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3.デンマークから学ぶ持続可能なエネルギー社会
第三回 未来を選び取るための政治的闘い
         細川和朗(ISEPインターン生:神戸大学国際文化学部)

SEENの貴重な誌面を頂き、デンマークの持続可能なエネルギー社会の構築
に携わる人々から学んだ「地域における再生可能エネルギー100%供給の実
現可能性(第一回)」や、「需要側アプローチやライフスタイルに関わる省エネ
ルギーの重要性(第二回)」を紹介してきた。最終回の今回は、エネルギーと政
治について力説してくれた「Nordic Folkecenter(以下、フォルケセンター)」
のプレーベン・マガード氏の取り組みを紹介したいと思う。

デンマーク・ユトランド半島北西部Ydby(ウビュー)。青く澄んだラグーンに
面し広大な農地が広がる小さな町にフォルケセンターという再生可能エネルギ
ー技術のデモンストレーションを実施している研究所がある。世界風力エネル
ギー協会名誉会長でもある所長のプレーベン氏と奥さんのイエナ氏が暖かく迎
え入れてくれた。

まず、フォルケセンターについて説明する。
もともとプレーベン氏が1980年代に政府の原発導入に反対して「原発に代
わるだけの風力発電機が設置できることを民衆の力で見せてやろう」と自ら私
財を売り地元の職人ともに始め、風力発電機の設計・建設・情報提供・技術的
サポート等を行ってきた。

現在のフォルケセンターの目的は、再生可能エネルギーシステムの開発・研究、
再生可能エネルギーのコンサルティング(製造業者、地元消費者、関連団体な
ど)、個人・市民グループ・行政機関などへの情報普及、施設内におけるエネル
ギーシステムの実験・実証・デモンストレーション等で、誰でも自由に見学す
ることができ、常に開かれた環境が整えられている。だから、国内・海外から
様々な人々が訪れるようだ。日本からも多数。テレビ局・大手製造会社・食品
会社、市民グループから研究者・学生まで。どの訪問者に対してもしっかりと
した説明が受けられ、気が済むまで十分に理解できるように宿泊施設まであり
何日でも滞在できるようになっている。施設内には、様々なタイプの太陽熱温
水器や太陽光発電パネル、大小の風力発電機、バイオドーム、緑の下水処理、
地下断熱建築、バイオガスプラント、バイオディーゼル車(菜種油)などいく
つもの興味深い再生可能エネルギー技術が紹介されている。私は1泊したが、
それでも全部の説明は受けられないほど種類も内容も豊富だった。

また一時的な訪問者とは別に、研修生も受け入れている。私が訪問した際は、
フランス人とカナダ人の学生が研修生として数ヶ月滞在していた。これまでに
数百人の研修生を国内外から受け入れきたようで、このように世界各地にフォ
ルケセンターで身に付けた知識や技能が生かされている。アフリカのマリ出身
の元研修生は、マリ政府やデンマーク政府国際開発機関(DANIDA)など
の協力を得て、マリにも同様にフォルケセンターを開き、再生可能エネルギー
の普及による住民の生活改善を目指している。さらに東欧の無電化地域での太
陽光発電による電力供給なども実施し、途上国での草の根レベルの国際協力も
担っている。

しかし残念ながら2001年の政権交代以降、デンマーク政府からの資金援助
の削減という状況を前に、活動規模を縮小せざるを得ないのが現状のようだ。
20名ほどいたスタッフも半数にせざるを得なかった。しかし、70歳を超え
るプレーベン氏は長く培われた反骨精神と残りのスタッフと供に積極的に活動
している。そんな彼は、「エネルギー問題は政治問題である」と熱く語ってくれ
た。これまで闘い続けてきた彼の言葉には重みがあった。そのすべては伝えき
れないが、エネルギーと政治に関する主なポイントを取り上げる。

