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1. 風発 「ローカルに思考し、グローバルに行動する」
                       飯田哲也(ISEP所長)

2006年は、新エネRPS法の見直し年であると同時に、(法改正がない限
り)2014年という新たな目標値を決定する年に当たる。そこに、国の住宅
用太陽光設置補助の廃止と、電力会社による余剰電力購入メニューの見直しも
絡まって、事態はいっそう複雑である。今のところ政府も電力会社も手詰まり
で、大胆な法改正はおろか、目標値の上乗せも期待できそうになく、このまま
では、自然エネルギー事業者や国民を含めて、全員が「負け戦」になりそうな
気配もある。なお国際的には、昨年11月に北京で開催された「自然エネルギ
ー2005」を経て、今年と来年の国連持続可能な開発委員会(CSD)で自
然エネルギーが再び議論されるほか、欧州では2020年の目標値の議論が本
格化し、州が積極的な米国でも、そして中国、インド、韓国、台湾などアジア
でも、日本を置き去りにするかのような自然エネルギー促進の気運がいっそう
強くなるに違いない。

原子力政策、とりわけ核燃料サイクル政策も正念場である。六カ所再処理工場
で実際に使用済核燃料を用いたアクティブ試験が、4月以降にずれ込んでいる
とはいえ、秒読み段階に入っている。プルトニウム利用計画のアリバイとして
推進されているプルサーマルも、意図せずに先頭に押し出された佐賀県や愛媛
県などが判断を迫られている。核のゴミ捨て場というリアルな問題を先送りし
て、フィクションでその場しのぎをしてきた挙げ句に、電力会社と地域社会(と
くに青森県)が自らを引き返せないところまで追いやった構図といえる。高速
増殖原型炉「もんじゅ」の事故がそうであったように、タテマエもフィクショ
ンである間はいいが、実現を図ると途端に行き詰まる。現代の戦艦大和たる六
カ所再処理工場の「出航」差し止めは、今からでもまだ間に合う。

他方、少ないながらも明るい展望もある。東京都を筆頭に、福島県、横浜市、
千葉県、佐賀県などの地方自治体で、エネルギー政策や温暖化政策の実質的な
議論が始まっている。これまでの「お飾り」の計画ではなく、実質を議論し実
効的に機能する政策をデザインする方向へと、まだ一部とはいえ地方自治体の
意識も確実に変化しつつある。また、関東・東北の5基・合計約10億円の市
民出資を一括して募集している市民風車も、予想を超える申し込みが殺到し、
従来にない手応えがある。長野県飯田市で始めた省エネルギーと自然エネルギ
ーによる地域エネルギー事業の仕組みも、岡山県備前市をはじめ他の地域へと
展開しつつあり、新しい地域開発モデルとして注目を集めつつある。

これまでエネルギー政策は、原子力に象徴されるように、経済政策や地域開発
と環境政策の対立、「国策」と地域社会による共謀と対立などがない交ぜとなっ
て、歴史的にも合意形成の困難な公共政策の一つであった。しかしその中にあ
って、ローカルな環境エネルギー政策とその事業化は、環境エネルギー政策を
ローカルに自己決定できるリアルな問題として提示し、しかも相対的には地域
社会からのポジティブな反応を短期間に引き出すことができる。また、「自然エ
ネルギー100%アイランド」が一躍国際的に注目されるように、その成果は、
グローバルに照り返される。「ローカルに思考し、グローバルに行動する」
(U・ベック)地域社会のローカルな実践が、「2周遅れ」の国を抜き去る時代
が到来したといえよう。

                       飯田哲也(ISEP所長)


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2.特集「2006年の環境とエネルギー問題を展望する」

 SEENの新年号と2月号の2回にわたって、2006年の環境とエネルギ
ー問題の展望を特集する。
 今年もまた、環境もエネルギーも問題が山積みというのが正直なところだろ
う。例えば、地球温暖化問題をとっても、京都議定書が発効したとはいえ、こ
れが地球温暖化を防止する実効力のある議定書に育っていくためには、まだま
だ先は長い。原子力問題や自然エネルギーの普及なども同様だ。
 とはいえ、一年の最初にあたって、こうした問題の展望を示しておくことは
重要だ。これを参考に、問題解決の舵取りを、引き続き行っていきたい。

