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1. デリー再生可能エネルギー国際会議(DIREC)報告
  ISEP研究部長 エリック マーティノー
2. DIREC2010で実感したこと ~世界の長期シナリオについて考える
  ISEP理事/主席研究員 松原弘直
3. DIREC 報告 現場としての自治体
  主任研究員 山下紀明
4. 自然エネルギー金融セッション報告
  古屋将太(Aalborg University, PhD student/ ISEP fellow)
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1. デリー再生可能エネルギー国際会議(DIREC)
ISEP研究部長 エリック マーティノー

2010年10月27日~29日にインドのデリーにて、インド政府主催の「デリー再生可能エネルギー国際会議(DIREC)」が開催された。この会議には政府高官、国際機関、市民団体、民間セクターから1300人以上が参加し、自然エネルギー、エネルギー安全保障、気候変動、経済発展について討議を行った。形式は全体会合、閣僚級会合、ステークホルダーによるフォーラム、CEOによる円卓会議など多岐にわたり、主要な4つのテーマである技術、政策、ファイナンス、遠隔地でのエネルギー供給についての議論が行われた。これと同時にワークショップ、サイドイベント、最新の技術を紹介する自然エネルギー見本市も開かれた。また、閉会にあたっては、デリー宣言も採択され、政府、NGO、業界が多くの取組みを約束し、その約束はデリー国際アクションプログラムに盛り込まれた。

DIRECは2004年にドイツ政府の主催によってボンで開かれて以来、4回目の閣僚級の会合となる。ボン会議の後は2005年に北京で、2008年にワシントンD.C.で開催されている。この一連の会議や政府間やステークホルダー、業界の会合によって「国際アクションプログラム(IAP)」が推進されており、このIAPには先進国と途上国の双方の自然エネルギーに関する自主的な取組み、コミットメント、目標が含まれている。IAPはREN21(21世紀のための自然エネルギー政策ネットワーク:www.ren21.net)によって管理されている。

DIRECはREN21代表のMohamed El-Ashry氏とインドの新再生可能エネルギー省Deepak Gupta大臣によって開会された。El-Ashry氏は2008年のワシントン自然エネルギー国際会議(WIREC)以降の自然エネルギーに関する発展に焦点をあて、先進国と途上国双方からの自然エネルギーに対する政治的なコミットメントが近年増えていることを強調した。また、気候変動による影響は急速し、エネルギー安全保障やエネルギー確保の必要性からも、自然エネルギーの成長は経済不況にも関わらず続いて行くだろうとの見通しを示した。一方、Gupta大臣は政府機関やステークホルダーにデリー国際アクションプログラムへの署名と共に自然エネルギーに関するコミットメントを呼びかけ、こうしたコミットメントがDIRECの成功へと導くであろうと強調した。

会合では「カンクーンへの道」とのセッションが設けられ、特に2010年12月にメキシコのカンクーンで開催されるUNFCCCのCOP16に関連づけて、気候変動の緩和と適応に関する国際的な取組みについて話し合われた。「緑の経済と自然エネルギーの役割」のセッションでは、インドの20~25%の排出量削減計画と豊富な太陽エネルギー源の利用について発表された。「ビジョン2020-エネルギー安全保障、気候変動、経済発展における自然エネルギーの役割」のセッションでは、2020年と2030年に焦点をあて、IEAのWorld Energy Outlookが紹介された。World Energy Outlookでは、2010年から2030年にかけて新しいエネルギーのインフラに対する投資額は5兆ドルになると予測され、R&Dと新しい政策の重要性が述べられている。ヨーロッパ風力エネルギー連合(EWEA)のArthouros Zervos会長は、自然エネルギーは今後のエネルギーシステムの基礎であると述べ、世界での自然エネルギー目標の達成を楽観的に捉えた。また、自然エネルギーの成長は期待を上回るものであり、長期的には経済的であるとの見解も示した。

全体会合の後は、3つのセッションに分かれ、閣僚、ステークホルダー、CEOがそれぞれの立場から自然エネルギーを議論した。エネルギー関連の各国の閣僚が、エネルギーの国際的な取組みに関する問題点、解決に向けての選択肢、また技術によって自然エネルギーがエネルギー産業を支配できるかについて討議した。数人の閣僚は、自然エネルギーの今後の成長の度合いが国によって違うことを認識しつつも、セクター間や国境を超えての協力の必要性を強調した。ステークホルダー間の会議では、「人的資源」への投資、貧困層にとっての新しいビジネスモデルとなることも考慮したエネルギーの供給、政治的な行動を起こさない、あるいは遅らせることによる生じるコスト、今後の自然エネルギー産業の規模(今後20年で40~50兆米ドル)、製造者がクリーンエネルギー技術をさらに吸収することによってしっかりした流通機構が発展することなどが議論された。多くの討論者は自然エネルギーを拡大させるには政府が先導しなければならないと主張した。

CEOによる円卓会議では、パネリストが自然エネルギー産業の目標を発表した。多くのパネリストらが政府に対し、長期的に安定性のある、明確で一貫性した政策ガイドラインを設けるのと共に、国策としての自然エネルギー戦略を明確にするよう要求した。また参加者は、二酸化炭素の価格の有無に関わらず、R&Dによってエネルギーのコストは下がり、太陽および風力エネルギーのコストも従って競争力をつけるであろうとの確信を示した。二酸化炭素に標準価格を設けるのは難しいため、代わりに二酸化炭素の排出規制を強化してはとの提案も出された。太陽光市場は固定価格買取制度を通じて数カ国によって拡大しており、多くの場合太陽光コストはピークロードの生産時のコストに匹敵しているとの指摘もあった。

