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1.風発:ビル・ゲイツの「夢の原発」とは?
                       飯田哲也(ISEP所長)

 『ビル・ゲイツが東芝と組んで「夢の原子炉」を開発』
 日本経済新聞の3月23日朝刊で一面を飾ったスクープ記事をご覧になった
方は多いと思います。ウィンドウズであれほど成功した同氏が、地球温暖化防
止のために、いよいよ原発開発に乗り出すというこの記事を見て、無邪気に喜
んだ人、不安を感じた人、やっぱりと思った人などさまざまでしょう。
 ところがこれは、ひと言でいえば、ゲイツ氏の少しはた迷惑な「勘違い」に
よるもので、まず実現性はなく、あまり心配する必要はなさそうです。

■ゲイツの勘違い
 ゲイツ氏が資金支援する米原子力ベンチャーのテラパワー(米ワシントン州)
は、TWR(Traveling Wave Reactors)と名付けられた、安く安全で長寿命の
「夢の原子炉」を2020年代に実用化を目指しています。日経のスクープの
内容は、東芝がその次世代原子炉の開発に協力をするというものです。
 ゲイツ氏は、この原発開発を念頭に置いて、今年2月の「TED Conference」
でも「エネルギー奇跡が必要」という講演をしています。世界一の富豪で途上
国の貧困救済を目指すゲイツ氏は、ご承知のとおり、世界最大の慈善財団を通
じて、真剣に地球の未来に貢献しようとしているのだと思います。
 ところがゲイツ氏は、少なくとも2つの致命的な「勘違い」をしています。
第1に、後述するように、原発は温暖化防止やエネルギー危機に役立ちそうに
ないこと。第2に、エネルギー奇跡には、「新技術開発」ではなく「既存技術の
普及」が必要ということを理解していないことです。そのため、ゲイツ氏のT
EDでの「エネルギー奇跡」の講演は、米国を代表する環境エネルギー専門家
(ジョセフ・ロム氏)からは酷評されています(ビル・ゲイツが「エネルギー奇
跡」で間違っていること)。
 ゲイツ氏自身が、今日のPCやインターネットの革新が、「新技術開発」では
なく「既存技術の普及」によって引き起こされたことを自ら語っているにもか
かわらず、温暖化対策では真逆のことを言っているのです。
 さらにゲイツ氏は、親友の富豪投資家ウォーレン・バフェット氏とともに、
気候破壊と自然破壊で最悪と言われるカナダのオイルサンド採掘現場に「投資
マインドを持って」訪問しています(カルガリーヘラルド紙)。また、ゲイツ財
団は、これまで温暖化防止にはほとんど関心を示さず、バフェット氏は温暖化
防止に反対しています。
 これらは、「RE<C」(自然エネルギーを石炭よりも安くする)という目標
を掲げて、分散型の自然エネルギー普及を目指すグーグルとは対照的です。「ゲ
イツ原発」も、社会のための革新(イノベーション)よりも、ビジネスマイン
ドでの投資(インベスト)が先行しているように思えてなりません。

■日本の勘違い
 原発を巡る「勘違い」といえば、日本も負けていません。最近では、アラブ
首長国連邦(UAE)への原発輸出競争で韓国に破れ、ベトナムではロシアに
破れたことで、自尊心とナショナリズムを刺激されたのか、「官民一体のオール
ジャパン体制で原発輸出を!」といった威勢の良い言葉が飛び交い、力こぶが
入っています。
 ところが、その是非をいったん横に置いて、実現性から見ると、幸いにも心
配しなくてよさそうです。なぜなら日本では、「官民一体のオールジャパン体制」
で成功した例がほとんどないからです。一般に国策プロジェクトは、官僚の「上
から目線」や権威主義、縦割りの弊害などで、オープンで自由創発的な知的コ
ミュニティからはほど遠い「空気」が支配します。そのため、第5世代コンピ
ュータ、日の丸ロケット、事業仕分けで話題になったスパコンなど、いくら予
算をつけても、それに見合った成果が生み出されない例は、枚挙にいとまがあ
りません。加えて、輪を掛けて抑圧的な「空気」が支配する原子力では、高速
増殖炉もんじゅや東海村臨界事故(当事者は民間企業だが、国策プロジェクト
の一環での事故)などに見られるように、いっそう無残な状況にあります。


