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2.連載「光と風と樹々と」(7) 英語にはない市民風車
                長谷川公一(環境社会学者 東北大学教員)

   英語にはない市民風車

 本連載の2月号分(5)の冒頭で、「市民風車は、アメリカでも、
community-based wind power や community wind というコンセプトとともに、
現在大きな焦点になっている。」と記したが、本号では、この点について、もう
少し詳しく述べたい。最近あらためて確認できたことだが、実は英語には、「市
民風車」という概念がないようである。少なくとも一般的な表現ではない。ア
メリカ風力発電協会(AWEA)やイギリス風力発電協会(BWEAのサイト
内を、citizen を検索語として検索してみても、対応する表現を見出すことは
できない。
 英語に該当する表現がないので、市民共同発電所を英訳するときには
citizen-owned power plant 、市民風車にあたる市民風力発電所には citizen's
communal wind power generator の英語をあてている。
  google で citizen を検索してみると、「citizen-owned utility (市民共
同所有の電気事業者)」という表現はたくさん出てくる。サクラメント公営電力
公社のような公営の電気事業者が該当する。citizen-owned power stationsと
いう表現もわずかに見出されるが、小規模の発電所だったり、日本の北海道グ
リーンファンドの事例だったりする。
 よく使われるのは、community-based wind power やそれをより簡潔にした
community wind というコンセプトやイギリスで用いる local wind farm であ
る。直訳すれば「地域密着型風車」、地元風車である。
 "locally owned wind power" や"local ownership"という表現もある。企業
の風車に対して、農民であれ、グループや協同組合であれ、地元民出資の風車
をさす。スペインやポルトガルには、企業風車のみで、このような地元民出資
の風車はないという。これら比較的後発の国の場合は、発電事業自体が大規模
化しているからでもあろう。

   community wind の6タイプ

 アメリカで community wind をもっとも活発にアドボケート(唱導)してき
た、ミネアポリスに本拠をおくWindindustry というNPOは、次のように定義
している。community wind とは、「地元の利益を最優先するような地元所有
(locally owned)の商業規模(commercial scale)の風力発電プロジェクトで
ある。地元所有とは、地域社会のメンバーが、土地の使用料、税収、税以外の
他の収入を得ることにとどまらず、直接、重要な出資(financial stake)を行
うことを意味する」。ポイントは、地元出資・地元所有・地元利益にある。地元
性へのこだわりが強い。
 http://www.windustry.org/
 このサイトでは、community wind energy projects を、(1)自治体風車、(2)
農村電力協同組合風車(Rural Electric Cooperatives)、(3)学校風車(高校、
大学など)、(4)農民風車、(5)風力協同組合風車、(6)ネイティブ・アメ
リカンの風車、の6種類に分類し、具体的なプロジェクトを紹介している。
 では日本の市民風車に対応するのは、この6つのうちどれだろうか。小口出
資型プロジェクトは、前々回と前回紹介したミネソタ州におけるような農民風
車と風力協同組合風車である。ただし言及されている事例では、出資者の85%
は、一定地域内の農民に限られる。日本のように全国の不特定多数の市民に出
資を呼びかけているわけではない。
 むろん、community wind の問題意識や推進の動機には、日本の市民風車と似
たところがある。Windindustry が、community wind の利点としているのは、
1)地元経済への波及効果(雇用や新しいビジネス・チャンスの創出、新規投
資の呼び水になること)、2)自然エネルギーに対する地域住民の関心の拡大、
3)税収基盤の拡大と農民の収入源確保による村落社会の強化、4)クリーン
なエネルギーを生み出すことによる温暖化ガスの排出削減、大気汚染の抑制、
汚染関連の疾病の抑制、5)エネルギー関連投資のローカル重点化、6)農業
と両立可能な新規産業の立地、7)温暖化問題への地域的取り組みである。日
本の市民風車以上に、地元への経済的利益を強調している。

   トロントの市民風車プロジェクト

 Windindustry が紹介しているトロントの WindShareプロジェクト(share
には、株式や共有という意味がある)のサイト
 http://www.windshare.ca/index.html
をのぞいてみると、2003年1月に運転を開始した750kWの風力発電機は、
北米初の都市型(urban-based)の風力発電機であると謳っている。推進主体は、
1998年に近隣の環境グループが母体になってはじめたカナダ初のグリーン
電力生協、トロント自然エネルギー協同組合(Toronto Renewable Energy Co-
operative (TREC))であり、トロント市が100%株式を保有するトロント
水力発電会社の子会社と、50%づつの対等出資で、最初の風力発電機を建設し
ている。出資は1口100カナダドル(1カナダドル=103円)からだが、出資
者はトロント市民に限られる(トロント市の人口は2001年現在248万人)。
建設費160万カナダドルのうち、市民出資分80万ドル、8万口分の債券が発行
され、2002年12月はじめまでに完売されたという。この事業は、
community-owned windpower とカテゴリー化されている。トロント市民に限定
して、日本円に換算して8240万円を短期間に集めえたことも注目される。すで
に第2機分のための80万ドル分も募集中である。
 運転開始は、北海道グリーンファンドの市民風車第一号機「はまかぜちゃん」
の方が1年4ヶ月ほど早いが、ほぼ同時期に似たようなプロジェクトが進行し
ていたことも興味深い。しかも Windindustry のサイトの事例紹介が、全米お
よびカナダのプロジェクトを網羅しているとすれば、これは、農民風車以外の、
唯一の都市住民による市民出資プロジェクトということになる。
 community-owned windpower を謳うためには、地元住民に出資者を限定する
ことが必要になる。80万カナダドルを約250万人のトロント市民だけから集め
うる、という見通しが、このような選択を可能にさせたのだろう。北海道グリ
ーンファンドの1号機の場合も、限定したわけではないが、事実上、出資者の
9割以上は札幌市を中心とした北海道在住者だった。
 地元だけでは、出資者が限定されてしまい十分な資金が集められないところ
に、日本のプロジェクトの弱点がある。しかし他方では、それが、全国規模に
出資者を拡大しえた背景でもある。

   「不特定多数の市民」による「共同出資」がポイント

 ここであらためて定義すれば、市民共同発電所は、「不特定多数の市民が共同
出資して建設・運営する市民発電所」であり、市民風車は、「不特定多数の市民
が共同出資して建設・運営する風力発電所」である。この定義のポイントは、「不
特定多数の市民」による「共同出資」という点にある。
 デンマークの農民風車もそうだが、トロントの事例も、地域住民に限定され
ている。地域を超えた「市民」に出資を求めるという点では、2000年12
月にまず第1号機が募集を開始した日本の市民風車は国際的に見ても先駆性が
高いのである。日本の市民風車にもっとも近いのは、ドイツのBuergerwindpark
である。これについては次号で述べたい。

                長谷川公一(環境社会学者 東北大学教員)


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