2日目は技術、政策、ファイナンス、遠隔地におけるエネルギー供給についての4つのトラックが同時並行で進み、3日目の全体会合においてまとめられた。技術に関するトラックでは、過去20年間の自然エネルギー技術の進歩について言及される一方で、温室効果ガスを450ppmに抑えるには一層の努力が必要であるとの警告がなされた。また、「スマートグリッド」、グリーン建築設計、電気自動車、次世代バイオ燃料、地域冷暖房における自然エネルギー、製造とマーケティングの重要性についても討論が行われた。

政策トラックでは、今後自然エネルギー利用の割合を50~100%にするとのシナリオは技術的にも財政的にも困難ではあるが達成できるとの結論に達した。各国は今後のエネルギーの系統を計画して行く上でも、政策だけではなく技術革新をも必要とするような政策の成功例を相互に学びあう必要がある。ファイナンスのトラックでは、産業界と政府が自然エネルギーに前例のないやり方で協力しながら投資をしていることについて言及されたものの、金融の流れを促進するためには新たな政策が不可欠であり、また、自然エネルギー政策は環境政策よりもむしろ産業と輸出の政策に照準をあてなければならない。世界の新しい金融イニシアチブが見直され、強化された。

 DIRECは「DIREC宣言」を締結して閉会した。「DIREC宣言」は以下の通りである。

・自然エネルギーの恩恵はさまざまである。特に貧困層に対するエネルギーの供給や、雇用の機会、大気汚染の改善、エネルギー安全保障などがある。

・自然エネルギーの成長は政策によって後押しされている。

・自然エネルギーが一次エネルギー供給に占める割合は世界全体では低く、導入地域も偏っている。また、世界の人口の大部分には近代的なエネルギーが供給できていない状態が続いている。

・2030年までに近代的なエネルギーサービスを供給するための目標が国連事務総長のエネルギー及び気候変動に関する諮問グループによって公表されたが、これは賞賛すべきものである。

・DIRECは、UNが2010年をエネルギー供給の国際年とすることを要求する。

・DIRECは、費用効率が高く、より革新的な技術に対する研究、開発、設置(RD&D)への投資の重要性と国際協力を再認識する。

・政府による一貫性のある政策は技術開発に好影響を与え、さらには自然エネルギーが普及するのに役立つであろう。

・DIRECは、発展途上国の人や組織の能力を強化するために、国際的な取組みを歓迎する。

・公的資金は保証やリスク負担などを通じて、大型の民間投資を発展途上国へ呼び込むのに役立っている。

・DIRECはデリー国際行動プログラムを歓迎する。この国際プログラムは政府、国際機関、民間企業、市民団体などが自然エネルギーの拡大を目的として、自らの権限や責任において自主行動を起こす事を奨励するものである。

 結論として、DIRECは多くの異なるステークホルダーや政府高官が会した重要なフォーラムであったといえる。同時並行で進められたセッションやイベントも多様であり、また全てのセッションが堅苦しいプレゼンテーションではなくパネルディスカッションであったため、高いレベルでの交流ができた。DIRECによって、自然エネルギーの国際的な発展と対話へのきっかけがもたらされた。
2. DIREC2010で実感したこと ~世界の長期シナリオについて考える
ISEP理事/主席研究員 松原弘直

この再生可能エネルギーの国際会議DIREC2010を知る日本人はまだまだ少ない。ちょうど生物多様性の国際会議COP10が開催された時期と重なったこともあるが、日本国内では海外の再生可能エネルギーの急成長を実感できる機会はほとんどなく、国内での課題と向き合うのに精一杯で、インドの様な発展途上国で開かれる国際会議への関心は小さいのが当たり前かもしれない。そこで、まず日本国内でこの国際会議を紹介する特集ページをJREPP(自然エネルギー政策ポータルサイト)にオープンした(http://www.re-policy.jp/DIREC2010/ )。少しずつ情報を掲載しているが、会議に参加して得た情報をさらに掲載していく予定なので、是非、ご覧頂きたい。

実際に会議に参加すると日本の存在感があまりにも小さいことに驚いたが、世界の急成長からみると日本は、いまや再生可能エネルギーの世界では「途上国」なのである。もちろん、政策的・制度的にもっとも進んでいるのは欧州(EU)だが、最近は中国やインドなど、その政策手法や制度を取り入れて急成長している発展途上国が多くある。その中、日本の現状を少しでも知ってもらおうと、日本で初めて発刊した自然エネルギー白書2010の要約版を英訳してリーフレットとして会場で配布した。会議2日目の政策トラック中で、ISEPの飯田所長が再生可能エネルギーに対して四面楚歌の日本の政策状況を紹介しており、日本の現状を世界の中で客観的に評価できる良い機会だったと考えている。

会議の2日目に4つに分かれたトラックの一つで「政策(Policy)」について議論が行われた。今回はその中で、最初のセッションで議論された「長期シナリオ」に焦点を当てて紹介する。長期シナリオは、最近発表された欧州でのいわゆる再生可能エネルギー100%シナリオなど、これまでと比較してさらに先進的なシナリオが発表されるようになってきている。IEAやEUの業界団体などが主催するサイドイベントでもテーマとして取り上げられており、それも合わせて紹介をする。この長期シナリオのセッションでは、ISEPの研究部長Eric Martinotがモデレータを務め、政策決定において重要な長期的な再生可能エネルギーの導入シナリオについて、多角的に議論された。EUやドイツにおいては、これまでの大幅な導入の成功を受けて、すでに2050年までに再生可能エネルギーによる電力供給を100%するシナリオが提案されおり、実際にそれを実現するために必要な政策や制度、基盤の整備にかかる費用などがテーマとなっている。再生可能エネルギーの大量導入に関する費用については、気候変動への対応や化石燃料使用の低減、そして産業発展や雇用増大など、得られる多くのメリットに比べれば長期的にみて、十分に低いという指摘がされた。