■ナイーブ(無邪気)な原発輸出論
 もちろん、原発輸出については、「是非」も問う必要があります。
 UAEやベトナム、その先にはヨルダン、インドネシア、タイと、原発も原
発技術も持たない国への原発輸出の構想が続きます。過去、イスラエル、イラ
ク、イランのすべてが原発輸出から核拡散へと繋がりうることを立証した歴史
を振り返ってみても、途上国への原発輸出は、原発そのものへの是非とは無関
係に、慎重さが必要です。そのことは、原発開発に前のめりだったブッシュ前
米政権下でさえ、原発推進・慎重の両方の専門家が一致して警告しています
(Keystone報告)。京都議定書でも、途上国支援(クリーン開発メカニズム、C
DM)に関しては「原子力の利用を避けるべし」と定められたゆえんです。
 ましてや日本は、核燃料の供給や核廃棄物の再処理に責任を持つことができ
るわけではなく、また原発を持たない途上国において、技術移転管理や安全保
障に責任を取れる態勢はありません。
 そのような慎重な配慮も姿勢も欠いたまま、また自らの力量も顧みず、「日本
の優れた原発技術を活かす商機だ」というのは、いささかナイーブ(無邪気)
と言わざるを得ません。

■原発推進・反対の二項対立を越えて
 原発を巡っては、推進と反対との対立で、日本社会がずっと二分されてきま
した。政権が代わっても、国の極端な「推進姿勢」は変わらず、先の地球温暖
化対策基本法案でも「原発推進」の条項が盛り込まれました。また、「わくわく
原子力ランド」という、まるで戦前の「教育勅語」を思い出させるような「国
策教科書」が、小学生のためのエネルギー副読本として臆面もなく配布されて
います。
 このように公共政策としてのバランスを欠いた国のもとでは、原発に対する
あらゆる問題提起は、即座に「反対派」として退けられてきました。そのため、
真正面から議論すべき論点がほとんど議論されず、それがますます問題を大き
くしてきたように思います。
 たとえば温暖化対策では、原発に頼り切った計画が頓挫し、それを石炭火力
で埋め合わせたことで、日本の温室効果ガスがプラス9%(1990年比)も
の排出増となりました。安全性と温暖化対策をどのように両立させるのか、推
進と反対を越えてリアルに問題点を見極め、対策する必要があります。
 また今後の温暖化対策や懸念の高まってきた石油ピーク危機に対しては、5
~10年という限られた時間との競争になりますが、原発はあまり大きな期待
はできません。コストが高く、経営リスクも高く、ウラン供給の見通しが不透
明といった理由に加え、何と言っても速効性がなく、間に合わないのです。し
かも日本をはじめとする先進国では、老朽化のために原発の総設備容量が一気
に減少していくことが予想されています。
 原発依存しすぎた温暖化対策やエネルギー対策に警告を発した論文が、近年、
数多く報告されています。以下、いくつかを例示しますが、これ以外にもグリ
ーンアクションが日本語で良くまとめています(原子力発電は温暖化対策に有
効なのか?─海外情報から読み解く)。

