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1.風発:よくわかる自然エネルギー(5)
                       飯田哲也(ISEP所長)

・実現へのラストチャンス

 自然エネルギーの普及政策は、電力・温熱・輸送燃料という三つの需要側
に分類して考えることが多い。今回は、まず電力分野での自然エネルギーの
普及を考える。
 自然エネルギー発電の分野は、水力発電が古くから実用化されているが、
近年の状況はまったく異なるものだ。風力発電や太陽光発電に見られるよう
に、近年は「政策による普及」によって、自然エネルギー発電が爆発的に広
まりつつある。
 1990年ごろからドイツや英国、デンマークなどで電力市場を活用した
新しい普及制度が次々に試みられてきた。その中で、2000年にドイツで
改良された固定価格制度(自然エネルギー電力を一定価格で長期間購入する
ことを定めた制度)が、「最も成功した環境政策」と呼ばれるほどの成功を
収めたのである。
 なお、従来の大型ダム式の水力発電は、河川環境や地域社会に与える影響
が大きいため、こうした政策の対象外となっている。
 実は、日本も10年程前まで、議員立法でドイツとほぼ同じ固定価格制度
を導入する試みがあったが、官僚と電力会社の反対に遭い、現状の固定枠制
度(電力会社に一定の量の自然エネルギー購入を義務づける制度)へと姿を
変えた経緯がある。
 この固定枠制度は、本家の英国などでも失敗したもので、日本もこの制度
選択の結果、「自然エネルギー後進国」へと転落したのである。
 今、固定価格制度が見直され実現の機運が高まってきているが、まだ問題
が山積みだ。特に、かつて固定価格制度に反対した官僚や審議会委員が制度
設計しているため、過去の失敗や経験が十分に生かされておらず、各方面か
らの懸念を真摯に受け止める姿勢にも欠けている。
 「21世紀の産業」として出現しつつある自然エネルギーの分野で、新た
な一歩を踏み出すには今がラストチャンスだ。官僚と既得権益による「国益
の喪失」を避けるために、政治が未来への選択を主導すべき時であろう。

・「変動型電源」普及の鍵握る

 電力分野での自然エネルギーの普及では、「固定価格制度」のほかに、電
力系統との連係・接続が重要な鍵を握っている。
 なぜなら、自然エネルギーの中で最もコストが下がり、普及の先頭に立っ
ている風力発電、そして将来的に最も大きな可能性が期待される太陽光発電
の両方が、自然条件によって時々刻々と発電量が変わる「変動型電源」であ
るからだ。
 電力は、基本的に発電量(供給)と消費量(需要)を常に一致させておく
必要がある。そのため従来は、消費量の変動に合わせて発電量を調整し、時
には揚水発電なども使って需給を調整してきた。そこに発電量が大きく変動
する自然エネルギーが入ってくると、調整はさらに困難になるという心配だ。
 とはいえ、日本の現状では風力発電などの割合が低いため、ほとんど問題
は生じない。むしろ電力系統に接続しなければ「市場に参入」できず、普及
できないことから、欧州を中心に、送電系統に自然エネルギーを他の電源よ
りも優先して接続する「優先接続」の原則が早くから確立されてきた。
 さらに電力市場改革が先行している欧州では、送電会社が発電会社や電力
供給会社から切り離されており、普及する自然エネルギーによる電力変動を
緩和し、調整するための「スーパーグリッド構想」が進む。
 これは、出力調整に向く北欧の大型水力と北海の洋上風力群と欧州を結ぶ
もので、送電会社は「将来世代のために自然エネルギー用の送電線を作る」
と胸を張る。
 地域分散型の自然エネルギーが地域に便益をもたらす形で普及するにつれ
て、送電線は電力会社の私物から、高速道路のような公共財に変わりつつあ
る。
 片や日本はどうか。電力会社は、風力発電による電力系統への影響を過剰
に心配し、風力発電に対して厳しい制約を課している。欧州や北米・中国な
どの風力先進国と対比すると、「安定供給」と送電線が、独占を維持するた
めの方便に堕ちているのではないか。