エネルギーと政治がどう関連しているか。
少しばかり例を挙げてみると、石油の場合、巨大石油会社は資本力を存分に活
かしたロビー活動や広報活動。また化石燃料全般に関しては、開発や輸送など
のために政府から出されている補助金。デンマークは原発導入を市民の手で阻
止したので現在原発はないが、日本の原子力開発利用は政治そのものである。
始めから政府主導で開発され、政策的な方向付けや予算がなければ電力会社単
独で原子力事業を推進することは不可能だ。さらに各エネルギー源別の研究開
発費をみても明らかであるように、原子力に圧倒的に費やされている。このよ
うに再生可能エネルギーは他の電源と比較して差別的状況にある中で、コスト
が高いやエネルギー安定供給に不十分だなどの批判を浴びることとなる。しか
し、これは大いに政治的な批判であり、現体制を維持しようとする既得権力者
たちによるプロパガンダである。

なぜ既得権力、例えば電力会社が技術的にも成熟してきた再生可能エネルギー
に嫌悪感を示すのか。様々な理由が考えられるが、一つに化石燃料資源と再生
可能エネルギー源の性格的な違いにある。現状では、政府によって手厚く補助
付けされた集中型エネルギー源である化石燃料を用いて大量に電力を発電・送
電・配電している。この集中的な発電設備や系統設備を保ち続ける限り、電力
会社の市場独占のような状況は変わることはない(日本の場合、発電分野で新
規事業者の参入が段階的に始まっているが)。しかし、再生可能エネルギーは、
分散型エネルギー源であり各地域のエネルギーの自給率を高めることができる。
つまり、地域によって違いはあるが、風、太陽、水、森林などどこにでもある
資源を活用することで市民でもエネルギーを自ら供給できるということだ。住
宅の屋根に設置するだけの太陽光発電や太陽熱温水器、市民出資によって設置
された風車、家電暖房ではなく木質ペレットを利用したストーブ。こうなると
電力会社は徐々に市場シェアを失う可能性がある。だから、電力会社は再生可
能エネルギーの普及に消極的というわけなのである。

では再生可能エネルギーの普及のためにはどうすればよいか。
プレーベン氏やイエナ氏によると、(1)送電線への接続権利、(2)電力会社
による再生可能エネルギー買い取り義務、(3)固定価格制、これらを政治的に
勝ち取る必要があると言う。現在、電力消費量の約20%を風力から賄うデン
マークでさえ、これまでの過程における既得権力の抵抗は強かったようだ。た
だ日本と違い、デンマークは集中型エネルギーの典型である原発を持たなかっ
た。原子力事業に圧倒的に注がれる国家予算や政府・官僚・産業界の政治・経
済的パワーが存在する日本の場合は、まずなんとかエネルギー政策を公平かつ
民主的な場で議論し、経済・社会・環境などの観点から多角的に評価した公共
政策としてエネルギー問題を扱う必要があるように思う。


以上で、SEENの誌面をお借りして3回に渡ってデンマークで見て聞いて学
んだことを要約して伝えてきた。エネルギー問題についてよくご存知の方であ
れば、一般的な話で物足りなかったかもしれない。ただ、エネルギーの将来は
その社会で暮らす市民自身がしっかりと考えていかない限り持続可能なものに
はなり得ないのではないかと私は強く感じた。デンマークにおいても、もし市
民がなにも声を上げなければ政府によって原発は導入されていただろうし、低
エネルギー社会の提案に耳を傾けなければエネルギー需要は右肩上がりに増加
していっただろうし、地元住民が再生可能エネルギーに興味を示さなかったら
小さな島で風車が立ち並ぶこともなかったように思う。そういった意味から、
一学生として自由に動き回り見聞きした内容をより多くの人に伝え、ともに考
えてもらいたいという私なりの意図で書かせてもらった。

最後に、拙い文章を読んでくださった読者の皆様、そしてSEENに掲載して
くださったスタッフの皆様、そしてデンマークで親身に話を聞かせてくれた人
たちに、心より感謝したいと思います。Tusind Tak!

         細川和朗(ISEPインターン生:神戸大学国際文化学部)


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