1)電力自由化と原子力発電との原理的矛盾
               橘川武郎(東京大学社会科学研究所教授)

 電力自由化と原子力発電とのあいだには、二重の原理的矛盾が存在する。
 第1の矛盾は、電力自由化が市場メカニズムの導入(=国家の後退)を基本
とするものであるのに対して、原子力発電には国家介入が不可避である点にあ
る。
 原子力発電に国家介入が必要となる事情としては、まず、立地確保の問題が
ある。原子力に限らず他の電源及び流通設備に関しても、立地を円滑に進める
ためには、事実上、電源三法の枠組みが必要不可欠である。これは、簡単に言
えば、国家が市場に介入して何とか電力設備立地を確保していく手法である。
しかも、この枠組みがあっても、計画どおりには電力設備立地がなかなか進ま
ないのが現状である。
 また、原子力発電への国家介入を不可避にするより大きな事情として、使用
済み核燃料の処理問題(いわゆる「バックエンド問題」)がある。核燃料のバッ
クエンド問題に関しては、リサイクルするにせよワンススルー(直接処分)す
るにせよ、国家の介入は避けて通ることができない。また、リサイクル路線を
採用する場合には、核不拡散政策との整合性を図ることが必要になるが、これ
が、市場メカニズムとは別次元の政治的マターであることは、言うまでもない。
 第2の矛盾は、電力自由化によって競争の当事者となる電力各社には他社と
異なる個性的な経営行動が求められるのに対して、原子力開発を推進するため
には電力各社が一枚岩的な行動をとらざるをえない点にある。
 電力自由化の進展とともに始まりつつある本格的な競争を論じるにあたって
は、競争の主たる担い手が誰になるかを、正確に見極める必要がある。
1995年以来の電力自由化のプロセスでは、IPP(独立系発電事業者)や
PPS(特定規模電気事業者)の新規参入により、既存10電力会社とのあい
だの競争が激化するという見通しが語られることが多かった。しかし、IPP
やPPSには供給力の面での制約があり、卸電力取引所が登場しても、この制
約は残るものと思われる。端的に言えば、IPPやPPSは本格的競争の主役
にはなりえないのであり、主役の座を占めるのは、既存の電気事業者(送電系
統から切り離されている沖縄電力を除く9電力会社)それ自身ということにな
る。
 全国的に事業所を展開する企業Aが競争入札等により、9電力会社中で最も
安い料金を提示した既存電気事業者Bと、電力売買を一括契約する。その場合
には、電気事業者Bは、これまでの供給区域の外にある企業Aの全国の事業所
に向けて、電力を供給することになる。振替供給料金の廃止という現実をふま
えれば、ここでBが行うような全国大の電力供給を通じて、9電力会社間の市
場競争が激化することは、大いにありうる(2005年11月に九州電力が広
島県内のジャスコ宇品店に電力供給を開始したが、これは、9電力会社間の市
場競争の端緒となりうる出来事である)。もちろん、東西の周波数の違いや北本
(北海道本州)連系線の送電規模の限界などがあり、競争はある程度チェック
されるであろうが、それでも、9電力会社自身が主役となって競争が本格化す
ることに変りはない。これが、本格的競争時代の実相なのである。
 9電力会社相互間の競争が本格的競争時代の基本線であるとすれば、そこで
は電力各社が、他社とは異なる個性的な経営行動をいかに展開するかが焦点と
なる。一方、原子力発電に関しては、立地問題についてもバックエンド問題に
ついても、電力各社は一枚岩的対応をせざるをえない。原子力発電事業は、事
実上、民営であるが国策、つまり国策民営であるという状況が続いているから
である。
 この小稿で指摘したように、電力自由化と原子力発電とのあいだには、(1)
市場原理対国家介入、(2)個性的行動対一枚岩的対応、という二重の原理的矛
盾が存在する。電力自由化で求められているのは電力各社が私企業性を強めて
いくことであるが、その一方で原子力発電事業は、引き続き国策民営方式によ
って運営されている。この矛盾は深刻であり、電力会社は、自由化と原子力発
電とのあいだで「股裂き状態」に陥っているというのが、現実の姿である。