・賢い電力網-実用化に向けた開発を推進

 電力分野での自然エネルギー普及のため、重要な鍵を握る電力系統の将来
像として、「スマートグリッド」(賢い電力網)が期待されている。
 スマートグリッドは、オバマ大統領のグリーン・ニューディール予算の中
で取り上げられてから一躍注目され、今や世界中でバブル的なブームの様相
を呈している。
 特に、その助言者に米インターネット検索大手「グーグル」がかかわるな
ど、話題に事欠かない。
 スマートグリッドとは、情報技術(IT)やスマートメーター(賢い電力
計)を用いて、省エネルギーや分散型電源・バッテリーなどを統合した需給
調整も行うことがイメージされている。やがては、オープンな電力市場の情
報や取引を活用し、分散型の自然エネルギーを分散型の需要家に供給する「
仮想電力会社」など、まったく新しい電力サービスや電力市場を生み出す可
能性を秘めている。
 現在、スマートグリッドは自然エネルギーの普及に欠かせないと喧伝され
ている。自然エネルギーを大量導入した際の出力変動を、家庭の電気機器や
電気自動車の蓄電池等、需要側をスマートグリッドで調整することが期待さ
れているからだ。
 そのため国は、スマートグリッドの開発実証事業に巨額の予算をつけ、国
内はもとよりアメリカなどとも連携した開発を進めようと鼻息が荒い。必ず
しも間違った方向ではないが、開発実証事業だけが先行し、制度や市場が置
き去りになっている状況は、自然エネルギーの普及やスマートグリッドの実
用化という点でバランスを欠いている。
 自然エネルギーの普及には、スマートグリッドの実用化以前に、既存の系
統を最大限活用するための優先接続や運用ルールの整備が急務である。それ
によって特段の系統整備をしなくても、相当な自然エネルギーを増やすこと
が可能だ。
 スマートグリッドを構成する技術やソフトウエアは、10年以上も前から
取り組まれてきたものだ。今後も技術開発の重要性は論をまたないが、それ
以上に重要なのは、日本の閉じた電力市場をオープンにすることだ。そうし
た制度や市場の整備を急がない限り、ここでも新たな「ガラパゴス」(世界
標準からかけ離れた市場)が生み出されることになりかねない。

「聖教新聞」2010年7月26日、8月9日号、8月23日号掲載

                       飯田哲也(ISEP所長)
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2.青森エネルギー紀行(13)「大停電の年明け」
                     森治文(朝日新聞青森総局次長)

