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1.  風発  「脳死社会」を越えて

                      飯田 哲也(ISEP所長)

 「愛・地球博」という、オヤジギャグをそのままタイトルにした博覧会が開
幕した。博覧会に関連してトヨタ主催の市民社会ダイアローグに招へいされた
縁で、内覧会を見る機会があった。この博覧会に対する直接の批判は、最近で
も鎌田慧氏による最新のルポルタージュ「我田引水のトヨタ"絶望"万博」(週刊
金曜日2005年3月25日号)をはじめ、さまざまな問題点が指摘されている。
真正面からの批判は本稿の趣旨ではなく、お祭りなのだから大目に見ればよい
ではないかという意見もあろう。その上で、率直な感想は「21世紀になりきれ
なかった産業主義の貧しさ」とでもいおうか、あまりの想像力の貧困に、何と
もやりきれないもの悲しさを感じ、これから半年も続く先を思いやって同情す
ら禁じ得なかった。
 まず、入場門で子供が手にしていた飲みかけのペットボトルを回収されたこ
とに、少々驚いた。異常だが環境博なのだからペットボトルの撤去に拘ったの
だろうと思い、素直に渡して入場すると、すぐ目の前にペットボトル飲料の自
動販売機が置いてあるではないか。あとから聞くと、ペットボトルの回収はテ
ロ対策なのだそうだが、飛行機ですら行っていない過剰な対策にはなおさら納
得できない。同じく入場門で回収される弁当問題が物議を醸しているのも、あ
まりの水準の低さに哀れを催す。会場内では生分解性のプラスチックがウリだ
そうだが、リターナブルのバイオマス・プラスチックと銘打った食器は、普通
の陶器(それこそ瀬戸物)で一向に構わないはずだ。使い捨てのワンウェイタ
イプは「リサイクル」されるのだそうだが、ゴミの大量発生を促す食事システ
ムは東京ディズニーランドと変わるところがない。リターナブルを名乗るなら、
ここにこそ組み込むべきであった。ことほど左様に、ウリからして中途半端な
のである。
 「貧しさ」の愁眉は、トヨタ館の「ロボット踊り」であろう。「移動の未来」
や、まして「自然の叡智」がなぜロボットに繋がるのか、苦心の演出でごまか
そうとしても、そこには20世紀産業主義の鎧が透けて見えている。帰路、向か
いに座った家族連れが「2時間も待たされてあんなものを見せられたら、発狂
する」と評していたが、至言であろう。
 結局、1970年の万国博覧会を飾った「月の石」が、35年を経て「永久凍土の
マンモス」に変わったくらいで、企画者の頭の中は、まるで進化していない。
予想の半分程度という客足は、予想外に市民社会が成熟していることを立証し
ている。

 とはいえ、愛・地球博は一過性だからまだ救いがある。赤字はトヨタが埋め
るのだろうし、自然破壊も初期計画に比べれば大幅に縮小された。3月29日に
開催された原子力委員会原子力長期計画策定会議を久しぶりに傍聴したが、こ
ちらの方がレベルでも社会への影響でもはるかに深刻だ。
 まず冒頭で、「きわめてレベルの低い作品」(吉岡斉九州大学教授・長計策定
委員)である「エネルギーと原子力発電について(論点の整理)(案)」を事務
局が一字一句漏らさず全文を読み上げるという、思考停止時間が延々と続いた
挙げ句、議長を務める近藤駿介原子力委員長は、時間厳守のため発言は一人3
分以内にせよという。「国」の原子力政策を議論する場としてはあまりにお粗末
だろう。同行していた海外からの原子力長計評価パネル(*)の委員たちは、
知的退行した「脳死」ぶりにほとんど絶句していた。
 この「脳死力委員会」の理由は明白だ。水面下で業界や既得権益との調整を
尽くして、もはや一言一句も動かしようのないのである。傍聴席を埋め尽くし
た業界や既得権益は、事前調整した文書がいっさい変わっていないことを確認
するために、固唾をのんで見守っている。その後の審議は、市民社会にとって
はブラックジョークだが、業界にとっても別の意味でジョークでしかない。か
くて、原子力委員会では知性や科学や論理は通用せず、「脳死力委員会」と化す
のである。
 こうした状況は、愛・地球博や原子力政策に限らない。政府の審議会では日
常的な光景であり、「脳死力委員会」の論点案をそのまま報道したメディアや、
静岡空港、川辺側ダム、諫早湾干拓と愚行にいとまがない公共事業を推進する
国交省や農水省、そして本号から連載を始めていただいた「お笑い原子力ムラ
敦賀」の状況、都下の公立学校を筆頭にヒステリックに日の丸・君が代を強要
する教育委員会や学校管理者もまた、「脳死」状態といえる。
 こうした「脳死社会」を克服し、二項対立ではなく多様な価値を織り込める
成熟した社会に向け、社会的意思決定をどのように再構築するのか、日本社会
全体にとって深刻かつ喫緊の課題といえよう。

*「原子力研究開発利用長期計画」(原子力長計)の中間とりまとめを評価する
ため、日本の核燃料サイクル政策に関心を持つ学者が集い、海外の評価者を招
へいした「原子力長計中間とりまとめ国際評価パネル」(座長:吉岡斉、九州大
学教授)


                      飯田 哲也(ISEP所長)


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