サイドイベントでは、具体的な長期シナリオの紹介があり、EREC(European Renewable Energy Council)とグリーンピース・インターナショナルの共催イベントでは、ERECのシナリオ”RE-Thinking 2050”での欧州100%再生可能エネルギーシナリオや、全世界を対象としたシナリオとしてグリーンピースの”Energy [R]evolution”最新版などが紹介された。ERECのシナリオでは、電力だけではなく、熱利用や運輸燃料を含む総エネルギー需要100%が2050年までに可能であることが示されている。”Energy [R]evolution”では、世界の平均気温の上昇を2℃以下とするため、世界のCO2排出量を2050年までに80%削減し、再生可能エネルギーの導入割合を世界全体で80%までにするためのシナリオを示している。一方、IEA-RETDとIRENAが共催したサイドイベントでは、IEAとしてはもっとも大胆なACESシナリオを発表しており、2100年までに大気中のCO2濃度を400ppmまで安定化するためのシナリオとなっている。

これらの長期シナリオが示しているのは、世界が目指すビジョンの実現は決して安易なものではなく、様々な政策や技術の革新、果敢なチャレンジや大規模な投資が必要であり、各国政府や多くのステークホルダーが協力して初めて実現できるものであるということである。そして、世界の国々はすでにその実現向けて走り始めているということが、この会議を通して改めて実感することができた。
3. DIREC 報告 現場としての自治体
主任研究員 山下紀明

 DIRECでは2つの場で地方自治体についての議論が行われました。一つは初日の午前午後を通して行われたICLEI(持続可能性を目指す自治体協議会)南アジアなどによるパラレルワークショップ「Strategy for Sustainable Habitat(持続可能な住環境のための戦略)」。もう一つは2日目午後に政策トラックの中のセッションとして行われた「State and Local Governments(州および地方政府)」。それぞれの報告や討論を通じて問題の現場であり解決策を実践する場となる自治体が抱える共通の課題、先進国と途上国での異なる課題について認識しました。
 「持続可能な居住環境のための戦略」での最初のセッションではインド、ドイツ、米国やイタリアなど各国の政府や研究機関からの報告者が地方自治体の重要性と期待について述べました。そのなかの一人として当研究所の研究部長Eric Martinotも登壇。これまで彼が中心となってまとめてきた「自然エネルギー世界白書」と「地方自治体の自然エネルギー政策に関する世界白書」の概要を紹介しました。
 つづいての「持続可能性とグリーンな都市」のセッションでは、米国のソーラー都市、インドでの取り組み、ICLEIのブラジルやインドにおける活動からの課題と教訓などが紹介されました。米国のソーラー都市で興味深いのは、ミシガン州やカリフォルニア州で行われた共同購入プログラムです。自治体や地域団体が太陽光や太陽熱に興味のある市民や会社を募り、量をまとめて一括購入することで価格交渉力を上げ、パネルや施工にかかる初期費用を下げる効果があります。インドでも太陽光や太陽熱の取り組みがはじまっており、エネルギー効率化や建築、水利用といった各分野と連携して進められていることが報告されました。
 2日目の「州および地方政府」セッションについては、提示された4つの論点に沿って報告や議論をまとめておきます。

1.自然エネルギー促進の成功事例について
-数多くの成功事例と失敗事例から学ぶべきであり、情報ネットワークがますます必要である(このことは一見当然であるが、世界各地で同じような失敗が何度も繰り返されているという現状がある。)
-環境政策と雇用や産業などの社会経済的側面を統合して解決すること
-必ずしも最初から包括的な戦略が必要な訳ではなく、取り組みやすい分野から進めていく柔軟な姿勢も重要
-継続的な取り組みの向上のためにはマネジメントシステムや評価システムが鍵

2.都市計画
-地方自治体は発展の速度に注意を払うこと。特にデリーのような途上国の大都市では急速な都市化、人口流入、エネルギー需要の増大が極めて深刻な問題となっている
-適切な都市空間計画と交通システムが鍵

3.マイクロファイナンスと消費者金融
-それぞれに自然エネルギー導入の初期費用として活用されており一定の意義がある。同時に運転管理時の費用については補助金等も少なく問題となっている。

4.地域の能力開発
-人的資源が予算と同時に最も重要。特に農村地域では運転管理のための能力開発と訓練が必要。

 こうした議論からは2つの重要な点が見えてきます。共通の課題としての環境政策統合、都市・地域計画。一方で途上国の都市では発展速度の問題、農村地域ではファイナンスと能力開発という極めて重要な課題があること。これらの課題に取り組む国際ネットワークや研究はいくつもありますが、その数は圧倒的に不足しています。地域固有の文脈と状況を共有して長期的に課題解決に取り組む組織は今後ますます重要になっていくでしょう。
 また「地方自治体の重要性と責任は極めて大きい。国際交渉で将来の排出削減について話し合われている一方で自治体は積極的に進めなければならない」という発言がありました。昨年のCOP15に向けた自治体会議でも同様の趣旨の文章があり、意識ある自治体の共通認識が出来つつあることを感じました。
 このほか会議全体で感じたのは、ドイツ、イタリア、米国、デンマークの存在感です。これらの国はインドとの強いつながりを示すかのように大きなサイドイベントや報告の至る所に顔を出していました。今後ますます自然エネルギーの大きな市場となるであろうインド・中国に対して国際支援とビジネスの両側面から結びつきを強めていることを実感しました。