               橘川武郎(東京大学社会科学研究所教授)


* *********

2)自然エネルギーの導入拡大と持続可能な地域作り
                    中島恵理(環境省水環境課所属)

自然エネルギーは、環境に負荷の少ない再生可能なエネルギーとしての意義だ
けでなく、地域コミュニティ形成、地域の経済活性化、社会問題の解決等地域
を環境的、社会的、経済的に元気にしうる鍵になると考えている。
筆者は、平成15年6月から平成17年7月まで、経済産業省資源エネルギー
庁で新エネルギー行政に関わってきた。主な業務はRPS法の運用業務と風力
発電系統連系対策、また新エネルギー産業ビジョンの策定やグリーン電力プロ
グラム・グリーンPPS等の調査業務に携わった。その経験から、個人的な立
場で、最近の新エネルギー政策の動向とその成果を紹介しつつ、個人的な追求
テーマである持続可能な地域作りの観点から見た政策のあり方について考えて
みたい。

一定量以上の新エネルギー等による電気(以下、「新エネルギー等電気」)の供
給を電気事業者に義務付けるRPS法は、費用対効果の高い新エネルギーの供
給を推進していくために導入された制度である。RPS法の導入後電気事業者
の新エネルギーによる電気の供給は増大してきている。具体的にどのような新
エネルギービジネスが拡大したかという点でみると、数万kW規模の風力発電
ファームや建設廃材のバイオマス発電等大規模な発電ビジネスまたは石炭火力
発電におけるバイオマス混焼等の電力会社自身による新エネルギー供給である。
すなわち、RPS法のもとでは、電気事業者は、義務量を満たすため、競争力
のあるより安価なコストの新エネルギー等電気を買い求めることになる。また、
価格は相対交渉となり、取引コストを削減するために、結果として、大きなロ
ットの新エネルギー等電気を提供できる大規模な発電事業者との取引を優先す
る。市民出資による市民風車や自治体が主体の小規模な発電ビジネス等地域発
の事業にとっては、RPS法下における価格交渉の取引コストが増大しただけ
でなく、特に風力発電については、売電価格が下がり採算性を厳しくさせるも
のとなった。風力発電については、大きな出力変動があることから風力発電が
大量に連系する北海道、東北、九州電力等では風力発電の系統連系が制限され
るようになってきた。そこで風力発電の系統連系を円滑化させるため、資源エ
ネルギー庁では、平成16年に総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会の
もとに風力発電系統連系対策小委員会を設置し、2年にわたって、風力発電の
系統連系対策の検討を行ってきた。この検討の末、当面の対策として、蓄電池
併設や低負荷期の解列を行うことを条件とした系統連系が有効な対策として提
示された。このような対策は、大規模なウインドファームにおいては対応可能
であるが、小規模な風力発電事業については、事業展開のハードルとなる可能
性がある。
RPS法において電気事業者に課せられた総義務量は、2010年に122億
kWh、新エネルギーの政策目標としては、たとえば、風力発電については
2010年に300万kWである。これらの目標が達成されるのであれば、全
国で事業展開をする大規模な事業者であろうと地域に根付いた小規模な事業者
であろうとそれは問わない。新エネルギーに対する補助金も限りがあり、国民
経済上も少ない費用で最大のkWhが稼げる大規模事業の方が望ましいという
ことになる。
経済産業省においても、自治体やNGOが行う地域に根付いた新エネルギー事
業の意義(地域活性化、普及・啓発)は認めており、地方公共団体における新
エネルギービジョン策定に補助を行いまた、事業補助においては民間事業者よ
りも高い補助率を設定して新エネルギー事業を推進している。また、平成16
年に公表した新エネルギー産業ビジョンにおいても、新エネルギービジネスの
将来像のひとつとして「地域経済と共存共栄するビジネス・モデルの創出〜
"New" Community Development by "New Energy"〜」を提示し、「地域における
