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5.政策レビュー(2)
 「英国ソープの放射性溶液漏洩事故と日本」
                      大林ミカ(ISEP副所長)

英国セラフィールドの再処理工場THORP(ソープ)で、高濃度の放射性硝酸溶
液の漏洩事故が起き、施設が閉鎖されている。漏洩量は8万3,000リットルに
もおよび、20トンのウランとプルトニウムを含んでいるという。事故は、国際
原子力機関(IAEA)の国際事故評価尺度では、「深刻な事象」であるレベル
3に暫定的に位置づけられている。

直接的な被害者は発生しておらず周辺への放射性物質の漏れはないと発表され
ているが、IAEAの評価を待つまでもなく、事故そのものは大変深刻なもの
である。また、事故発見は4月半ばだが、実は漏洩は昨年の8月から始まって
いたにもかかわらず、従業員が対応を怠ったために9ヶ月間続いていたとする
報道も5月末になってでてきており、事故の深刻さのみならず、安全管理体制
のお粗末さにも大きな批判が集まっている。

漏洩が起きたのは使用済み燃料を硝酸溶液に溶かしてプルトニウムやウランを
分離する、放射線レベルが非常に高く遠隔操作で作業を進めている工程部分で
ある。4月19日に、施設を運営する英核グループ(British Nuclear Group: BNG)
によって事故が確認されており、オペレーターが硝酸液の中で溶けている使用
済み燃料の量を計算できなかったために、遠隔操作のカメラで調べて漏洩に気
づいたという。部屋の床はステンレスで覆われたプール状となっていて施設の
汚染は限られているとも発表されているが、強い放射線のためにすぐに調査に
はいることはできなかった。漏洩を処分し配管を修理するためには、特殊な遠
隔操作の機械をまず作る必要があり、事故の収拾や汚染除去には長い時間がか
かる。そのために、ソープは、運転再開どころか閉鎖される可能性の方が高い。

事故が明らかになったのは、折しも、日本の国会では六カ所再処理工場を稼働
させるための原子力関連法案二法が審議されている最中だった。うがった見方
をすればそのせいなのか、日本の使用済み燃料も再処理契約を結んでいるソー
プで重大事故が発生し、施設閉鎖さえ取りざたされているというのに、日本で
はこの事故についてほとんど報道がなされていない。英国でも一般紙で大きく
報道され始めたのは5月も半ば近く、9日にガーディアン紙やニューサイエン
ティストが取り上げた頃からだが、日本ではその記事の報道という形で、共同
伝が11日に概略を伝えたのが一般報道の最初である。その後も、ほとんど取り
上げられず、ようやく朝日新聞が、5月26日になって日本原電が敦賀市と東海
村の中学生のセラフィールド訪問ツアーを事故の説明をせずに募集しているこ
とに絡んでソープの現況を伝え、29日に、先の9ヶ月放置についての記事を報
道したという始末である。

実は、5月9日に、河野太郎衆議院議員が自身のメールマガジン「ごまめの歯
ぎしり」で、ガーディアン紙から引用したと思われる事故概要を的確に伝えて
いる。これが日本で初めてソープ事故が世間の目に触れ、大きな関心を集めた
最初ではないか。英国では、事故そのものの情報がマスコミに流されたのは、
英国政府ではなくアイルランド政府からだった。4月22日にアイルランド政府
は、英国政府からの情報として、事故の発生を伝えるとともに、かねてからの
主張通りソープを閉鎖するよう求める短い声明を発表している。このような状
況を考えれば、日本政府、ましてや主要顧客である日本の電力会社にソープ事
故の一報が伝わらなかったはずはない。日本原電の市民感覚とはまったく乖離
した危機感の無さにはあきれるが、原子力関連業界全体が、報道すら巻き込ん
で、意識的なだんまりを決め込んでいるとしか思えない。

そもそも、ソープで事故に限らず、英国の再処理産業の失敗と撤退は、かねて
から日本ではあまり報道が行われず、一般的にも知られていない。環境エネル
ギー政策研究所が事務局となり今年3月に立ち上げた「原子力長計中間とりま
とめ国際評価パネル(ICRC)」(座長:吉岡斉、九州大学教授)では、日本
核燃料サイクルについての評価を行っているが、評価パネルに参加している
イギリスのエネルギー政策コンサルタントのフレッド・バーカー氏は、英国放
射性廃棄物処分委員会(英国政府の指名した独立委員会) 委員でもあり、ソープ
を含めた再処理事業、原子力事業についての専門家である。バーカー氏は、3
月のICRCキックオフで招聘した際に、福井県のエネルギー政策検討委員会
で発言を行ったが、それによれば、英国ではすでに再処理事業の終了が視野に
入っており、二つの再処理工場のうちB205の閉鎖予想時期は2012年、今回の
大事故で数年早まりそうだがソープの閉鎖予想時期は2010年とみられるとい
う。そして、予定通り操業されたとしても、2012までに、英国は、分離された
プルトニウムとして142トン(うち海外顧客の使用済み燃料から37トン)、使
用済み燃料で4,100tUを保有することになるため、この膨大なプルトニウム
の備蓄量と相当な量の使用済み燃料をどう管理するのかが、大きな課題となっ
ているという。

英国では、再処理事業の行く末とこれらの課題を検討するために、90年代後半
から、規制当局、地元自治体、労働組合、環境活動家らからなるステークホル
ダーが参加する 「全国的意見交換」が、再処理の事業主体だった英国核燃料公
社(BNFL)によって運営されてきた。漏洩を9ヶ月放置という安全管理の
お粗末さやBNFLで過去に発生した日本のMOX燃料不正成型事件などを考え
ると、まだ努力は始まったばかりといえるが、セラフィールド再処理施設の「原
子力廃炉機構? the Nuclear Decommissioning Authority (NDA) 」 への移
管も実質的に議論してきている。開かれた原子力政策の一つのあり方であると
いえる。

原子力委員会長計策定会議の「中間取りまとめ」、再処理積立金法と改訂原子炉
等規制法の成立、「もんじゅ」の最高裁判決、ソープ事故報道にみられるマスコ
ミの一斉のだんまり。政府を含めた日本の原子力関連業界は、既成事実や疑似
状況のみの積み上げに汲々とするばかりである。しかし、どんなに言い繕って
も、六カ所再処理工場の事業見通しが好転するわけではないし、高速増殖炉が
実用化されるわけでもない。新しい未来を選択するために、閉じられた口を開
いて議論することから始めていくべきだろう。

ソープ事故概要およびバーカー氏講演内容について:
原子力資料情報室 http://www.cnic.jp/
CORE(セラフィールド地元カンブリア地方の市民団体)
http://www.corecumbria.co.uk/
福島県エネルギー政策検討委員会議事録
http://www.pref.fukushima.jp/chiikishin/energy/kentou.htm

                      大林ミカ(ISEP副所長)

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