米国のソーラー都市については下記(英語)
http://www.solaramericacities.energy.gov/
Solar Powering Your Community: A Guide for Local Governments(パンフレット )
http://www.solaramericacities.energy.gov/resources/guide_for_local_governments/

イクレイ南アジアのサイドイベントについては下記イクレイ日本のウェブサイトから概要やリンクがご覧になれます。
http://www.iclei.org/index.php?id=11823
4. 自然エネルギー金融セッション報告
古屋将太(Aalborg University, PhD student/ ISEP fellow)

今回の会議では、私は自然エネルギーの金融に関するセッションを中心に参加してきました。そこでの議論の概要を報告します。

2日目午前第3トラックで行われたファイナンス・セッション1「金融イノベーション:プロジェクト、ビジネス、技術」では、国連環境計画(UNEP)のエリック・アッシャー(Eric Usher)氏をモデレーターとして、「自然エネルギー金融イノベーションの最前線はどこにあるのか?そして、それはどのように資金調達されるのか?」「先発者(First mover)のコストと報酬はどのようなものか?」「イノベーションを支援する公的金融(Public finance)の役割はどのようなものか?」などの論点が議論されました。グローバルに自然エネルギー事業の金融を手がけている国際金融機関やアジア開発銀行、インド国内の案件を手がけてきた公的開発機関などが、これまでの経験や課題を共有するなかで以下のようなポイントが現れてきました。

- 世界の金融機関は明確に自然エネルギーを重要なセクターであると認識している
- この2~3年で公的金融機関の参入が増えており、重要な役割を果たしつつある
- 開発ステージ毎に質・量ともに異なる資金需要とリスクに各種金融機関はどのように応えるのか
- 国際金融機関やメガバンクがどのように地域金融機関の参入機会を創出できるのか
- 新しいビジネスモデルが求められており、そこには新しい金融モデルが密接に関連する
- 自然エネルギー金融は技術的、経済的側面だけでなく社会的側面(雇用や人材育成)を十分に考慮する必要がある

2日目午後第3トラックで行われたファイナンス・セッション3「スモールビジネスとエンドユーザーへの金融」では、国連財団(UN Foundation)のリチェンダ・ヴァン・リューウェン氏(Richenda Van Leeuwen)をモデレーターとして、「中小企業の自然エネルギービジネスにどのような金融が必要とされているのか?」「エンドユーザーにはどのような自然エネルギー金融が必要とされているのか?」などの論点について、主に途上国にフォーカスした議論が行われました。 特に農村における独立・分散型自然エネルギーの普及がカギとなるラテンアメリカやアジアでの経験や課題を共有するなかで以下のようなポイントが現れてきました。

- 途上国ではマイクロファイナンスを応用したソーラープログラムが成果を出しはじめている
- エンドユーザーの導入プログラムから、中小企業による一定規模のプロジェクトまで、マルチスケールでそれぞれのリスクに対応する金融オプションが必要とされている
- すでに技術は入手可能だが、金融機関の認識が「市場の存在」に追いついていない部分がある
- 公的金融機関のコミットメントによる「リスク共有の仕組み(Risk sharing mechanism)」は、地域金融機関参入の動機付けになる可能性がある
- 途上国ではCDM等のカーボンファイナンスが事業性を向上させるオプションになる可能性がある
- 個別の成功モデルを広く展開するためには、地域の技術者の育成だけでなく、モデルの経済的・社会的意味を翻訳し、他のアクターに伝える、金融機関の人材育成も必要となる

これらの金融関連のセッションに参加して得た印象は、途上国における自然エネルギー金融の加速です。特に開催国であるインドには農村や遠隔地における深刻なエネルギーアクセスの欠如ゆえに「いかにしてすでに入手可能な技術を素早く導入するか」という問題設定があり、政府による推進もあり、これに国際的な金融イニシアティブが連携するかたちで、ステークホルダーの生態系が形成されています。その中では現実にどのようなタイミングでどのようなリスクがあり、金融機関はそれにどのように対応するのかという学習が繰り返され、自然エネルギー金融の知識が分節化・蓄積されていきているという印象があります。

一方、途上国のようなエネルギーアクセス問題がない日本では、このような動機付けが働かず、また、政策的支援も十分ではないため、自然エネルギー金融の進化も生じていないように思われます。しかしながら、分散型で地域を単位とする自然エネルギーの特性を考えた場合、途上国で試行錯誤されている金融モデルから学び、日本の地域自然エネルギー導入へ応用を検討することは重要だと考えられます。この点に関しては、現在、ISEPを中心に進めている自然エネルギーの地域間連携モデル研究へと活かしていきたいと思います。

上記の金融セッションの他、マルチステークホルダー対話セッション等にも参加して感じたことは、特に人材育成面での日本の危うさでした。欧州をはじめとして、中国・インド・ブラジル等の新興国も含めて世界の自然エネルギー導入は圧倒的なスピードで進んでおり、それにともなって起業家や技術者の育成も進んでいて、今後も「さまざまな分野で人材育成が極めて重要である」ということが、あらゆるセッションで強調されていました。