新エネルギー産業が、持続可能なエネルギーの地産地消を実現し、さらには地
域の課題解決や地域の新たな文化創造への貢献等多様な価値をもたらす。また、
新エネルギー産業立地が地域の産業クラスターや教育の場の創造につながるな
ど地域の経済社会の発展にも貢献する。」と指摘している。新エネルギー産業ビ
ジョンに基づき平成17年度からは、新エネルギーの人材育成やバイオマスエ
ネルギーの地域モデル作りを支援する事業を展開している。しかし、売電を中
心とする新エネルギービジネスにおいては、RPS法の影響を強く受けること
となり、地域に根付いた小規模な事業展開が十分進んでいるとはいえない状況
にある。
RPS法は、供給事業者に対して新エネルギー等電気の供給を義務付けるもの
であるが、需要側に着目した新エネルギーの推進方策も重要になってくる。こ
のような視点から、グリーン料金やグリーン電力証書等の電気の需要家の参加
によって新エネルギーを拡大させる仕組みである、グリーン電力プログラムが
注目できる。そこで、資源エネルギー庁では、筆者が主担当となって、平成
15年度は、内外のグリーン電力プログラムの動向に係る調査、平成16年度
は、グリーンな電気を直接需要家に供給するグリーンPPS事業に係る検討を
実施した。また需要家側の取り組みとして、経済産業省の電気の購入に新エネ
ルギー供給の観点も考慮していくことの検討も進められた。このような調査検
討の結果、複数の事業者においてグリーンPPSの事業化の検討が進められて
いるところである。
 このような形で、資源エネルギー庁では、新エネルギーの導入の拡大が図ら
れてきており、筆者もその業務の一旦をになってきた。一方、地域における自
然エネルギーの取り組みとしては、たとえば、北海道や東北等における市民出
資による市民風車、長野県飯田市における市民出資、グリーン電力証書を組み
合わせた商店街エスコ&太陽光発電ビジネス、滋賀県野洲市における地域通貨
を通じた商店街活性化と太陽光発電の展開、埼玉県小川町における有機農業と
市民手作りバイオガスプロジェクト等が進められている。これらの取り組みは、
自然エネルギーの導入をきっかけとして、地域の住民間の交流及び地域住民の
社会参加が進み、さらに地域の商店や農業の販売の拡大や廃棄物等の社会・地
域の環境問題の解決、地域の技術・知恵を活かした新しい地域文化の創造等、
再生可能なエネルギーの導入にとどまらない、多様な社会的、経済的、環境的
な意義をもたらすものとなっている。しかし、このような多様な意義をもたら
す形で自然エネルギーを導入するのは、必ずしも容易ではない。RPS法のよ
うな価格とkWhのみを評価する政策のみでは、このような多様な意義をもた
らす事業を推進することは困難である。自然エネルギーがエネルギー供給の主
流をになうよう政策的に位置づけ、メジャーなエネルギー源としての役割を果
たすようになるためには、技術的な課題を克服していくだけでなく、他のエネ
ルギーにはない、自然エネルギーでこそもたらすことのできるこのような多様
な価値、意義を明らかにし、環境上だけでなく社会的、経済的な市民権を獲得
していくことが必要ではないかと考えている。そのためには、このような価値・
意義をもたらすことのできる自然エネルギーの事業を推進することのできる仕
組み、支援策が必要である。そのひとつとして、グリーン電力プログラムのよ
うな需要家・生活者の視点に立った自然エネルギーの普及・拡大を図る仕組み、
政策が重要であろうし、また資源エネルギー政策だけでなく環境政策や社会政
策からのアプローチが必要となってくるであろうと考える。筆者は、このよう
な視点から、個人的な立場で、地域やビジネスを魅力的にする自然エネルギー
の多様な価値、意義について紹介し、今後の政策や取り組みの方策について論
じる本を来年度出版することとしている。

                    中島恵理(環境省水環境課所属)


* *********

3)今の政策では「6%削減目標」の達成は危うい
              −地球温暖化政策の動向と展望−
                     畑直之(気候ネットワーク)

