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1.風発:よくわかる自然エネルギー(6)
                       飯田哲也(ISEP所長)

・自然エネルギーの熱利用

 自然エネルギーの普及では、注目を集める太陽光発電や風力発電などの電力
分野のほかに、熱利用の分野が重要となる。太陽熱温水、木くずなどのバイオ
マス利用、地中熱や温泉熱利用などが代表例だ。
 固定価格制などの政策で飛躍的な普及を遂げつつある自然エネルギー電力に
比べると、まだ決め手となる政策に乏しいが、これから大きな可能性があるた
め「眠れる巨人」と呼ばれている。
 熱利用とは具体的には暖房や給湯を指す。これらは40~60度程度の比較
的低温で、家庭などでもっとも割合が多い需要だ。本来、暖房や給湯は、廃熱
や太陽熱温水などの「質の低いエネルギー」で賄うことができるが、現実には、
ほとんどが電気や化石燃料(ガスや石油)などの「質の高いエネルギー」で賄
っている。ここにエコロジー的なミスマッチがあった。
 バイオマスでは北欧のバイオマスが代表的な成功例だ。スウェーデンやフィ
ンランドでは木くずを使った地域熱供給、デンマークでは畜産からのバイオガ
スを使った地域熱供給で、化石燃料を大幅に代替してきた。さらに近年では、
取扱や運搬に便利な木質ペレットを使ったボイラーやストーブが急速に普及し
ている。
 太陽熱利用では、ドイツやオーストリアでの取り組みが先行してきたが、バ
ルセロナで1998年に導入された導入義務付け(ソーラーオブリゲーション)
が、2006年には国の法律となって、一気に普及を加速した。これを追って、
ドイツが2008年には「自然エネルギー熱利用義務付け法」を導入して、後
を追っている。
 日本で暖房・給湯といえば、未だに電気・ガス・灯油以外の選択肢が事実上
ない状況だ。かつて1980年代に石油ショックを受けて、太陽熱温水器が一
気に普及した時期があった。しかしその後、原油価格の低落とともに、政策的
な支援のなく市場は低迷した。押売事業者が主体のビジネスモデルだったこと
も災いして、消費者トラブルも発生し、今日に至るまで低迷している。熱政策
の再構築から始めるしかない。

・自然エネルギーと輸送燃料

 自然エネルギーの普及分野の第三の領域は、輸送燃料だ。とくに自動車燃料
がもっとも重要だが、船舶・飛行機の燃料もある。
 自動車燃料については、水素や燃料電池などさまざまな代替燃料が期待され
試みられてきたが、ここにきてバイオ燃料と電気自動車がこの数年で一気に主
役に躍り出た。
 バイオ燃料は、ブラジルのサトウキビに代表されるバイオエタノールとドイ
ツなどで主流のバイオディーゼルなどがある。昨年、バイオエタノールは世界
全体で約7500万キロリットル、バイオディーゼルが約1700万キロリッ
トル生産された。全世界でみると、ガソリンのおよそ5%を代替したことにな
るが、ブラジルでは50%以上、アメリカでも約10%がバイオ燃料で代替さ
れている。
 ただし、バイオ燃料にはさまざまな課題もある。まず食糧との競合、第二に
森林の縮小、第三に一部のバイオ燃料はむしろ二酸化炭素を増やすおそれある
点だ。そのため、「持続可能なバイオ燃料基準」を設けて、そうした問題の少な
いバイオ燃料を認証・選別する取り組みも始まっている。また、藻類やセルロ
ースなど新しい技術でバイオ燃料を生み出す努力も行われているが、まだ実用
化に時間を要する。ディーゼルが主体の船舶やすでにバイオ燃料で試験飛行を
実施している航空機燃料も考えると、今後もバイオ燃料の重要性は増してゆく
と思われる。
 電気自動車自体は自然エネルギー源ではないが、ガソリン自動車よりも数倍
程度効率が高く、たとえ石炭火力からの電気であっても、脱石油と二酸化炭素
削減には効果的だ。さらにその電気を自然エネルギーで賄えれば、事実上、二
酸化炭素をまったく排出しない自動車となる。また電気自動車は、スマートグ
リッドと組み合わせた利用も考えられており、将来のエネルギー社会では、主
役となる可能性を秘めている。
 日本は、バイオ燃料の普及やバイオ燃料自動車では世界に出遅れたが、自動
車各社の電気自動車に掛ける意気込みは大きい。10年後、自動車とその燃料
はどうなっているか、激しい変革と厳しい国際競争は、始まったばかりだ。