 今年の青森は、大停電とともに明けた。ドカ雪が降ったのはいつもと同じな
のだが、降った地域がいささか異なった。同時進行で鳥取や島根では、雪の中
で帰省中の立ち往生の車が相次いだ。これら山陰地方も正月にはここまで降ら
ないと聞く。年末年始に吹き荒れた低気圧が、日本列島の西と北で同時に異変
をもたらした。
 青森はおおざっぱに西半分の津軽地方と東半分の北側にある下北半島、南側
の南部地方に分かれるが、他県の人たちが「豪雪地帯」と考えている青森は津
軽のことで、八戸市に代表される太平洋岸に近い南部地方では、この季節の積
雪は数センチ程度(2月に向けてもう少し降るが)。むしろ太陽光発電に適して
いると言われるほど、冬でも晴れの日が多い。そこに1日で40センチ近い、
しかも湿って重い雪が襲った。
 停電の原因は単純だ。雪の重みで倒れた木があちこちで送電線にもたれかか
り、断線が多発した。停電地域は、南部地方でも山間の田子町、新郷村などが
中心で2万1千世帯に及んだ。ちなみに隣の岩手県でも、青森県境に近い北部
を中心に7万3千世帯で正月に電気が来ない憂き目にあった。
 東北電力によると、この世帯という言い方は契約数1に対し1世帯というの
で、実際に何戸にあたるかは不明だ。農家などは自宅用と業務用とで複数契約
するところもあるらしい。ただ、人口あわせて1万人足らずのこの2町村内で
の電力契約数のうち、9割方の契約に対し送電がストップした。役場も電気が
消えた。
 同僚が取材したところでは、停電した多くのところは紅白歌合戦が終盤にさ
しかかったころから、電気がついたり消えたりし、年をまたぐ前には完全にス
トップしたそうだ。すぐに復旧すればよかったが、除雪もままならない山道を
少しずつ進んでは断線した部分を確認し、線をつなぐ作業の繰り返し。このた
め、なかなか山奥にある世帯ほどなかなか復旧に手間取り、長いところでは
31日から2日にかけて48時間近く停電を強いられた家もあったようだ。
 山間部なので病院などの業務に支障が出たという話は聞かないが、それでも
大変な正月となった。
 まずは暖房だ。零下が当たり前という地域で暖を取れないのはつらい。今は
ファンヒーターが主流。それとこたつ。エアコンを使う家庭も増えている。昨
年12月25日には青森県内の電力使用量が過去最大を記録したように。暖房
の電気シフトが進んでいる。
 それらがまったく役に立たなくなったものだから、家の奥から昔ながらの薪
ストーブやマッチや電池で着火させる灯油ストーブを引っ張り出してきた家庭
もあったという。これには、1994年に起きた「三陸はるか沖地震」の際の
大規模停電を教訓に、電気がない時の備えの心構えができていたためと、地元
の自治体はみている。
 正月料理の煮炊きにはガスがあり、食べるのには困らなかったが、娯楽のさ
ほど多い地域でもないのにテレビもなく、「日が暮れたら、暖房も兼ねて布団に
潜り込む」という、文字通りの「寝正月」の人もいた。
 そんな不便極まりない正月にあって、感心させられたのはパニックらしい反
応がなかったということ。電話は通じたらしく、「陸の孤島」といった事態は免
れていたこともあるが、ほとんどの人が抗議をするでもなく、じっと電気がつ
くのを待っていたという。
 これが都市だったらどうだろう。電車や信号のつかない道路、病院や24時
間操業の工場や店舗などもマヒするというインフラの問題は別にしても、各家
庭とも我慢できないのではないか。
 自分なりに貧困な想像力を働かせてみた。
 寒さにこごえながら夜はまっ暗だ。ろうそくと電池で充電した携帯電話の明
かりだけ。テレビもパソコンも使えず、冷蔵庫の食べ物も台無し。温水も出な
いだろう。トイレの水は流れるだろうか。洗濯も風呂もできない。雑煮と腐ら
ない正月料理を食べ、車も出せないし、電車も動かないから遠出もできない。
電話は通じて110番や119番通報はできるかもしれないが、病人が出たら
どうするか。
 そんな風に考えながら、あり得ないことだけど、ノーカーデーならぬノーエ
レクトリックデーも作るのも悪くないと思い始めた。電気のない生活は実際に
はとても無理にしても、ムダを見直す機会にはなり、電気に頼らず読書を楽し
むとか(これも電子書籍主流の時代になれば無理か)、近所を散歩してみるとか
身近な自然や人々とのつきあいの中で気づくものもあるかもしれない。
 それにしても皮肉なのは、電力の大供給地のお膝元にある町や村には電気が
これっぽっちも来ない時に、大消費地の都会では好きなだけ使え、ぬくぬくと
生活ができたという現実だ。じっと耐える地域の人々の強さに美徳を見るとと
もに、もう一方で、インフラの基本が欠けた時は応分の負担をしている者とし
て声を上げてもいいのではないかと思う。納税を受けている町村や県は住民を
代表してなおさら言うことは言っておくべきだろう。
 東北電力も今回は、停電地域以外の社員らも総動員して不眠不休の復旧活動
をしたと聞く。加えてその後、地元紙にもおわび広告も大きく掲載し、企業と
しての努力と誠意は感じた。でも、よりよいエネルギーの供給と消費の関係を
作っていくには、企業の自主的な姿勢に満足したり甘えたりするままでいいの
かという点に、多少の割り切れなさを感じた今回の大停電劇だった。

 最後になりましたが、明けましておめでとうございます。拙文を読んでくだ
さっているみなさん、本年もよろしくお願いいたします。

                     森治文(朝日新聞青森総局次長)
3.カンクン会議(COP16/CMP6)
                 :世界の趨勢に背を向けた日本の真意
               平田仁子(気候ネットワーク東京事務所長)