この点に関して日本を振り返ってみると、自然エネルギーについて幅広くトレーニングを受ける場が国内に不足していると言わざるを得ず、今後30~50年という長期的な視点で考えた場合、これはかなり危ういのではないかと思いました。それでも、所長から借りた『ウェブで学ぶ - オープンエデュケーションと知の革命』(梅田望夫/飯吉透, ちくま新書)を帰りの航空機内で読み、「意志ある個人がインターネットで自ら自然エネルギーについて学び、地域でイニシアティブを発揮する可能性もあるのかな」とも思いました。
1.風発:よくわかる自然エネルギー(4)
                       飯田哲也(ISEP所長)

・政策の仕組み-固定価格制度の展開

 現在、政府が自然エネルギーの「全量買取制度」を検討しているが、その起
源は1978年にアメリカで公布された「自然エネルギー買取法」だ。
 特にカリフォルニア州で手厚い減税と高い買取価格が定められ、80年代に
同州だけで風車建設ラッシュが起きた。
 欧州では、84年にデンマークで風力協同組合と電力会社、政府が電力購入
の「3者合意」を結び、その後のひな型となった。これがドイツに渡って、今
日の固定価格制度の原型となる「電力供給法」が90年に成立した。
 自然エネルギーを電気料金の90%の価格で買うという制度により、風力発
電の本格的な普及が始まった。その後、この政策はデンマーク、スペインへと
「輸出」されていった。
 片や英国では、90年に自然エネルギーを競争入札で競わせる政策を導入。
2000年に見直したが、いずれも十分な普及効果が得られなかった。
 その後、電力供給法には2つの重大な課題が生じた。一律価格のため、風の
強い地域に集中して風力発電が伸びたものの、太陽光発電など、ほかの自然エ
ネルギーや、ほかの地域では普及が進まず、風力発電が集中した地域の電力会
社に負担が大きくなったことだ。
 1995年にドイツのアーヘン市が電気料金に地方税を上乗せし、それで太
陽光発電を電気料金の10倍で買うという制度を導入。瞬く間にドイツ中の都
市に広がった。ちょうど98年に成立した新政権が、これを参考に法改正を行
い、国民が平等負担するように見直して、今日の「自然エネルギー促進法」
(2000年)となった。
 こうして自然エネルギーを普及させる「政策の仕組み」が世界中に広がり、
発展していったが、日本は取り残され、「補助金」頼みが続いてきたのだ。

・費用負担とコスト-将来への投資の責任

 現在、政府が自然エネルギーの固定買取制度を検討している。その中で、平
均的な家庭で月に100~500円と試算されている、消費者の費用負担が議
論になっている。また、重工業など電力の大需要家も費用負担への懸念を訴え
ている。
 確かに、社会全体による負担は公平である必要があり、負担が過大となって
は困る。しかし、何と比べて「公平」「過大」なのか、立ち止まって考える必要
があるだろう。自然エネルギーの負担だけを見ると、問題の本質を見失ってし
まう。
 原油価格が高騰した2008年には、電気料金がいきなり500円も上乗せ
された。その年、日本は化石燃料を23兆円も輸入している。
 国内総生産(GDP)の5%もの国富(国全体の富)を、ただ海外に支払っ
ただけで、国内のエネルギー設備の形成には何の役にも立っていない。こうし
た費用負担とも公平に比較する必要がある。
 自然エネルギーの特性を、少し長い時間軸で考えてみる必要もある。小規模
分散型技術である自然エネルギーは、パソコンや携帯電話などと同じように、
「作れば作るほど性能が上がり、安くなる」という技術的特長を持っている。
 中でも風力発電は、すでに従来の化石燃料発電よりも安くなっている国や事
例が生まれつつある。高コストとされる太陽光発電も、年5割を超える急速な
市場拡大で一気にコストが下がりつつあり、数年で電気料金よりも安くなると
予想されている。
 つまり長い目で見ると、自然エネルギーのための費用負担はどんどん小さく
なり、やがては不要となる上、化石燃料の輸入も削減することができる。しか
も化石燃料は、今後も高騰や乱高下の不安があるのだ。
 そして汚染者負担原則も忘れてはならない。私たち電気の消費者は同時に地
球温暖化などの責任も負っており、将来に向けた投資をする責任があるのだ。

・新産業の興隆-存在感なく出遅れている日本

 100年前、T型フォードの第1号が世に送り出された。これがその後、「ビ
ッグ3」に代表される自動車産業として急成長した。
 これに歩調を合わせたのが石油産業。競合する鉄道会社を買収し破綻させて
まで、成長したことが知られている。こうして20世紀は、自動車と石油の世
紀となった。
 その自動車産業の象徴であるビッグ3は、2009年にいずれも事実上の倒
産となった。石油も、地球温暖化への対応に加えて、「ピークオイル」(=石油
生産が近年ピークを迎え、減少していくこと)への懸念などから、本格的な「脱
石油」の時代を迎えている。
 こうした世紀単位で産業が盛衰しつつある今日、自然エネルギー産業が興隆
している。すでに何度か触れた通り、自然エネルギー市場は年率60%の勢い
で成長しており、今や世界で15兆円市場に達し、10年後には100兆円市
場を伺う勢いである。
 その中で、自然エネルギー企業も急成長している。多くは10年以内に起業
した自然エネルギー・ベンチャーで、今や時価総額で1兆円を超える企業が4
社(09年5月時点)、1000億円超ではさらに10社以上に及ぶ。
 こうした企業の多くは、自然エネルギー先進国のドイツはもちろん、スペイ
ン、ノルウェー、ポルトガル、そして中国、米国、インド、台湾と多様な新興
国にも広がっている。まさに現代のグリーン産業革命の恩恵にあずかろうと、
世界中が自然エネルギー産業の創出を競っている。
 ところが日本は、太陽光発電を輸出する一部の大企業を除いては、ここでも
ほとんど存在感が無く、大きく出遅れている。かつてのホンダやソニーのよう
に、未来を見据えて世界市場に打って出る、21世紀の社会起業家の登場を期
待したい。