・自然エネルギーと地域づくり

 自然エネルギーは、地域づくりに大きな貢献をする可能性を秘めている。
 第1に、自然エネルギーの建設と運転が、地域経済にプラスをもたらす。小
さな効果と思いがちだが、そうでもない。一例を挙げると、秋田県で風力発電
を1000本建設する構想がある。仮にこれが完成すると、その電力の売上げ
は、昨年の秋田県の米の出荷額(約800億円)に匹敵するほどだ。
 第2に、現在、ほとんどを地域外から買っている電気や灯油などで流出して
いる地域の資金が地域に留まる。その金額も、例えば人口1万人で年間数十億
円に達し、けっして少なくはない。その地域に留まる資金が、地域に仕事や雇
用を増やすことに貢献する。
 こうしたことから、総務省が昨年度の緊急経済対策の一環で、自然エネルギ
ーを軸とする「緑の分権改革」を立ち上げて、全国の地方自治体で取り組みが
始まっている。
 ただし地域には、自然エネルギー以外のさまざまな「資源」が不足している。
とくに、そうした自然エネルギー事業を立ち上げる人財や資金が欠けている。
じつは、地域には十分すぎるほど資金がある。たとえば青森県の地域金融だけ
で2兆円規模の資金が、貸し出しに回らず、地域外や海外の債権、もしくは国
債に回されており、地域に投資されないことが課題だ。
 たとえば青森県には200基近い風力発電があるが、地域資本のものはわず
かに3本しかない。それ以外は中央資本の風車であるため、せっかくの地域エ
ネルギー事業の利益が、地域外に流出することになる。
 とはいえ、地方自治体や三セクの事業は、非効率性や無責任が心配される。
そこで、デンマークで「自然エネルギー100%アイランド」を実現した「地
域環境エネルギー事務所」という社会モデルが注目されている。行政と地域団
体と住民が協力して設立する地域の自然エネルギーを事業化・社会化する「新
しい公共」のモデルとも言える。「緑の分権改革」が目指す一つの社会モデル
でもある。

「聖教新聞」2010年9月6日、10月4日号、10月18日号掲載

                       飯田哲也(ISEP所長)
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2.連載「光と風と樹々と」(29)袋小路の温暖化対策──国内編
               長谷川公一(環境社会学者 東北大学教員) 

・菅政権の断末魔

 民主党の菅内閣が暗礁に乗り上げている。ねじれ国会と20%を下回る低い
内閣支持率のもとで、新年度予算案成立の目途が経っていない。4月の統一地
方選では民主党系候補の惨敗が予想されている。民主党批判の急先鋒だった与
謝野馨(政治家や歴史上の人物などについては敬称略、以下同様)の経済財政
政策担当大臣への起用、社民党へのすり寄りといい、マニフェストからのなし
崩し的な後退といい、もう「なり振り構わず」「政権にしがみつく」という格
好だ。
 解散権を行使すれば、民主党は歴史的大敗を喫し、政権からずり落ちるだろ
うから、解散もできない。統一地方選前に内閣を総辞職して、首相を交代させ
て、目先を変えてみるしか道は残されていないのではないか。それは、
2006年の参院選敗北後に自民党の安倍・福田・麻生の3政権が辿ったとま
さしく同様の末路であり、断末魔である。

・温暖化対策もまた袋小路に

打つ手なしの袋小路に陥っているのは、菅政権だけではない。国内外の温暖
化対策もまた同様である(国際的な温暖化対策については次回に述べたい)。
予算案の年度内成立、国会運営の見通しも立たないなかで、国内的には、遺憾
ながら「温暖化対策どころではない」という状況である。25%削減をアドバ
ルーンにした鳩山前首相に比べて、菅首相は、個人的にも温暖化対策にほとん
ど興味がないのではないか、と環境省サイドでもささやかれている。
1年前の2010年3月には、温暖化対策基本法の国会上程・成立というロ
ードマップが描けていたが、予算案成立でさえ危ぶまれる現状では、温暖化対
策基本法も画餅のようなものである。こういう状況の中で、産業界や経済産業
省サイドからの圧力に屈する形で、2010年12月の「排出量取引制度」の
導入先送り決定に代表されるように、政策の後退が相次いでいる(明日香寿川
「崩壊する日本の温暖化対策」『世界』2011年3月号参照)。1990年
比25%削減の中期目標に代表される積極的な温暖化対策は、政権交代による
「新しい政治」の代表的なシンボルとして、一時は輝いてみえたが、政権自身
によってたちまち泥を塗られ、いつのまにか実質的に旗を降ろしてしまった感
がある。