・ヤコブソン・スタンフォード大教授「原子力は、高く、遅く、リスキーなオ
プション」(2010年2月22日)
http://edition.cnn.com/2010/OPINION/02/22/jacobson.nuclear.power.con/
・シティバンク「新規原発への投資にエコノミストはノー」(2009年11月)
http://www.scribd.com/doc/29017408/091109-CITI-New-Nuclear-the-Economics-Say-No
・マサチューセッツ工科大学(MIT)「ウランの供給は2013年頃に厳しくな
る」(2009年11月)
http://www.technologyreview.com/blog/arxiv/24414/
・ファイナンシャル・タイムス「日本のウラン供給の脆弱性指数は世界2位」
(2009年11月)
http://blogs.ft.com/money-supply/graphics/peak-uranium/
・世界銀行「原子力による短期的なCO2削減効果は限られている」(2009月
10月)
http://econ.worldbank.org/WBSITE/EXTERNAL/EXTDEC/EXTRESEARCH/EXTWDRS/EXTWDR2010/0,,menuPK:5287748~pagePK:64167702~piPK:64167676~theSitePK:5287741,00.html
・コバリエル・スウェーデンエネルギー庁長官「フィンランド原発の建設はど
んどん遅延し、最終的に総建設コストは2兆円、発電コストは200円/kW
時を越える」(2009年8月)
http://www.polsoz.fu-berlin.de/en/polwiss/forschung/systeme/ffu/veranstaltungsarchiv/09_salzburg_conference.html
・マサチューセッツ工科大学(MIT)「原発のコストは急激に上昇している」
(原子力の将来)(2009年5月)
http://web.mit.edu/ceepr/www/publications/workingpapers/2009-004.pdf
・エイモリー・B・ロビンズ「『原子力は競争力があり必要で信頼でき安全で安
い』というのは妄想だ」(2008年)
http://rmi.org/rmi/Library/E08-01_NuclearIllusion

 以上は、経済面と現実面からの冷静な分析に過ぎませんが、これらに加えて
核拡散の問題や核廃棄物、潜在的な事故のリスクといった、過去、長く議論さ
れてきた原発固有の問題群があるのです。
 原子力政策について、推進と反対との対立をいったん棚上げして、まずは現
実を直視し、直面する問題に関する共通認識を持つことから出発してはどうで
しょうか。かつて反対論は「空想的」と退けられましたが、今や現実を見ない
推進論こそが「妄想」と化しつつあるようです。

                       飯田哲也(ISEP所長)
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2.連載「光と風と樹々と」(25)
   「崩壊感覚」─────「政権交代」の現実
                長谷川公一(環境社会学者 東北大学教員)

■「仕分け」されるのは鳩山首相───参院選敗北・退陣へ
 普天間問題の迷走の果てに予想されるのは、7月の参院選で民主党が大敗し、
その責任を取る形で直後に、鳩山首相が退陣に追い込まれることだ。今度の参
院選は、有権者が鳩山内閣を「仕分け」する格好の場となろう。民主党の選挙
戦を支えてきた浮動票とゆるやかな支持者と労組票、いずれもが激減するだろ
う。各社の世論調査の内閣支持率急落が示しているように、浮動票とゆるやか
な支持者は5月中旬までの段階で鳩山民主党を見放しつつあったが、5月28
日の辺野古移設の閣議決定は、これらの層の鳩山離れをより加速する。しかも
福島社民党党首の罷免と社民党の政権離脱は、平和労組系の労組票離れをもた
らすことになる。
 この予想どおりなら、安倍内閣以降4代の内閣が続けて1年以内に辞任を余
儀なくされるという異常事態が続くことになる。
 しかも民主党大敗が意味するのは、参院は野党自民党が多数を握るというこ
とである。安倍・福田・麻生の3内閣が、衆院では300議席余りを持ちなが
ら、2007年の参院選に敗れて、参院を野党民主党に握られ、解散もできず
にいずれも早晩行き詰まったのと、民主党と自民党が入れ替わっただけで、ま
ったく同じ事態が生じることになる。政権を失うのがこわいために解散もでき
ないという状況もそっくりとなろう。鳩山首相の次の総理大臣に誰がなるにせ
よ、これから3年間、混乱と低迷が続く。国民は、既視感的な悪夢に再びさい
なまれるのだ(「光と風と樹々と」(23)「新たな「失われた4年」──自民3
00余議席の呪縛(2009年6月)」参照)