 昨年末のCOP16/CMP6では期待を上回る形で「カンクン合意」が成
立し、久々に明るい気持ちで帰国してみたら、「重要合意は先延ばし」であって、
「政府はよくやった」とする国内報道に直面し、感覚のズレに驚かされた。会
議後も政府は、京都議定書の第2約束期間に反対との方針を見直す気配はなく、
「地球益のために主張した」「日本の立場を守った」と居直っている。国内では、
「カンクン合意」で世界が一歩を踏み出した直後の年末の閣僚委員会で、国内
排出量取引制度の実質的な先延ばしや、再生可能エネルギー全量固定価格買取
制度の更なる後退を匂わせる、「温暖化政策マニフェスト見直し・後退宣言」を
した。世界の趨勢に逆らった、狭い利害に立つ愚鈍で内向きな政治が温暖化政
策を蝕んでいる。
 カンクン合意は、コペンハーゲンのマイナスからプラスへ国連プロセスを改
善させ、極めて重要なステップを踏んだ。国連が世界の気候変動を防ぐ枠組み
作りに動かなければ、この問題の解は出せない。この先にも険しい交渉が待っ
ているが、合意では、各国から政治的な歩み寄りを確かに引き出したし、中国
も自らの削減行動で一歩前に出た。立派な成果である。
 問題は次の今年末の南アフリカのダーバン会議(COP17/CMP7)だ。
アメリカ国内事情や中国の硬いポジションから、法的拘束力ある枠組み合意は
無理だと片付けるのは簡単だが、今繰り広げられるべき攻防は、それをあきら
めずにどう米中を引き込みながら国際合意を作るかだ。最終合意の中で、先進
国が京都議定書の第2約束期間の削減目標を設定することは、合意の核として
不可欠な要素だ。それなくして途上国が合意に乗る可能性がほとんどないとい
う国際情勢がある上、京都議定書を基礎にしなければ先進国の行動も緩む。日
本政府のように、当面は米中が法的拘束力を持ちそうにないから、京都議定書
の第2約束期間には反対だと否定し、一つの枠組みで行こうというのは、米中
がやらないから皆で法的拘束力のないアプローチに降りて行こうということと
同義であり、逆流だ。その結果起こるのは、温暖化対策の更なる遅れである。
NGOや各国政府から日本政府へ批判が集中したのは、その主張の本質に問題
があるからこそである。長年の交渉で日本の立場を知った上での批判だ。誤解
でも無理解でもない。
 日本の主張は、単純な「KY」でも、地球益を代弁する「正論」でもなく、
米中を口実にしながら、京都議定書の義務目標設定から自主的目標の宣誓方式
に戻すことを狙うものだということに帰結する。「温暖化対策は負担」だから強
化されたくないという国内の産業界を席巻する空気が、国際的に波及してしま
った結果なのである。
 2012年後に空白を空けないために、ダーバンに向け、京都議定書の行方
を決着させる議論が高まる。今年1年、日本がこのまま泥舟に乗って突き進む
沈没戦略を取り続けるとすれば、おろかというしかない。京都議定書の延長に
よって先進国だけが厳しい削減義務を課される仕組みが固定化されるという政
府主張は根拠のない詭弁でしかないし、日本だけが厳しい目標を課されて産業
空洞化や経済衰退を引き起こすという経団連の主張もとてつもない飛躍がある。
多くの国を敵に回しながら交渉を妨害することは外交戦略上も、得策ではない。
何より、ノーと言い続ければ気候変動が解決するというわけでもない。
 様々な情勢と、気候変動問題の解決の道筋を考えれば、米中が参加する枠組
みを作っていくために取れる手立ては様々に用意し、実質的な進展を図るべき
ことは明らかだ。いずれにせよ先進国として削減義務を負うことから避けられ
るはずがない。その前提に立ち、日本も他の先進国と同様に京都議定書の下で
次の目標に合意しつつ、米中を含む枠組みを作る「2トラック方式」がより近
道である。協調しながら次の一手を考えるべきだろう。
 方針を見直すための後押しとして、世界から追いつめられるというのは一つ
だが、外圧に屈する方法に寄らずとも、国内の議論・検討の中から、自ら方針
転換を図るべきだ。政府方針が誤った戦略であると指摘する声はNGOのみな
らず各界に存在する。ダーバンまでに今必要なことは、将来を見据えたビジョ
ンを語り合える多様な人がつながり、経団連・連合といった声ばかりではない、
見識ある議論を市民社会から巻き起こし、日本の温暖化対策の有り様を問い直
す機運を作っていくことではないだろうか。

               平田仁子(気候ネットワーク東京事務所長)
4.ベルリンの風 第7回 バルセロナの実践とイメージ
                     山下紀明(ISEP主任研究員
           /ベルリン自由大学環境政策研究センター博士課程)