・政策評価なき権力の暴力──「事業仕分け」「再仕分け」の問題性

 「事業仕分け」「再仕分け」という名の半ば暴力的・権力的な政治ショーでも、
「費用対効果だ」「実質的な削減効果だ」という性急で乱暴な大声のもとで、と
くに地域レベルでの温暖化政策は標的の一つとなり、圧殺されかかった。京都
会議の翌年、1998年に、日本は各国に先駆けて「地球温暖化対策推進法(以
下、温対法と略記)」を制定した。この法律では、各都道府県は、地域地球温暖
化対策推進センター(以下、地域センターと略記)を設置してよいことになっ
ており、2010年までに県レベルでの地域センターがようやく全都道府県に
そろった。北海道、宮城県、埼玉県、神奈川県、静岡県、長野県、京都府、大
阪府、兵庫県、広島県、福岡県、沖縄県などのセンターは、設立も比較的早く、
きわめて積極的に活動している。他の地域センターも、都道府県、市町村レベ
ルでの温暖化対策の着実な足場となってきた。2009年度からは、政令市や
中核市でも、市レベルでのセンターを設立することができるようになり、浜松
市、長野市、熊谷市など、熱心な市を皮切りに、市レベルのセンターができは
じめている。
 温対法のもとに、全国には約7400人の地球温暖化防止活動推進員という
ボランティアが存在する。地域センターが研修を行い、育成してきた人材であ
る。約6割が男性で、定年前後の年齢層の人が多い。
 地域センターの連絡調整にあたる組織として、全国地球温暖化防止活動推進
センター(JCCCA、以下、全国センターと略記)がある。これらは、いず
れも温対法にその役割や権限などが規定された法律上の存在である。しかしな
がら、「事業仕分け」「政治主導」の名のもとに、温対法をあたかも無視するか
のように、地域センターや全国センター、推進員に関する環境省の予算は「廃
止」を宣告され、昨年11月の「再仕分け」でも、冷ややかな扱いを受けるこ
とになった。
 「事業仕分け」は本来、まず予算削減ありきではなく、政策評価を前提に行
われるべきものだろう。地域レベルでのこれまでの温暖化政策がどの程度効果
をあげ、どのような課題と問題点を抱えているのか、このような検証がまず必
要である。にもかかわらず、環境省の担当課からの短時間のヒアリングのみで、
基本的には仕分け人の「印象論」で、地域レベルでの温暖化対策関連予算は「廃
止」を宣告され、昨年秋の「再仕分け」でも、前年の仕分け結果の妥当性の検
証プロセスもないままに、事業仕分けどおりに予算が配分されているかどうか
だけがチェックされた。
 マニフェストがなし崩し的に後退する一方で、政治主導とメディアが喧伝し
た「事業仕分け」の名のもとに、こういう乱暴な権力行使がまかりとおってい
る。残念ながら、これが政権交代の実像である。私自身、宮城県センターの運
営委員長を務め、全国センターの受け皿として、事業仕分けの批判をのりこえ
るべく昨年8月に新しく組織化された「一般社団法人 地球温暖化防止全国ネ
ット」の理事長として、この問題の渦中の当事者の1人として対応を余儀なく
されてきたが、文字どおり民主党に振り回され続けてきたこの1年半だったと
いえる。政治家が「権力」をもつということの実体を垣間見た思いがする。

*一般社団法人 地球温暖化防止全国ネット
http://www.jccca.org/about/about02.html

・次は有権者が「仕分け」る番だ

 昨年の参院選もそうだったが、4月の統一地方選も、来るべき総選挙も、現
政権党への有権者からの「仕分け」である。十分なデータも事前の準備もなか
った、政権担当能力なき政権は、「仕分け」られるしかあるまい。そこにしか、
日本の政治の再生の道はないだろう。総選挙後の新政権にも、醒めた視線しか
送りようがない気がするが……。
 日本の政治にも、温暖化政策にも、希望をどこに見出せばよいのか。

            長谷川公一(環境社会学者 東北大学教員)
3.青森エネルギー紀行(14)「トントゥビレッジ」
               森 治文(朝日新聞青森総局次長)

