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3.連載「光と風と樹々と」(11)
         大気汚染と公害の南アフリカ・ダーバン
               長谷川公一(環境社会学者 東北大学教員)

・貿易・リゾート・犯罪・公害??国際都市ダーバンの幾つもの顔

 4年に1回、サッカーのワールドカップと同じ年、しかも決勝戦と同じ7月
に、社会学のワールドカップ、世界社会学会議が開かれる。今年の大会開催地
は、2010年のワールドカップに先駆けて、南アフリカ共和国のダーバン
だった(7月23日から29日まで)。フライト時間はシンガポールとヨハネ
スブルク乗り換えで計約20時間、待ち合わせ時間も入れるとホテルから仙台
の自宅まで約30時間の長旅である。

 このメルマガの読者に興味深いだろうことは、現地の公害問題の深刻さだっ
た。7月27日の「エコロジー・ツアー」と、翌28日「環境と社会」研究部
会が独自に企画した、地元の環境運動グループが案内してくれた公害視察ツア
ーに参加した。

 ダーバンは人口約330万人、南アフリカではヨハネスブルクに次いで2番
目に大きい、インド洋に面したアフリカ最大の港湾都市である。石炭の積み出
し港でもあり、輸入原油の港でもある。
 南半球のため冬にあたる6月から8月は乾季でとくに雨が少なく月平均30
~40mm 程度である(年間降水量は約1000mm)。水力発電のためのダ
ム建設の是非も、2004年のボンでの自然エネルギー会議で南北間で議論に
なった論争的問題である。 ダーバンは幾つもの顔をもっている。シンガポー
ルのようなヨーロッパナイズされた貿易都市。日照量が多く、一年中太陽がま
ぶしい、サニー・ダーバンと呼ばれるような、避暑地・避寒地としてのリゾー
ト地としての顔。ヨハネスブルクほどではないが、25ー40パーセントという高
い失業率に規定された犯罪都市としての顔。世界社会学会議の参加者にとって
最大の不満は、治安が悪いために、男性でも昼間街中をひとり歩きできない、
会議のためのシャトル・バスやタクシーで、ホテルと会場を往復するだけとい
う隔離された状態だった。地元紙にも、「ホテルの中の囚人」と形容されたほど
である。

 そして公害都市としての顔である。

 毎日晴天の続く冬は、他方で風がないために、大気汚染のひどい季節でもあ
る。港の周囲や空港の周囲に並ぶ石油タンク群。2つの大きな古びた石油精製
所、製紙工場、地場産業ともいえる砂糖きびの精糖工場、そして自動車などが
原因である。とくに27日の「エコロジー・ツアー」の日はひどく、湾から対
岸が見えにくいほどだった。帰路のダーバン上空も、ヨハネスブルク上空も、
褐色に汚れていた。空港も、港近くも、石油精製所近くも、臭いがすごい。
「昔の四日市、川崎の臭いだ。キシレンやトルエン系だろうな」と同行の寺田
良一さん(明治大学・環境社会学)がつぶやく。

・環境権はあれど

 南アフリカ共和国の憲法第24条には「何人も、健康や福祉を損なわないよ
うな環境の権利を有する」と環境権が明記されている。しかし、大気汚染など
についてヨーロッパ並みの排出基準はあるがモニタリングが機能していないの
だ、という説明だった。東南アジアなどでもよくあることだが、制度をかたち
のうえで移植することは可能でも、実効的に機能させることは容易ではない。
裁判もしているが、判決は期待薄だという。

・全児童の52パーセントが喘息

 大気汚染はしばしば土壌汚染、地下水汚染をともなう。ここでもそうだ。
 汚染がとくに深刻なのは、インド系やズールー族の人たちが多くすむ南ダー
バン地区である。1946年操業のBP系の石油精製所から700mのところ
にある小学校では、2000年に全児童の52パーセントが喘息に罹患してい
たという。付近では、ガン患者も多いという。

 空港に近いシェル石油系の石油精製所の煙突からもずっと炎が出ていた。揮
発性のガスが燃えているのである。このような flaring は日本では禁止されて
いる。二酸化硫黄や硫化水素が大量に排出する。シェル石油のデンマーク国内
の石油精製所が排出する二酸化イオウは年間1000トン以下だが、ここでは
1万3000トン、13倍以上も排出している(2000年)。二酸化炭素も6
倍以上である。先進国と南アフリカとの間で、石油資本はダブルスタンダード
を使い分けているのである。

 40年以上も経って老朽化したパイプラインからのオイル漏れも頻発してい
る。シェル石油系の石油精製所付近で、2001年6月には100万リットル
もの大量のオイル漏れ事件が起こっている。

・はだかの廃棄物処分場の衝撃

 衝撃的だったのは Umlazi 処分場である。1986年から、化学・医療系の
廃棄物や生活ゴミなどを集積しているが、水銀などを含む有害廃棄物が集中し、
危険なために97年に反対運動の成果で閉鎖された。しかしただ山積みされて
いるだけで、何の覆いがあるわけでもない。マスクもつけずに、無防備なまま
の守衛がひとりいるだけだ。しかも、道路ひとつ隔てて、黒人たちの住宅があ
る。小学校も近い。ちょっとした風でも、ほこりや粉塵となって空中に舞って
いく。

 environmental racism や environmental justice (環境正義)という概念が
ある。アメリカ合州国で発達したものだが、ともに、環境問題は黒人や native
american (先住民)などの人種的マイノリティの多い地域に集中しがちである
こと、環境問題は、人種差別と深く結びついていることを告発した概念である。
南アフリカでは、environmental racism や environmental justice という観
念が、切迫したリアリティをもっている。
                        (2006年8月3日)

               長谷川公一(環境社会学者 東北大学教員)


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