 昨年末は雪のベルリンでWeihnachten(ヴァイナハテン=クリスマス)と
Silvester(ジルベスター=大晦日)を迎えました。12月24日は店もほぼ閉
まり街がひっそりとしている中、ベルリン大聖堂のミサに多くの家族連れが参
加しており、厳かな光景を垣間見ました。対照的に大晦日の夜は花火がそこか
しこで鳴り響く大騒ぎ。昨年のサッカーワールドカップ(W杯)の熱狂を思い
出させます。振り返れば昨年6月、W杯開幕頃にベルリンでの生活を始めまし
たが、あっという間に年を越し滞在期間は残り2ヶ月程。残りの貴重な時間で
精一杯動き回りたいと思います。
 さて、今回は昨年11月下旬から12月初旬にかけて行ったバルセロナにつ
いてのインタビューの様子をお届けします。
 2年ぶりにバルセロナを訪れて気付いたのは、市民用貸し自転車の大幅な増
加。自転車専用レーンは2年前もありましたが、赤と白に塗られた貸し自転車
が街中の至る所に並び、それを利用する姿も頻繁に見かけました。市の太陽光
/太陽熱の教育施設も新たに出来ており、非常にわかりやすい展示に感心。合
わせて海岸にそびえる巨大な太陽光パネル(440kW)も見学できました。
さらに市立歴史博物館、カタルーニャ歴史博物館を訪れ、「ここはスペインとは
別の国だよ」と言い切る市民達の感覚を少しはつかめたように思います。
 バルセロナは今年行われた欧州環境首都2012、2013コンテストにて
最高得点を記録しました。残念ながら環境首都には選ばれませんでしたが、
2011年首都であるハンブルクと並び総合的に高い評価を獲得。そんな街の
実像に迫るべく、今回は地元NPOを中心に話を聞きました。
 これまでにも書いてきた通り、バルセロナで最も興味深い制度は2000年
に導入された太陽熱義務化条例(S.O.)です。トップダウン型で何をするに
も中央=マドリッドにお伺いをたてなければならないスペインにおいて、温熱
部門という国の政策のギャップを見抜き、独自にS.O.を定めそれが各地に
広がっていったのは極めて例外的なことでした。マドリッドの自然エネルギー
コンサルタントも「バルセロナのS.O.導入はスペイン全体にとって重要だ
った」とその意義を認めています。しかし今回のインタビューでは、その時期
を境に行政と地域ネットワークの関係性が薄れていったことが浮き彫りになり
ました。
 2000年以前は市議であり、S.O.を含む環境政策の立案に尽力した
Josep Puig氏によれば「2000年以前と以降は大きく状況が変わってしまっ
た。」それまで進めていたアジェンダ21の内容は大きく弱められ、市のエネル
ギー計画は現状延長型で政策的な追加措置はなされず、地域エネルギーセンタ
ーも官僚的になっていると嘆きます。S.O.についても改善の余地があり、
制度対象外である既築ビルへの対策も課題のまま、バルセロナには総合的な気
候変動戦略が不在。さらにこうした停滞の背後には巨大ガス会社の存在がある
と指摘しています。
 またバルセロナに拠点を置くあるNPOによれば「この10年で太陽熱や太陽
光の導入は進んでいるが制度的な発展は無く、協働関係も無くなってしまっ
た。」最近、彼らが市民出資の太陽光設置の仕組みを作りあげ、大きく展開する
ための協働の提案を行ったが、市側に断られるということもあったそうです。
 一方でなぜ環境都市としてのバルセロナの評価はこの10年で大きく上昇し
たのか? 上記のNPOは「他都市での取組みが非常に乏しいこともあり、
2000年までの議論をもとに多くの施策をすでに導入済みという点ではスペ
イン随一と言える。しかしそれ以上にこの街が持つ芸術・文化・観光都市とし
ての良いイメージとの抱き合わせで、実情以上に名前が売れてきているので。」
と語っています。
 今回のインタビューで評価と実情との差を把握できたことは大きな収穫でし
た。1月末には市と地域エネルギー事務所へのインタビューを予定しています。
NPOとは異なる意見をどこまで引き出せるのか、十分に準備して臨みます。
 最後に、今回話を聞いた方々が逆境の中であっても常に街の発展のための取
組みを試みている姿勢に勇気をもらいました。SEENへの掲載許可への感謝
の念とともにここに記します。