■6月初旬の退陣も
 現時点(5月30日に執筆している)で、こうした事態を避ける手立てはあ
るだろうか。先手を打って鳩山を参院選前に退陣させる手があり、実際、渡部
恒三元衆院副議長は29日に鳩山首相の自主的な辞任を求める発言をしている。
この週末に選挙区に帰った議員達から、鳩山=迷走総理の看板では参院選を戦
えないという声が一気に噴き出す可能性も高い。交替させるなら一刻でも早い
方がいいから、6月初旬に退陣というストーリーも予想されないわけではない。
その場合には、鳩山退陣と引き替えに、社民党の閣外協力と参院選での選挙協
力を求めることになろう。
 しかし対外的には、日米共同声明を出した直後に首相が政権を放り出したと
いう形になり、国内的には、選挙目当てに表紙だけ替えたという批判が出るか
ら、小沢幹事長がそこまで踏み切れるかどうか。参院選で民主党大敗というこ
とになれば幹事長の辞任も避けがたい。参院選がひどくきびしいという読みを
すれば、小沢サイドは、起死回生を狙って、参院選前の鳩山退陣という策に出
るのではないか。小沢側近の細野豪志副幹事長が29日に「週明けにはいろいろ
な議論があると思う」と鳩山早期退陣の可能性を示唆したのは、その証左であ
る。

■看板倒れの首相が4人続くと
 すでに多くの紙誌で論じられているように、左右いずれの立場から見ても、
鳩山首相の見通しの甘さやお粗末ぶりは、「悲惨」であり「滑稽」ですらある。
党首としての発言や首相としての発言がゆくゆくどのように政権を拘束するの
かの自覚に乏しい者が、党首や首相としての基本的な資質を欠くことは言うま
でもない。
 期待した「政権交代」や「政治主導」がこんなにも不様で、看板倒れなもの
なのか。多くの国民が愕然としている。そもそも母親から5年間で約9億円の
政治資金の提供を受けながら秘書に責任をなすりつけ「全く知らなかった」と
いうような政治家に、まともな政治ができるわけがないだろう。
 実際知っていて「知らない」ことにしているのなら国民を欺いていることに
なるし、本当に秘書任せで「全く知らなかった」のだとしたら、これ以上、愚
かなことはないだろう。「知らない」ですんでいること自体がおかしい。これだ
けの政治資金の提供を受けながら、母親も本人もお互いに知らないふりをとお
して、政治資金の提供については話題にもしないできたのだとするならば、全
く奇妙な親子関係である。
 鳩山由紀夫という人間の色々な見通しの甘さは、こういう甘やかされて育っ
た生育歴と無縁ではない。基本的な漢字の誤読も正されずに首相になった麻生
太郎と「目くそ鼻くそ」というべきである。
 基本的な資質を欠く首相が4人も続けば、国力が衰退するのは必定である。
総理大臣を祖父に持つ3人の首相(安倍・麻生・鳩山)は、3人とも「不合格」
だった。総理大臣の息子(福田康夫)もまた「不合格」だった。

■野党もまた
 かたや野党はどうか。民主党と同様にタレント候補頼みであることが示すよ
うに、自民党も、新しい政党もいずれも苦し紛れであり「悲惨」で「滑稽」で
ある。「みんなの党」「たちあがれ日本」はひらがな名の中にしか活路を見いだ
せず、「日本創新党」「新党改革」の党名は新しいということしか表明しえてい
ない。わが国における政治を語る言葉の貧弱さの何よりの証拠である。
 参院選挙の投票率は、前回は58.64%だったが、今回はおそらく投票率が
低下し、50%台の前半か50%を下回ることになるだろう。有権者の虚脱感、
白け感は覆いがたい。