 すでにご存じの方も多いと思うが、青森県にまた1つ、原発ができる。東京
電力東通原子力発電所1号機である。改良型沸騰水型軽水炉で出力は138万
5千キロワットと国内でも最大級。1月25日に工事の認可が出て着工(実質
的な工事は雪がなくなって以降)、2017年の3月の運転開始を予定している。
ここにはさらに同じ規模の2号機を2014年度以降に建設する計画もある。
 東通村はまさかりの形をした下北半島のうち、刃と接する柄の部分にあたる。
その名が示すように下北半島へ向かう「東通り」で、南側に隣接するのが六ヶ
所村。東通村ではすでに東京電力の敷地から隣接した南側に東北電力の東通原
発が2005年から稼働しており、こちらも1号機のみで2号機は予定だけだ
が、異なる電力会社の原発がこれだけ近くに位置しているのはほかに聞いたこ
とがない。両社は村内に設けた原発PR施設も共同運営する。その名は村名を
音読みして「トントゥビレッジ」と言う。
 今回の着工は、東京電力の原発としては33年ぶりという。村の議会が原発
誘致を決議したのが1965年。その5年後、東京電力、東北電力は原発の共
同開発を発表した。それ以来半世紀近くを要した。
 高度成長時代を終えて電力需要は伸び悩み、ましてや東京電力にとっての供
給地からは最も遠い立地条件。そしてそこにふってわいたのが、2006年の
設置許可申請後に近くで見つかった活断層の存在だった。その安全審査の結果、
国は「原発の耐震安全性に問題ない」との結論を出したが、当初の2004年
度運転開始との計画から13年遅れることになった。
 ようやく設置許可が出た昨年12月24日、越善靖夫村長は「安全審査に長
期間を要したことによる村への影響は計り知れない」と、しびれを切らしたか
のような不満を漏らした。
 いらだちの背景は「カネ」だろう。原発で生きていくと決めた村は、先に稼
働した東北電力原発の固定資産税収入が約43億円もあった2006年度から
普通交付税の不交付団体となったが、減価償却が進み、それが25億円まで落
ち込んだ2010年度から交付団体に転落。今後、東京電力1号機、東北電力
2号機、東京電力2号機と計画が進まないと、財源が確保できないという危機
感がそう言わせたのだろう。
 昨年、秋晴れの一日に人口7千余人という村内をドライブした。面積300
平方キロメートルを南北に貫く国道をはじめ、ほとんどの道路がきれいに舗装
され、なだらかな丘陵地のアップダウンは実に快適だった。ただ、商店などは
ほとんど見えず、にぎわいを創出するような施設もなかった。原発をのぞけば、
牧畜業と漁業が主な産業という土地。その中にあって近代的な建物として目を
引いたのは、役場とその近くにある学校の真新しさだ。
 もともと、いくつも集落が集まって形成され、核となる場所がなかった村は
1988年まで役場を、どの集落からも比較的行きやすい隣のむつ市に置いて
いた。その後、道路が整備され、人工的に「中心地」が作られてきた経緯があ
る。だからなのか、役場も何となく周囲の風景に溶け込んでいない感じを受け
た。一方、近くの学校は村内に以前あった小学校、中学校をすべて統合した「1
村1小中学校」。遠くの児童・生徒は全員スクールバスで送り迎えし、校舎には
電気床暖房。これらの事業にかかったお金は電源立地地域対策交付金でまかな
われたという。
 村づくり、村に中心地を作ろうという意気込みは伝わってくる。そのお金の
ために、原発はなくてはならない、もっと作ってもらわなければという考えに
村が囚われていると感じる。だが、「安全審査に長期間を要したことの村への影
響は計り知れない」という発言は、安全審査を軽んじていると聞こえる。まる
で、日常の買い物で「多少の傷物でも良いから早く欲しい」と言っているよう
な「軽さ」だ。
 原発の是非論は別にしても、村民の安全に責任を負う村長の発言としてはい
ただけない。活断層のようなリスクが生じれば、そのリスク評価に時間をかけ
るのは当たり前。それよりも、なお「カネ」が大事なのだろうか。
 この村長、2007年には、原発のごみの最終処分地選定問題について、
(高レベル放射性)廃棄物は原発のある町村から出てくる。将来を考えれば、
議論を先送りするのはいかがなものか」として、こうした町村が「誘致の議論
をリードすべき」と報道機関に述べ、誘致に前向きとも取れる発言をしている。
 原発立地村としての責任を感じての言葉なのか、それともカネも絡むのか、
一度聞いてみたい気がする。