「聖教新聞」2010年6月7日、6月21日号、7月5日号掲載

                       飯田哲也(ISEP所長)
2.青森エネルギー紀行(12)「究極のエコエネ実験」
                     森治文(朝日新聞青森総局次長)

 11月まで青森も例年に比べて暖かい日が続いていたが、どうやら東京から
新青森まで延びた新幹線がついでにシベリアから寒気も運んできたようだ。つ
いに本格的な冬が到来した。青森の気候はだいたい東京と1カ月ずれるという
のが実感だ。9月は東京の10月、10月は東京の11月、逆に4月は東京の
3月と1カ月遅れという具合。桜が咲くのが4月下旬だから、だいたい当たっ
ていると思う。ただし、12月から2月の冬だけは未体験ゾーン。寒さに耐え、
雪に耐え、そして膨大なエネルギーを消費する季節でもある。
 その冬に向け、6世帯による究極のエコエネ生活が六ヶ所村でスタートした。
新築した2階建ての「スマートハウス」6軒は、東北電力の送電網とは直接つ
ながってはいない。電気の供給はすべて風力と太陽光。NAS蓄電池(ナトリ
ウム硫黄蓄電池)を駆使し、各世帯が24時間いつでも不自由なくエネルギー
が使える。車は自宅前に備え付けた充電スタンドを電源とするプラグインハイ
ブリッド車(PHV)。日本風力開発とトヨタ自動車、パナソニック電工、日立
製作所の4社共同による、一般住居を対象とした世界初のスマートグリッド実
験だ。
 かつて米国でバイオスフィアといわれる巨大な密閉空間に長期間にわたって
科学者らが生活し、究極の自給自足を試みる実験があった。現代版ノアの方舟
などと称されたが、電力会社の送電網と無関係に、自宅の屋根の太陽光パネル
など閉鎖的なエネルギー環境の中にスマートハウスもいわば、エネルギー版ノ
アの方舟。そう考えると心躍らされるものがある。
 この5LDK床面積120平方メートル、高気密高断熱のスマートハウスの
実験は、日本風力開発のメンテナンスなどを担当する現地採用の社員の家族ら
が入居して9月にスタート。11月のなかば、現場が報道関係者に公開された。
 実際の生活空間は見られなかったが、家の中の一部には入らせてもらった。
家具などはこれから入れるという居間の床はフローリング、エアコンあり、テ
レビに配電盤、ごく普通の一軒家という風情だ。違うのは使うエネルギーはH
EMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)によってすべて「見える化」
され、コントロールが可能だということ。テレビモニターや携帯端末などでそ
の時点の電気の消費量が表示されるほか、その電気が自宅の屋根の出力10キ
ロワットの太陽光パネルか、それとも8キロ離れた日本風力開発の二又風力発
電所の発電か、はたまた日立が設置した出力100キロワットの太陽光発電か、
どこから来ているのかもすぐ分かる。あっ、そうそう参加企業からも分かる通
り、ガスはないオール電化である。
 「見える化」が家庭の節電意識を高めるのはよく知られたところ。だが、
2012年7月まで続くこの実験の興味深いのは、「まずは好きなだけエネルギ
ーを使って快適な生活をしてもらう」(関係者)という。
 9月から今年の年末までは入居家庭に対して「見える化」をシャットダウン
する。そうやってデフォルトの各家庭の消費量を見たうえで、電力会社供給の
電気と、今回の閉じた送電網の中での電気による二酸化炭素排出量の差を出し、
そのあとで「見える化」で省エネ意識を促す。電気に使用量に加え、料金も提
示して節約にどう結びつくかも見るという。加えて蓄電機能をまじえて、ピー
ク時に必要な発電量もはじき出す。
 実験に用意した風力、太陽光の出力とNAS蓄電池を持ってすれば、どんな
に6棟が同時に大量の電気を使っても、電気が足りなくなるということにはな
らない。ただ、実験ではわざと送電を止め、各家庭が従来通りに生活できるた
めには、屋根からの電気も想定しながら自宅に取り付けた蓄電池などにどれほ
どの電気を貯めておけばいいのか見るという。
 スマートグリッドの実用化に向けた実験としてどれほどの二酸化炭素削減効
果をもたらすのか、はたまた、旧来の火力や原発を排除した究極のエコエネ生
活の可能性を切り開けるのか、楽しみではある。国と違い民間ベースの実験で
もあり、商用化するために結論は早いだろう。ネックは最終的にはコストにな
るだろう。
 六ヶ所村の地図を見ると、スマートハウスや風力発電所、その送電線がまさ
に、日本原燃の核燃料サイクル施設のすぐ北側を取り囲むようにある。ここだ
けを見ると、次世代をかけた「エネルギー戦争」の様相にも見えるのは私だけ
だろうか。

                     森治文(朝日新聞青森総局次長)
3.上関原発の建設中止へ、いよいよ正念場のとき
                       竹村英明(ISEP顧問)