                   山下紀明(ISEP主任研究員/
            ベルリン自由大学環境政策研究センター博士課程)
5.ルンド大学IIIEE留学記 第3回
                      澤木千尋(ISEP研究員)

12月13日にはルシア祭が大学構内で行われ、サフランブレッドやジンジャ
ークッキー等がキッチンに並びました。そして、24日のクリスマスには、皆
家族とゆっくり過ごすというのが習慣であるため、ルンドの町はどこもお店を
締めひっそりとしていました。

今回は、学校の授業で学んだ、2009年にOrsato氏によって紹介された企業
によるサステイナビリティ戦略について紹介したいと思います。

■4つの異なるサステイナビリティ戦略
Orsato氏は、企業による一般的なサステイナビリティ戦略を、それぞれの企業
にとって望ましい競争上の優位性(低コストvs. 差異化)、又は焦点(組織の
プロセスvs.商品・サービス)に応じ、4つのステージに分けて紹介していま
す。

Orsato’s (2009) generic sustainability strategies

戦略1、環境効率
この戦略は、運営上の効率を高め、商品生産や組織上のプロセスにおけるコス
トを大幅に削減するよう再設計し、それによる環境への影響が追加的な収入源
となるというものです。Orsato氏は、環境効率の向上により、資源利用の向上
やイノベーションへのブレークスルーとなり、更には産業間の共生(symbiosis)
にも繋がりうると言及しています。また、この戦略はB2Bが適しており、特に
農業関連産業における共生(symbiosis)、例えば、副産物をバイオエネルギー
生産事業者と売買し、それを活用するといったことが可能であり、そのポテン
シャルは大いに高いといえます。

戦略2、ビヨンド・コンプライアンス・リーダーシップ
これは、企業はその産業におけるサステイナビリティ・リーダーとなるために
クリーナー・プロダクションに関する規制をクリアする等の努力をし、ポジテ
ィブな評判を構築するという戦略です。たとえば、ISO規格を取得すること
などが挙げられますが、取得には数年かかり、また維持にもコストなどがかか
るため、より企業にとって困難なものとなります。しかしながら、メディアの
標的となる重工業や知名度のあるブランドを有する企業にとっては、この戦略
は評判低下のリスク回避のためにも最も適しているといえます。

戦略3、エコ・ブランディング
これは、生産プロセスからシフトし、実際に環境への影響に配慮した商品を提
供するという戦略です。環境配慮に関する適切な情報が表示され、又、消費者
が追加料金を払う意思があれば、当該商品は「環境にやさしい」商品としてブ
ランディングされ、更にその商品が競争力を有することになります。

戦略4、環境コスト・リーダーシップ
これは、企業が商品を低コストで生産し、同時に環境へのインパクトも大幅に
減らすという戦略です。たとえば、環境配慮型商品に対し消費者が追加料金を
支払う意思がなく市場になじまない場合に、一つの同じ製品を生産するための
資源利用を減らし、それが費用削減に繋がるということです。たとえば、包装
関連の企業が環境規制に則り、環境負荷を減らすよう、原材料を変更するなど
商品の環境設計を試みるということが挙げられます。

もちろん、比較的高コストとなる差異化は、低価格戦略にも起こりうることも
あります。たとえば、マクドナルドとバーガーキングは低価格を基本に競合し
ていますが、その中で再利用可能なパッケージを導入するなどの差異化も計っ
ています。しかし、これら4つの戦略の枠組を設けることにより、より簡潔な
環境戦略の理解を促し、その理解をもって各企業は自信のポジションを選択し
決定することになります。もっとも、これらは各企業のポジションの確立を促
すものであって、1つの戦略のみに固執するのではなく、他全体の戦略を見据
える必要があります。

[参考文献]
Orsato, R. J. (2009). Sustainability Strategies - When does it pay to be
green? : Palgrave Macmillan.

