下鉄東西線本体工事にともなう青
葉通のケヤキの移植/(8)エル・パーク仙台の廃止提案/(9)市民協働の
まちづくり/(10)藤井前市政の継承/(11)現市長と市議会との関係/
(12)現市長と市役所職員との関係/
 これらへの回答パタンから、因子分析によって「市民協働因子」と「都市成
長因子」の2つの因子が得られ、回答者および6つの会派と無所属を、この2
軸上にプロットすることができた(本メルマガでは残念ながら図は表示できな
いので、前述のウェブページ上で、図1・2・3を見てほしい)。
 第1因子は、政策調整局の新設(4)、市民協働のまちづくり(9)、藤井前
市政の継承(10)、市役所職員との関係(12)、エルパーク仙台の廃止提案
(8)、歴史的町名の復活(3)などの評価と密接に関連する因子であり、梅原
市政の政治手法に関わる因子である。市民協働や下からの合意形成に肯定的か
否定的かという軸と解釈でき、「市民協働志向因子」と名付けた。これは、様々
なアクター、利害関係者(ステイクホルダー)との合意形成過程や協働を重視
しようとする、ガバナンス(協治)に関わる因子ともいえる。
 第2因子は、地下鉄東西線の着工(6)、シティ・セールス(2)、安全・安
心のまちづくり(1)などに関連する因子であり、梅原市政の政策目標・政策
内容に関わる因子である。政策目標としての都市成長に肯定的か否定的かとい
う軸と解釈でき、「都市成長志向因子」と名付けた。
 市民協働に賛成か反対か、都市成長に賛成か反対か、を直接たずねたのでは、
八方美人的な回答しか得られまい。仙台市政で論争的な項目をたずねることを
とおして、間接的に、しかも明快に浮かび上がってきたのが、この対立軸であ
る。

■都知事選の対立軸と民主党の位置
 3月28日のプレス発表で、私がついでに補足的に述べたのは、梅原市政を
石原都政と読み替えれば、東京都知事選における基本的な対立軸ととらえるこ
ともできるのではないか、ということである。仙台市政を超えて、県庁所在地
や政令指定都市などにおける、現代の地域政治の新しい対立軸と解釈すること
もできるのではないだろうか(もちろん他都市での検証が不可欠である)。例え
ば、静岡空港建設の是非、神戸空港建設の是非などの争点が思い出される。自
民系会派対社民党・共産党という構図にも基本的に対応しているが、「保守とリ
ベラル」という伝統的な対立軸との関係を明確化することが今後の課題だろう。
 もう一つ興味深かったのは、候補者個々人の因子得点を会派別に集計して平
均得点を計算してこの2軸上にプロットしてみると、民主党系会派の位置がも
っとも原点に近かったことである(図3)。そもそも因子得点には全回答者分を
合計すると原点になるという性質がある。つまり、保守系もリベラル派もいる
民主党系の候補者の平均値が結果的に原点に近くなったということである。
 それは、地方議員選挙における民主党および民主党系会派の性格の「曖昧さ」、
位置どりの不明確さを示してもいる。地方議員の立候補者レベルでの回答結果
をもとに、この点は、はじめて実証されたのではないだろうか。
 さて、都知事選およびわが仙台市議選の開票結果はどうなるだろうか。
 (2007年4月6日記す)
 
■付記 開票結果を受けて
 東京都知事選は、浅野史郎らに110万票以上の大差をつけて、石原慎太郎
が3選をはたした。最大の敗因は、民主党側の準備不足であろう。言うまでも
なく、知事選は4年ごとに確実にやってくる。石原3選をどうすれば阻止でき
るのか、という明確な方針も戦略もないままに漫然と4年近くをやり過ごし、
告示直前に、前宮城県知事を突然担ぎ上げてにわかブームをあおって「無党派
層」を取り込もうとしても限界があるのは当然である。
 「民主は……対立軸を示すまでには至らなかった」(朝日新聞4月9日付1
面)とされるが、対立軸はこのように歴然とあるのである。対立軸が意識され
ていないことこそ、問題であり、寄り合い所帯の民主党の場合、合計すると「中
性化」してしまう、ということも大きな問題である。
 仙台市議選は民主が3議席(計9議席)、社民が1議席(計6議席)増え、諸
派・無所属がその分減っただけで、自民(10議席)・公明(8議席)・共産(6
議席)は現状を維持した。当選した市議の勢力図には大きな変化はなかった。

               長谷川公一(環境社会学者 東北大学教員)


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