 山口県の上関原発をめぐる動きが激しくなっている。昨年山口県知事が建設
予定地の埋め立て許可を出してから、現地の緊迫の度合いは高くなった。そし
て今年11月、名古屋で生物多様性条約の第10回締約国会議(COP10)
が開かれている最中に、中国電力が埋め立て工事のための台船を現地に入れた
ことで、緊張はピークに達した。
 建設予定地である上関半島先端の田ノ浦は、瀬戸内海に残された貴重な生物
多様性の宝庫である。その宝庫をCOP10の真っ最中に破壊しようという大
胆な行動に中国電力は出た。それに対し多くの人が反応した。COP10に集
まっていた各国NPOにこの暴挙は一気に伝わったし、広河隆一さんの呼びか
けで160人を超えるジャーナリスト・言論文化人が埋め立て中止を求める緊
急声明を上げた。写真家の中村征夫氏や映画監督の山田洋次氏など、著名な方々
も名を連ねている。
 田ノ浦現地では祝島の漁師さんたちを中心にした24時間体制の抗議行動が
続けられ、緊張が一気に高まったときに、中国電力がチャーターした台船3隻
のうち1隻が座礁、結果的に埋め立て工事は中止された。この原因は抗議活動
によるものではなく、単なるケアレスミスである。
 六ヶ所村の再処理工場、福井県のもんじゅ、東海地震の震源地にある浜岡原
発など人々の注目を集めている施設に比べて、瀬戸内海に新規立地されようと
している上関原発への注目度は低かった。しかし、既存原発の敷地内ではない
新たな地点への立地という点では十数年ぶりのことになる。28年の間、設置を
止めて来たこの原発建設が中止となれば、新規立地は日本では不可能という大
きな流れが定着するだろう。
 そんな上関原発を止めるために、遠く離れた首都圏でも多くの人に知らせ、
政策決定権者である国会議員に知らせようという活動がはじまっている。11
月25日には、ジャーナリスト・言論文化人の声明を国会議員に伝える報告集
会が開かれ、国会関係者以外に約90名が集まった。この集会にはISEPも
共催し、ちょうどドイツから来日していたルッツ・メッツ博士の講演も行った。
上関原発を止めようと集まった皆さんに「ドイツの元気」を配れたのではない
かと思う。
 11月27日には「上関原発どうするネット」主催の「祝島のこころみ-原
発反対から、海とともに生きる自立した島へ-」が、東京新宿で開催された。
少しずつ、静かに、上関原発を止めようという人々のうねりがはじまっている。
私たちは急坂の峠道にさしかかっているのだろう。苦しいが、胸突き八丁の坂
を越えると大きな空が広がっている。そのためには、もっともっと多くの人に
「上関(かみのせき)」と「祝島(いわいしま)」を知ってもらう努力をしたい。

 建設予定地の貴重な自然については、下記の「上関原発どうするネット」の
ページを覗いていただきたい。11月27日の山下博由さん(日本生態学会)
の話が聞ける。
http://www.ustream.tv/channel/dousuru-net

                       竹村英明(ISEP顧問)
4.ベルリンの風 第6回 ハンブルクの戦略
                     山下紀明(ISEP主任研究員
           /ベルリン自由大学環境政策研究センター博士課程)

 11月下旬、いよいよベルリンにも雪が降り出しました。コートはもちろん、
帽子にマフラーに手袋での完全防備が必要です。12月1日のベルリンの気温
は最低マイナス10度、最高マイナス8度。大阪生まれで東京より北に住んだ
ことが無い私には未知の領域に突入していきます。この連載の題名は毎年夏に
ベルリンフィルハーモニーの野外コンサートで披露される楽しげな曲が由来な
のですが、これから冬の間は「ベルリンの雪」に変更してしまう方がよいのか
もしれません。
 と言いつつ、私は12月初旬をスペインのバルセロナで過ごしています。イ
ンタビューに向かう途中の明るい空、東京とそれほど変わらない気温を満喫中
です。(それだけにベルリンに戻るのを一層恐れている面も。)バルセロナでの
調査の様子は来月お伝えしますので、今回は11月中旬のハンブルクでのイン
タビューからの示唆をお届けします。
 本連載の第4回ではハンブルク市民による住民としての意見をご紹介しまし
た。(注1)。今回の訪問の目的は研究機関、NGOのメンバーへのインタビュー
ーです。ハンブルクでは現在、気候変動対策へのマスタープラン作りが進行中。
11月下旬には市から委託を受けた研究機関が基本的な方向性を示すための提
案書を発表。その中で今後ハンブルクが取り組むべき政策分野を明確に示して
います。これまでも数多くの取り組みがありましたが、それらを戦略的に統合
していく指針となるものです。
 電力・熱・交通・産業用熱の4分野に需要側・供給側を組み合わせた8項目
の中で、熱と交通の需要側の2分野を最重点分野に指定。熱については新規建
築物のエネルギー認証制度と既存建築物の暖房システムの改善を提言。ドイツ
全体で新築および大規模改築時の自然エネルギー熱導入義務が2009年から
施行されていますが、まだまだ改善の余地があり自治体として追加施策が必要
という認識です。交通については道路の有効活用と公共交通の整備・魅力増大
が鍵。先月のDIREC2009の都市セッションでも話題になったように多
くの街にとっての共通課題と言えます。
 一方電力については国の普及政策が強力であり、ハンブルクとして自然エネ
ルギー導入への追加的な補助や省エネ施策は進めているものの、今後新たなモ
デルとなるような政策を作り出すことは想定されていません。産業についても
多くの企業が温室効果ガス削減についての協定を市と結んではいるものの、政
策的手法でのさらなる削減は考慮しづらいようです。
 ハンブルクの中長期目標の数字自体はドイツの目標値と同じなのですが、都
市の発展と特性を考慮し、追加的に削減すべき量が推計されています。EUと
国の施策によって温室効果ガスを削減した状態を100とすると、2020年
にはさらに約13%、2050年では約30%分を自らの施策で減らさなけれ
ばなりません。これを少ないと見るか多いと見るかについては意見が分かれる
ところでしょう。ひとつ確かなことは、国の中長期的な目標と方向性が明確だ
からこそ推計が可能なのであり、他の国の調査候補地に比べハンブルクが有利な点です。
 さらにハンブルクが一つの市でありつつ州でもある特別市(Staatstadt)で
あるために、他のドイツの都市と比較して有利なのは州としての規制権限があ
ること、データが得やすいことです。ミュンヘンも環境政策を進めている大都
市ですが、この2点で大きな違いがあります。
 またドイツの著名な研究機関の自治体政策担当者によると、ハンブルクやミ
ュンヘンが計画している電力会社の公共性を高める方策についての両面性を指
摘しています。「自然エネルギー比率」を高めるといった自治体からの要請が容
易になる一方で、公共団体であっても売上の縮小や採算性については組織とし
ての反発が出やすくなります。この点は大きな行政組織に共通した問題の構造
があり、過度の期待への注意を述べていました。
 ハンブルクの地元NGOからは建築および暖房に関する意見がありました。
既存住宅の暖房システムの多くが電気式で、安い夜間電力メニューを提供する
大手の会社から自然エネルギー供給会社への乗換が進まないこと。さらに改修
への補助制度の不備を指摘していました。
 ハンブルクには12月にも自治体の政策担当者へのインタビューを行います
ので、今回得た情報を基に切り込んでいきます。