                      澤木千尋(ISEP研究員)
6.デンマーク・オールボーから(4):留学と情報環境
       古屋将太(Aalborg University, PhD student/ISEP fellow)

時間が経つのは早いもので、21世紀の最初の10年が過ぎ、残り90年とな
りました。何かの間違いがない限り、私は22世紀を迎えることはないとは思
いますが、この10年のインターネットを含む情報環境の変化の大きさを振り
返ると、22世紀の情報環境がどのようになっているのかまったく想像できま
せん。年末年始は、そういったことを考えながら棚を占領している資料や書籍
をスキャナーで次々と電子化していたのですが、この機会に留学と情報環境に
ついて書いてみたいと思います。

まず思い出すのが、学部時代に留学していた友人が、大量のデータをCD─R
に焼いて持って帰ってきたことです。データの内容は音楽やマンガだったかと
思いますが、00年代前半の当時からすでに留学に際して情報を電子化して持
ち運ぶという行動ははじまっていたようです。しかし、このときあくまでも「そ
のまま持っていくとかさばる荷物の物理的な量を小さくする」という意味での
電子化だったようです。

その後、00年代後半に入り、私自身も留学することになったのですが、まず
感じたことは学術雑誌の電子化についての英語圏と日本語圏での落差でした。
これは単純に市場規模の違いによる部分が大きいのだろうと思いますが、英語
圏の学術雑誌の大半は大手出版社が紙版と電子版の両方を手がけており、論文
がPDFで手に入らないということはまずありません。一方、あくまでも私が
関心をもっている範囲内ですが、日本の学術雑誌の論文がPDFで手に入るこ
とは(大学の紀要等を除き)ほとんどありません。

次に感じたことは、論文の電子化は進んでいるといっても、やはり紙の書籍は
「連続性をもったひとつの情報の単位」なのであるということでした。参考文
献を探す際に、ある議論の文脈を辿っていくと、必ずその分野の「スタンダー
ド」として認識されている書籍に行き着きます。博士論文を書くということは、
そういった文脈を掘り起こすことを繰り返し、まさに「巨人の肩の上」に乗っ
て何らかのプラスαを加える作業なのですが、Googleブックスで一部を見るこ
とができるとはいえ、書籍に関しては紙版で手に入れることが多いのが現状で
す。

しかし、10年代に入り、書籍の電子化も量的・質的両方の意味で変化を迎え
つつあると感じます。私は、新しい情報環境の中に入り込んで遊ぶことが好き
な性格なので、昨年一時帰国した際にiPadを手に入れ(※1)、電子書籍とは
どんなものかひと通り試してみたところ、最近では、まずAmazonアメリカの
Kindle eBook Storeで検索し、電子版がなければAmazonドイツもしくはAmazon
イギリスで紙版を探すというように行動が変わってきました(※2)。やはり「そ
の場で手に入る」「検索できる」「ハイライトやノートを残せる」「紙版よりも若
干価格が安い」という電子版のメリットは大きいと思います。

こうした情報環境の変化はますます「世界をフラット化(※3)」させ、ともす
れば「たいていの情報はどこでも手に入るからわざわざ留学する必要もないの
ではないか」という考え方も出てくるかと思います。しかし、どんなに情報環
境がフラット化しても、掘り起こそうとする文脈やキーワードは、現実で空間
を共有する他者と対面でコミュニケーションする中で出会うことが多く、それ
は「情報」に置き換えることができない「知識」なのだろうと思います。これ
からの留学の意味というのは、「スパイキーな世界(※4)」に偏在する知識に
辿り着き、「フラットな世界」の情報を最大限活用することにあるのではないか
と思います。


※1 デンマークではつい最近までiPadは販売されていませんでした。

※2 AmazonのKindle eBook Storeはイギリスでも展開しているものの、現
在購入できるのはイギリス在住者に限定されています。また、デンマークでは
Amazonそのものがないので、書籍を買う場合はAmazonドイツもしくは
Amazonイギリスを利用することになります。

※3 ニューヨーク・タイムズ紙コラムニストのトーマス・フリードマンは、
ICTの進歩により人間活動の舞台は均一化が進んでいるとして、「世界はフラ
ットだ」と提唱しています。(トーマス・フリードマン著/伏見威蕃訳『フラッ
ト化する世界』(上・下巻)日本経済新聞社)

※4カナダ・トロント大学教授のリチャード・フロリダは、フリードマンの主
張に対し、イノベーションの担い手であるクリエイティブ・クラスはより居心
地の良い場所を求めて都市などを移動しており、その集積を地図上で見れば現
実はむしろ「スパイキーな世界」であると主張している。(リチャード・フロリ
ダ著/井口典夫訳『クリエイティブ都市論』ダイアモンド社)

       古屋将太(Aalborg University, PhD student/ISEP fellow)
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