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3.連載「光と風と樹々と」(9)
       ?出でよ『ウェブ進化論』の自然エネルギー版!! 
                長谷川公一(環境社会学者 東北大学教員)

・構想力と観察力と筆力と

 最近評判の梅田望夫『ウェブ進化論』(ちくま新書、2006年2月刊)を遅
ればせながらとても面白く読んだ。インターネットものの中では出色の出来で
ある。長年のブログ連載を下敷きに新たに書き下ろしたようだが、私には全編
新鮮だった。大きな俯瞰図とデーティルと、なかなか両方で読ませる筆者は少
ないものである。この著者には、構想力と観察力と筆力がある。
 シリコン・バレーの世界の現在のリアリティ、とくにネットの手前にターゲ
ットを置いていた、したがってソフトを売るマイクロ・ソフト帝国のビル・ゲ
イツ的な戦略に対する、ネットの向こう側を制覇しようとするグーグルの戦略
の新しさが説得的に描かれている。マイクロ・ソフトの「古さ」がよくわかる。
本書223頁の図は、ヤフー・ジャパンや楽天も含んで、現在のネットビジネ
スと過去とを、簡明に図示している。

 しかし本書の魅力は、それだけにとどまらない。表面的な現象記述に流れず
に、底流にある根底的な変化を、原理的に記述し得ている。そこが魅力的であ
る。
 
・インターネットの真の意味

つためのコストがほぼゼロになったということである。(略)誰かから一円貰う
コストが一円よりもずっと小さいとすれば、「不特定多数無限大の人々から一
円貰って一億円稼ぐ」ネットビジネスは現実味を帯びてくる。(略)放っておけ
ば消えて失われていってしまうはずの価値、つまりわずかな金やわずかな時間
の断片といった無に近いものを、無限大に限りなく近い対象から、ゼロに限り
なく近いコストで集積できたら何が起こるのか。ここにインターネットの可能
性がある。(同書9-10頁)」 

 インターネットの特性、グーグルの商売の本質を見事に言い当てた記述であ
る。
 むろん、このメールマガジンの場で私が提起したいのは、この発想を、自然
エネルギーに応用したら、どうなるだろうか、という問いかけである。エネル
ギー密度の薄い、資本集約型ではない、自然エネルギーにもこういう側面があ
るのではないか。分散型エネルギーということはもちろん言い古されてきたが、
小規模な太陽電池やバイオマス発電などの意義も、急速に大規模化しつつある
が風力発電の本来の意義も、やはりこういう面にあるのではないだろうか。小
口市民出資の意義も、このような側面にあろう。
 実際、著者は、グーグルがつくろうとしている世界を比喩的に「情報発電所」
と呼んでいる。
 もちろん、自然エネルギーとネットビジネスとの相違を弁別することは大前
提ではあるが。「起業家のエネルギーと技術革新の進行」が、リアル世界の自然
エネルギーとネットビジネスの場合とで、どのように共通の側面があり、どの
ように異なるのかを論じていく必要があるだろう。
 マイクロ・ソフトにしろ、マックにしろ、グーグルにしろ、いずれも最初は
学生がガレージで無から始めた「力の芽」だったのだという。

・「好きで楽しいから」??オープンソースの精神

 「一円も貰わず、ただただ「好きで楽しいから」素晴らしいプログラムを書
く。そんなソフト開発のほうが、一企業の閉じた環境の中で開発されるソフト
よりも遙かに素晴らしいものを生む。」(同書32頁)

 リナックスのようなオープンソースについての記述である。やや美化しすぎ
ているきらいはあるが、企業社会を根底から変える力は、このような精神であ
る。NGO/NPOなどで働く精神も、むろん、ただただ「好きで楽しいから」
という精神である。

・「オプティミズムに支えられたビジョン」

 「シリコンバレーにあって日本にないもの。それは、若い世代の創造性や果
敢な行動を刺激する「オプティミズムに支えられたビジョン」である。」(同書 
246頁)

 まったく同感である。まったくないかどうかはともかく、決定的に日本には
足りない。「オプティミズムに支えられたビジョン」。新聞を見ても、テレビを
見ても、1行もあるかどうか。あなたの周りにありますか。アメリカ社会にい
ろいろ問題はあるが、この200年余りアメリカ社会を支えてきた原動力は、
何よりも「オプティミズムに支えられたビジョン」であることは間違いない。
 233頁には、「日本という国は「いったん属した組織を一度も辞めたことの
ない人たち」の発想ばかりで支配されている」「そのことが日本の将来デザイン
に大きな歪みをもたらしていないか」という一節がある。私自身を含め、確か
にそうだ。
 一度も日本から出たことのない(単なる旅行者としてではなく。本質的な意
味で)、一度も所属組織を変えたことのない人の創る社会は、当然保守的になる
はずである。
 
・「決定力不足」
 アジアの中でも、世界の中でも、たしかに日本人は「個人としての国際競争
力」(232頁)が弱い。個人としての魅力に乏しい。サッカーのワールドカッ
プの「決定力不足」は、日本社会の象徴だ、と前々から私は思ってきた。自己
主張しにくい社会で、自己主張が奨励されない国で、シュート力が伸びるわけ
はないのだ。

・ 原発村の住人たちに読んでほしい本

 電力会社の役員や社員、経済産業省の役人たち、自民党や民主党の政治家達
に読んでほしいのは、こういう本である。そして、もはや原子力の時代ではな
いんだなぁ、こんな文脈においても、という少しだけの想像力である。社会学
では「切り離し戦略」や「やり過ごし戦略」(passing)という。この本の世界
は俺たちとは関係ない、エネルギー産業は、それこそハードでリアルだ、ネッ
トビジネスとは違う、という思考法は、「切り離し戦略」による防衛である。
 このメールマガジンの読者の方々には、こういう潮流をそれぞれの分野でど
う受け止めるのか、を是非考えてほしい。求められるのは、柔らかい感受性と
少しだけの想像力である。

 出でよ!『ウェブ進化論』の自然エネルギー版!! 
 私が期待するのは、この『ウェブ進化論』のいわば自然エネルギー版である。

                長谷川公一(環境社会学者 東北大学教員)


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