注1)SEENアーカイブ 2010年10月
http://isepseenarchive.blog88.fc2.com/blog-date-201010.html

                     山下紀明(ISEP主任研究員)
5.デンマーク・オールボーから(3):オールボー歴史博物館
       古屋将太(Aalborg University, PhD student/ISEP fellow)

私がデンマークでの生活をはじめて3年目になりますが、ときどき日本からオ
ールボー大学へ視察に来る方から連絡をいただき、博士課程の学生の視点から
のお話をする機会があります。先日も三重大学の先生がオールボー型PBL
(Problem and Project Based Learning)の研修で来訪され、街角のカフェで
巨大なサンドイッチを食べながらデンマークと日本の高等教育の違いや共通す
る課題などをお話しました。その後、街の中心部を案内した際に「オールボー
歴史博物館(Aalborg Historical Museum)」を訪れ、オールボー在住3年目に
して街の歴史的背景を知ることとなりました。

オールボー歴史博物館は、街の中央広場から徒歩3分ほどの場所に位置し、
1863年に設立された後、所蔵品の増加に伴って1878年に現在の建物へ
と拡張されています。当日は、1階でグリーンランドに関する特別展示がおこ
なわれており、オールボーからグリーンランドに輸送される生活雑貨や工業製
品、グリーンランドの手芸品などが展示されていました。解説はすべてデンマ
ーク語だったので詳細まではわかりませんでしたが、実物の白クマの剥製は迫
力がありました。2階にはオールボーの街の歴史に関するさまざまな資料が常
設展示されています。その中でも博物館の中心的な展示物である「オールボー・
ルーム(Aalborg Room)」と「C.W.オーベル・タバコ工場(C.W.Obel Tobacco
Factory)」が印象的でした。

「オールボー・ルーム」は、17世紀に商人によって建てられた建物の一室を
保存したもので、精巧な彫刻が施された木製パネルで天井を含む全面が覆われ
ており、当時の雰囲気を体験することができます。資料によると、1602年
に商人ニールス・クリステンセンが家を建てた際に作られた一室で、彼の死後、
1866年にオールボー通商ギルドが新たに建てた家屋の屋根裏に移設された
後、1897年に現在の博物館の展示へと移設されました。この部屋では商人
が取引をおこなったり、職人がワークショップをおこなったりするなど、ビジ
ネス目的で使われていたとのことです。

「C.W.オーベル・タバコ工場」は、1966年に閉鎖されたオールボー市
内のタバコ製造工場で、博物館の展示では同工場が所蔵していた1万4000
点以上のタバコ・コレクションのほか、巻きタバコ製造の作業台や従業員のマ
ネキンなど、当時のタバコ製造の様子が再現されています。資料によると、同
工場は1787年に噛みタバコ、嗅ぎタバコ、パイプタバコなどの製造を開始
し、北ヨーロッパ最大のタバコ工場となり、当時オールボーでももっとも大き
な産業であったそうです。同工場は、1000人以上の非熟練労働者、特に女
性を多く雇用し、彼女たちには市内でもっとも高い賃金が支払われていたとの
ことで、「陽気なオーベルガールズ(Merry Obel girls)」が街を活気づけてい
たようです。しかし、1961年に同工場がスカンジナビア・タバコ会社
(Scandinavian Tabacco Compnay)に吸収合併されたことと軌を同じくして生
産の合理化が進み、彼女たちの職場は機械に取って代わられてしまいました。
その後、同工場建物の一部はIT企業のオフィスとして使われていたり、オール
ボー大学の講義棟として使われていたり、スーパーマーケットの店舗として使
われています。

こうして街の歴史的背景をさかのぼってみると、オールボーという都市が商人
の交易都市から、活気ある産業都市へと変容し、それも衰退に向かっていった
という大きな流れが見えます。こうした都市の歴史博物館というのは、単なる
出来事の歴史ではなく、そこに生きた人々の様子を知ることができるという点
で非常に興味深いと思います。ちなみに、タバコ工場を引き継いだSonofonと
いうIT企業は、昨年ノルウェーのtelenorというIT企業の傘下に編入され
ており、グローバル化のもと、オールボーの都市産業の変容は現在も進行して
います。

       古屋将太(Aalborg University, PhD student/ISEP fellow)
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