■退陣後の引退を約束してきたが
 ちなみに、鳩山首相は昨年7月26日に、首相に就任した場合は退陣後は、
その後も影響力を行使するのを避けるために、その後の衆院選には出馬せず政
界を引退することを明言している。ころころと発言を変える人だけに到底信用
はできないが。
http://www.47news.jp/CN/200907/CN2009072601000521.html

■下り坂を転げ落ちる日本
 坂道を転げ落ちるように、日本の政治と国力は、急激に下り坂を転げ落ちつ
つあるのではないか。わたしたちが見ているのは、ジェットコースターから見
下ろす「坂の下の泥沼」である。
 インターネットのニュースをクリックするたびに、紙面を開くたびに、暗澹
たる「崩壊感覚」を拭いがたいこの頃である(2010年5月30日記す)。

                長谷川公一(環境社会学者 東北大学教員)
3.青森エネルギー紀行(7)「お笑い再処理工場」
                     森治文(朝日新聞青森総局次長)

 「お笑い再処理工場」。北朝鮮をおもしろおかしく描いたテリー伊藤の“名著”
になぞらえれば、そんな状況だろう。
 今、六ヶ所村の再処理工場はゲームセンターと化している。一昨年12月に
天井からはがれ落ち、高レベル放射性廃液の入った炉の底に沈む一片のレンガ
を、先端に2枚の金属板を「はさみ」代わりに取り付けたクレーンを遠隔操作
で動かし、つかみ出そうとするのだが、廃液は真っ黒、高温のためにカメラも
入らない。いわば、目をつぶったままガラスケースに入ったぬいぐるみをつか
み取る「UFOキャッチャー」ゲームに躍起という状況である。
 トラブルや故障はこれまでも何度もあった。それがまた新たなトラブルを呼
び、また修復するという作業を繰り返してきた。でも、それらは再発防止のた
めの手練手管があったように思う。今回は縦24センチ、横14センチ、厚さ
7ミリという大学ノートほどのレンガが本当に命取りになるかもしれない。取
り出せなければ、ガラスの中に封じ込めた高レベル廃液を炉の下から排出する
「口」をふさぐ恐れがある。「廃炉」にもつながりかねない危機である。
 原燃は当初、3月に作業を始め、月内に取れると言っていたのに、作業開始
自体が4月に遅れた。その時の理由を原燃は「UFOキャッチャー」の器具の
準備を念入りにするため、としていた。だが始まってみると、この器具、やっ
ぱりうまくいかない。
 れんがをはさむ幅がきゅうくつだの、緩いだのといった不具合があり、4月
中に早くも器具を改良する羽目に。それにこの作業、24時間、続けられない。
その理由は炉の熱が冷めると、炉内の液体ガラスが固まり、れんがその中に埋
まってしまうためだ。そこで約30時間かけて炉を熱してガラスをどろどろに
しては、冷めてしまうまでの5~7時間だけUFOキャッチャーにトライする
ということを繰り返す。
 それでも、ほんの数時間だけ、原燃が、ぬか喜びしたことがあった。
 5月16日。午後1時半ごろ、UFOキャッチャーが何かをつかんだという
報告があり、炉のすぐ外に置いた白黒テレビでは、器具の先端に黒い物体が確
認できたという。今となっては本当に「黒い物体」が単なる影でなかったのか
という疑惑が渦巻くが、原燃は喜び勇んで、その日の夕方、報道各社に速報を
流した。
 ただし、弊紙の社内でもその時点で、本当に取り出したのかという疑問の声
が上がっていた。問題は、取り出す炉の上部の口の狭さ。そこを通過する際、
物体をはさんだ2枚の金属板の向きを縦に長く変える必要があるが、その転回
がうまく行くかどうか、未知数だったからだ。
 果たして、金属板の先端を確認しなおすと、何もなかった。最初から何もつ
かんでいなかったのか、それとも、途中で落としたのか。そこははっきりとし
ていない。当日夜になって、原燃はあわてて訂正の発表を報道各社の担当記者
に連絡した。