                   森 治文(朝日新聞青森総局次長)
4.ベルリンの風 第8回 比較による謎解き
                     山下紀明(ISEP主任研究員
           /ベルリン自由大学環境政策研究センター博士課程)

 1月のベルリンは気温零度前後と寒いものの雪はほとんど降らず、12月に
積もった雪もすっかり解けてしまいました。そんなある日、一人の博士候補生
が環境政策研究センター(FFU)の会議室でディフェンスに臨みました。
 ディフェンスとは博士論文を提出した後の口頭試問です。その場で自らの論
文の正当性を守りきれば晴れて博士として認められます。形式は国や大学、学
部によっても異なりますが、FFUでは指導教官を含む5人の教授陣を相手に
20分のプレゼンテーションと2時間ほどの質疑応答が課されます。
 今回ディフェンスを行った同僚は、欧州各国における自然エネルギー電力の
固定価格買取制度が収斂してきた要因を研究してきました。彼は数百ページに
渡る論文の内容を短い時間で端的に述べ、教授陣からの質問に対しては理論も
現実もふまえた上で時折ジョークを交えつつ回答。博士を名乗るにふさわしい
資質を示し、見事に審査を通りました。自分も数年後には今の研究をまとめ、
ディフェンスを行うのだと想像し、身の引き締まる思いでした。

 今回から2回にわたり、これまでの研究から明らかになったことを述べて
いきます。指導教官は「研究は推理小説に似ている」と言います。ある事件(社
会的に重要な出来事)に対して、研究者はWho done it?(=誰がそれをしたの
か?)やHow done it?(どうやってしたのか)を、データや証言を集めて当時
の状況を再構築した上で、そこに含まれる謎を解き明かしていきます。特に比
較政治学は、単に各ケースの状況を羅列するのではなく、それぞれの共通点と
相違点を比較することで、それらにまたがる謎を解き明かすことに本質があり
ます。
 私にとっての謎は、「なぜ、ときには悪条件の中でさえも、いくつかの都市は
積極的な気候変動政策、特に再生可能エネルギー政策を発展させることができ
たのか?」です。そこには外部要因と内部要因があり、今回は外部要因につい
て考察します。
 これまでの連載でご紹介してきたように、私の研究調査地は東京、バルセロ
ナ(スペイン)、ハンブルク(ドイツ)です。3カ国とも自然エネルギー、特に
太陽エネルギーの推進で重要な地位を占めてきました。一方で気候変動政策全
般についての姿勢は大きく異なり、日本は停滞中、EUの中では後追い型のス
ペインと先導役のドイツとに分かれます。
 研究の中で顕著な違いが見られたのは、都市の太陽熱推進策でした。東京都
は補助制度の開始にあたり、ISEPや事業者と協力して太陽熱利用システム
の製品規格の再整備、グリーン熱証書制度の立ち上げを働きかけました。さら
に公共建築物への太陽熱導入ガイドラインや大規模開発時の自然エネルギー導
入検討義務も整備しています。バルセロナは新築・改修時の太陽熱導入義務化
を発案し、現在でも国よりも厳しい基準を設定していますが、金銭的な補助制
度はありません。他方ハンブルクでは補助金はあるものの、他に特筆すべき制
度はありません。
 こうした独自制度の違いの説明する外部要因として、一つは国の政策の空白
(ギャップ)、もう一つは自治体の権限が考えられます。3都市を比較すると、
国の制度のギャップが大きい日本やスペインで独自の取組みが行われています。
そのギャップをどのように埋めるのかは、自治体に備わっている権限とそれを
活用する工夫が大きく関わってきます。
 東京とバルセロナについては、自治体が制度を形成する時点で、国による自
然エネルギー熱利用の政策は手つかずの状態でした。東京は本来国が主導する
べきであろう製品規格やグリーン熱証書スキームの制度を自ら整備。さらに建
築規準に加える形での太陽熱導入義務化は権限上難しいものの、大規模開発時
の検討義務化として一部導入に成功しました。バルセロナでは太陽熱義務化に
あたって、既存の建築規準に組み込んだ点に工夫が見られます。新たな条例を
作る際には権限の議論が起こると想定されたため、既存の制度を改正して入れ
込むことで、摩擦を避けたのです。
 ハンブルクでは国の自然エネルギー導入義務化があるため、現在策定してい
る気候変動マスタープランでも太陽熱についての目新しい施策は検討されてい
ないようです。
 次回は上述の謎を解くためのもう一つの鍵、内部条件について紹介します。

