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4.上海からの風の便り(3)
   木村寿香(Imperial Collage, University of London、上海交通大学)

連載の前号で取り上げました中国の「自然エネルギー法」の特徴のひとつは、
固定価格買取り制度の導入です。従来、自然エネルギー発電は「初期投資コス
トが高いが、リターンは不確実」であることが投資のネックになっていました。
固定価格買取り制度の導入によりリターンの不確実性の低減が期待でき、これ
によって投資がある程度促進されると思われますが、投資の意思決定の主体は
あくまで企業であり、政策によって与えられた経済インセンティブに実際のと
ころどう対応するのかは、個々の企業の経営戦略如何です。

中国の発電業者は、旧国家電力公司が分割して設立された中国国電集団など五
大発電業者が半分のシェアを持ち、その他は地方政府や民営企業が運営する小
規模な発電事業者が数百社乱立しています。五大発電業者も含めて、電力業界
の自由化のもと生存競争が激化しているなかで、固定価格買取り制度の導入に
どう対応するのかは、政策の有効性の検証材料として今後の注目に値します。

しかし、もう少し視点を広げてみて「誰のための自然エネルギーか」と考えて
みると、今後の自然エネルギーの発展が、発電業者の「企業の論理」のみに頼
っていていいのかという疑問が湧いてきます。「自然エネルギー発電のための
コスト」は主に企業が負担しますが、「自然エネルギーを選ばないことによるコ
スト」を被るのは、中国を筆頭にした世界中の市民です。低コストの石炭火力
発電による被害は、大気汚染として中国の環境に、酸性雨を通じて周辺国の環
境に、さらに温室効果ガスの排出を通じて地球全体の環境に深い陰を落として
います。その中でも特に中国都市部における大気汚染は深刻です。世界で最も
大気汚染が著しい都市のトップ20のうち、16が中国の都市であり、実に中
国の都市の8割以上において、WHO(世界保健機構)の基準を超える二酸化硫
黄と二酸化窒素の排出が観測されています。また最近の世界銀行の調査によれ
ば、2001年から2020年の期間において年間59万人が大気汚染のため
に早死する可能性があると予測されています。

深刻な「自然エネルギーを選ばないことによるコスト」の負担は、市民の「自
分の消費するエネルギーを選択する権利」擁護の実効を向上させる必要性を浮
彫りにします。エネルギーの選択に関して、政策のみならず企業の意思決定に
市民が影響を及ぼすメカニズムが必要です。市民そして消費者主権というコン
セプトは、欧州では既に確固とした地位を得ていますが、計画経済から市場経
済への移行途中にある中国においては、近年になってやっと注目され始めたと
ころです。連載の前号でご紹介したように、中国では自然エネルギーは送電線
網のカバーしていない無電化地帯を電化する手段として、主に農村において推
進されてきました。しかし、今後もう一歩踏み込んで「主流エネルギー」とし
て自然エネルギーを普及させるためには、中国のなかでも経済成長の著しい沿
岸部における巨大な新興消費者のパワーと自然エネルギーをリンクさせること
が鍵となってくると思われます。

全国レベルでは、市民をエネルギー選択に積極的に参加させる政策はまだあり
ませんが、地方政府レベルにおいては実験的な取組みが始められています。そ
のなかでも、私が今最も注目している「上海市のグリーン電力プログラム」を
次回の連載でご紹介したいと思います。

  木村寿香(Imperial Collage, University of London、上海交通大学)


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