 原燃は器具をさらに改良し、UFOキャッチャーゲームをまもなく再開する。
しかし、「すぐに取れる」という弁解を4月以降、繰り返す原燃社長の発言を聞
いていると、北朝鮮が何を発言しようとも日本の国民がその内容を信じていな
いように、原燃への信用がますます薄れていく。その危惧が原燃の社内にない
のだとしたら、まさに「お笑い再処理工場」である。

               ◇

 でも「核燃サイクル」は進む。5月13日には、原発から出る使用済み核燃
料を貯蔵する「中間貯蔵施設」をむつ市に建設する事業と、再処理工場から取
り出したプルトニウムやウランを原発に使うための「MOX燃料工場」を六ヶ
所に造る事業に、国の許可が出た。MOX燃料だけで稼働させるため、建設が
進む下北半島の先端、大間町の大間原発もあわせ、下北半島は「核燃施設」包
囲網ができようとしている。
 MOX燃料工場はそもそも、中間処理が本格稼働しなければ意味をなさない。
中間貯蔵は50年の期限つき。市民説明会では「その後は本当になくなるのか」
という不安の声が上がる。見通しなき核燃サイクルに投じられる巨額な費用。
それに群がるしかない青森県下の自治体。万が一の事故など危険に直面しない
ことを願いながら、嘲笑していられるだけ、ましかもしれない。

                     森治文(朝日新聞青森総局次長)
4.欧州風力エネルギー会議レポート
        古屋将太(Aalborg University PhD student/ISEP fellow)

5月20~23日にかけて欧州風力エネルギー会議がポーランドのワルシャワ
で開催されました。あいにくアイスランドの火山噴火の影響で欧州各地の空港
が閉鎖されていたため、私を含め多くの人たちが現地に行くことができません
でしたが、参加登録者にはインターネット上でのストリーミング中継が提供さ
れ、会議の様子を見ることができました。

初日の後半に行われた「社会的受容性向上のための戦略(Strategies to
increase social acceptance)」のセッションでは、IEA Wind Task28が中心
となって、近年問題が顕在化しはじめている風力発電反対運動を主題として議
論が行われました。

気候変動対策や持続可能な発展の政策目標を達成する手段としての自然エネル
ギー、その中でもすでに成熟した技術である風力発電は、一般的な認識として
は受け入れられているものの、実際に具体的なプロジェクトが地域で実施され
る段階になるとさまざまな角度から反対運動がおこり、プロジェクトを進める
ことができなくなってしまうという状況が世界各地で発生しつつあります。こ
の問題について、IEAWind Task 28では、各国のこれまでの経験・知見を集約
し、どのような論点があり、どのように問題を克服することができるのかを模
索しています。具体的には、「分配正義(DistributionalJustice)」と 「手続
き正義(Procedural Justice)」の2つの論点が提示されていました。

「分配正義」とは、風車の設置によって生じる「利益」と「負荷」がステーク
ホルダーの間で納得のいくかたちで分配されているのかどうかを考える視点で
す。風力発電事業の利益が一部の関係者のみに集中し、地域の人々に負荷(騒
音、生態系への影響、景観への影響など)が集中するかたちでは、地域の人々
は納得できないでしょう。もちろん、負荷は予防・最小化することが前提です
が、まったく社会に影響を与えない技術というものはあり得ないので、この点
でステークホルダーが納得できるかたちをどのように知恵を絞って作り上げて
いくことができるかが課題であるといえます。