                   山下紀明(ISEP主任研究員/
            ベルリン自由大学環境政策研究センター博士課程)
5.デンマーク・オールボーから(5) PhDディフェンス × 3
        古屋将太(Aalborg University, PhD student/ ISEP fellow)

1月末から2月はじめにかけて、私の所属するデパートメントの同僚3人が
PhDディフェンス(博士論文の口答審査)を行いました。そのうち2人は環
境アセスメントをテーマとした研究で、もう1人は創造力開発をテーマとした
研究でした。

環境アセスメントを扱った2人の研究は、いずれも環境アセスメントの内容に
ついてではなく、気候変動対策や産業開発の現実のプロセスの中で環境アセス
メントがどのように位置付けられ、どのような役割を果たすことが必要なのか
を問題関心としていました。環境アセスメントは90年代の「Cleaner
Production」という社会的文脈の中で登場し、考え方や手法が構築され、今日
に至るまで一定の制度を形成したものの、「それが実際に本当に機能しているの
か?」について、研究コミュニティの中でも疑問が生じており、改めて社会的
文脈の中で環境アセスメントを考え直す必要があるだろうという背景から2人
の研究ははじまりました。

まず、Sanne Vammen Larsenによる「Grappling with the uncertain ? Climate
change in SEA」では、河川管理政策と気候変動対策の境界で生じている不確実
性をどのように戦略的環境アセスメントが扱い、今後どのように対処していく
方向性があるのかを議論していました。具体的には、彼女は、ウルリッヒ・ベ
ックのリスク社会論を基本枠組として分析を行い、現行のデンマークの河川管
理政策には、気候変動対策における「緩和」の概念は組み込まれているものの、
「適応」や「ベースライン管理」の概念はほとんど取り上げられていないとい
うことを明らかにしていました。

次に、Anne Merrild Hansenによる「SEA effectiveness and power in
decision-making」では、グリーンランドのアルミニウム精錬所建設計画の策定
における戦略的環境アセスメントの有効性を意思決定プロセスとの関係で議論
していました。具体的には、彼女は、アンソニー・ギデンズの構造化理論を基
本枠組として分析を行い、グリーンランドの事例では有志の活動家たちによる
オルタナティブな戦略的環境アセスメントの実施が、公式な意思決定プロセス
に一定程度影響を与え、そのプロセスにおいては地域アクター間の公式/非公
式な意見・情報交換が重要な役割を果たしていたことを明らかにしていました。
印象的だった点は、オルタナティブな戦略的環境アセスメントへの参加型調査
を通じて、これまで大規模開発行為に対して従属的に手続きを進めてきたグリ
ーンランドの「植民地的メンタリティー」から、人々が内発的にグリーンラン
ドの環境と開発について考え、行動するものへと変化する萌芽を彼女が感じた
ということです。この感受性は、彼女自身がグリーンランド出身であるという
ことが大きいと思いました。

創造力開発を扱ったChristian Byrgeによる「Conceptualization of Creativity
Practices through Action Research: The case of The Creative Platform at
Aalborg University」は、「クリエイティブ・プラットフォーム」と呼ばれる創
造力開発の実践を通じて、その理論的・方法論的な展開を試みるという非常に
興味深いものでした。具体的には、ビジネスや行政、教育などの場で新しいア
イディアや知識を引き出す際に、クリエイティブ・プラットフォームはどのよ
うに参加者の「動機付け」「自信」「集中力」「知識の応用」に影響を与えるのか
を探るというもので、実際に彼がインストラクターになってオールボー大学内
で6つのワークショップやセミナーを行い、その結果を分析していました。彼
とは以前、合宿型の講義で同席したことがあり、「非常におもしろい研究をして
いるなあ」と注目していましたが、改めてその成果を聞いて、この手法はイノ
ベーションの実践や起業家教育に有効なのだろうなと思いました。

このところ、立て続けにPhDディフェンスが行われ、私よりも少し早くはじ
めたPhDたちが次々と成果をまとめています。私自身の研究はというと、こ
のところ理論研究でやや壁にぶつかっており、もう少し時間がかかりそうでは
あるのですが、焦らず、着実に進めていきたいと思います。

参考資料
Conceptualization of Creativity Practices through Action Research: The
case of The Creative Platform at Aalborg University(Christian Byrge, PhD
thesis)
http://goo.gl/SDiKo

        古屋将太(Aalborg University, PhD student/ ISEP fellow)
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