「手続き正義」とは、風力発電事業計画の作成、環境影響評価、許認可の取得、
風車の設置、運転開始後のモニタリングなどの一連のプロセスが法令に沿って
実施されると同時に、地域のステークホルダーに対して実質的に説明責任が果
たされているかどうかを考える視点です。風車の設置が地域に何らかの影響を
与えることを100%避けることができない以上、そのプロセスは地域のステ
ークホルダーに対して開かれたものである必要があります。また、法令は必ず
しもすべてのリスクを想定できるわけではないので、法令の範囲外で地域に固
有の問題が生じるようであれば、その問題をプロセスの中で検討できるような
機会を設ける必要があるでしょう。

この数年、日本国内でもこうした問題が顕在化しつつありますが、気候変動と
いうグローバルな課題を視野に入れつつ、風力発電への賛成/反対という単純
な構図を乗り越え、国外の経験にも学びつつ、風力発電の「あるべき姿」と「現
実」とのギャップを埋めるアプローチを模索していく必要があります。

■参考URL
欧州風力エネルギー会議 2010
http://www.ewec2010.info/

IEA Wind Task 28
http://www.socialacceptance.ch/

         古屋将太(Aalborg University PhD student/ISEP fellow)
5.「ベルリンの風」第0回─ベルリンに着いて
                       山下紀明(ISEP研究員)

 6月1日にベルリンに到着し、まずは生活の準備を進めています。現地での
住民登録と長期滞在許可の取得、ベルリン自由大学(FU)への学籍登録とと
もに、携帯電話や生活用品の購入、日々の食材の購入などドイツ語辞書と英語
での質問を頼りに進めています。初めての留学のため、慣れないことがたくさ
んありますが、その分多くの刺激をすでに受けています。スーパーに行けば、
有機栽培の食品(BIO)がごく普通に並んでいることや、BIO専門のスー
パーを多く見かけることもその一つです。
 都市が東西陣営に分断されていたという特異な歴史を持つベルリンだからこ
そ見えてくる風景もあります。旧西側は、自由主義のショーケースとしての意
味を持っており、今でも緑が多い高級市街地でありながらも東西統一後は活力
が低下。一方、旧東側は再開発の優遇政策もあり、学生や若いカップルが移住
して活気にあふれていることなど、本で仕入れた情報を体感しています。もち
ろん本ではわからない意外な発見もあります。高級住宅地の並ぶ旧西側に多い
と思っていたBIO専門のスーパーが、実は若くて意識の高い世代が増えてい
る旧東側に多くあることもその一つです。
 もちろん環境エネルギー政策に関連する情報もすでに幾つか見つけています。
バス停の屋根部分に太陽光発電が設置されていたり、2008年からはケルン、ハ
ノーファーと並んでドイツでも最も早く環境ゾーン(Umweltzone)による中心
市街地への古い自動車の流入制限を導入していたり、ベルリン独自の取組みと
ドイツ全般の取組みの両方が散見されます。
 これから約10ヶ月間ベルリンに滞在し、FUの環境政策研究所で学んだこ
と、ドイツの制度や政治の最新動向、ハンブルクやスペインなどへの調査を通
じて得た情報、ドイツから見た日本などについて皆様にお伝えしていきます。
文献や特定のフィルターを通して日本に入ってくる情報からでは分からない様
々なこと、当たり前のこととして特別には語られない空気感のようなものの2
点を意識して伝えられればと思います。例えばドイツや欧州の参考とすべき制
度の土台や裏側にあるもの、一方で制度の問題点として紹介される部分の本当
のところなどです。
 前回のSEENで書いたこれから行うべき3つのもの(0を1にする創造の
力を鍛えること、環境エネルギー政策についての世界的な最先端の知のコミュ
ニティに入っていくこと、ISEPのデータベースや成果を社会に使える形で
出していくこと)を念頭に、あっという間に終わってしまうであろう10か月
の滞在を有意義なものにしていきたいと思います。

 ※タイトル「ベルリンの風」は、ベルリンフィルハーモニーが野外音楽祭の
最後に演奏する有名な行進曲から取っています。

                      山下紀明(ISEP研究員)
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