 依然として日本の二酸化炭素排出量は減らないがその原因は明らかに政策に
ある、今こそ政策強化が必須であり急がねばならない。
 2005年は、京都議定書が発効(2月16日)し、政府が京都議定書目標
達成計画(以下、達成計画)を閣議決定(4月28日)するなど、日本の地球
温暖化政策における節目の年となった。
 しかし日本の2003年度のエネルギー起源二酸化炭素排出量は1990年
度比13.3%増(2004年度速報値では同12.6%増)と、依然として
高止まりしており減少傾向にはない。
 1990年以降、日本は大幅な経済成長を遂げた訳でも、二酸化炭素排出に
影響の大きい製造業の生産量が急増した訳でもないのに二酸化炭素排出が増え
てしまったのは、効率向上(省エネ)や燃料転換(自然エネルギーを含む)の
進展・普及が滞っているからであり、その原因は、逆行する政策を含む政策の
問題であると言わざるを得ない。
 例えば、1990年以降の発電所の設備容量の増加率を見ると、単位当たり
二酸化炭素排出の最も多い石炭火発が3.1倍(2004年/1990年)に
も増えている(この間、LNG火発は1.6倍、原発は1.5倍の増加、他は
ほとんど横這い)。これは二酸化炭素削減に逆行する石炭火発の激増を、(主に
日本型「電力自由化」政策との絡みで)政府が実質的に容認する政策を取って
きたためである。
 そして政策の問題点は、出来たばかりの達成計画にも数多く見られる。
 まず目標の割り振りが、従来の地球温暖化対策推進大綱と同じく、森林吸収
源と京都メカニズムに5.5%を依存し国内削減分は−0.5%にすぎない。
エネルギー起源二酸化炭素の目標は、排出増の現状があるとはいえ、従来の大
綱で革新的技術と国民の活動を含めて−2%だったものを、+0.6%に大幅
に緩めてしまった。
 しかも達成計画は「6%」ぎりぎりで組み立てられているため、どこかが上
手く行かないと、その分は外国から買ってくる京都メカニズムでカバーせざる
を得ない形になっている。
 中身を見ても、エネルギー起源二酸化炭素の削減は原発の設備利用率引き上
げに依存している。過去に一度も実現したことがない87〜88%という異様
に高い数字を達成するとしており、最初の大綱の「原発20基増設」と同様、
実現不可能なことを見込む過ちが繰り返されている。
 政府が立てる計画で肝心なのは、数字合わせではなく、二酸化炭素削減の対
策・技術を推し進める政策(規制や経済的手法)の裏付けである。達成計画の
その部分は、従来の大綱と同様、極めて弱い。追加的な政策措置として具体化
されたのは、事業者の温室効果ガス算定・報告・公表制度を導入する地球温暖
化対策推進法改正、運輸部門の事業者・荷主に省エネ計画策定・報告を課する
などの省エネ法改正にとどまっている。
 「政策手法の総動員」と言いながら、産業部門は相変わらず経団連自主行動
計画に依存するなど、政策的な裏付けが乏しいままである。排出削減の実効性
の高い、炭素税(環境税)、石炭火力発電抑制策(石炭課税の強化・火力発電の
二酸化炭素原単位目標設定・石炭火力発電所新設規制など)、産業部門の自主計
画の協定化もしくはキャップ・アンド・トレード型の排出量取引制度、住宅・
建築物の断熱基準(省エネ基準)の規制化(義務化)などの政策措置は盛り込
まれなかった。
 今こそ一刻も早い政策強化が必須である。しかし政府は大綱から受け継ぐ「ス
テップ・バイ・ステップのアプローチ」を取っており、現達成計画の評価・見
直し作業は2007年に行うことになっている。このスケジュールでは、2008
年からの京都議定書の第1約束期間の目標達成に間に合わない可能性がさらに
高くなる。
 数ある政策の中でも炭素税は、すべての主体に対して課税による価格効果で
二酸化炭素削減を促すことができる必要不可欠な政策であるが、達成計画では
「真摯に総合的な検討を進めていくべき課題」とされ早期導入の方針は示され
ていない。前述した排出削減の実効性の高い政策措置ともども、具体的な検討
を加速し速やかに導入すべきである。
 もはや第1約束期間までに残された時間は少ない。確実に目標達成できるよ
う、NGOとしても政策決定者への働き掛けを一層強めなければならない。

※このテーマに関するさらなる情報源としては、以下を参照のこと。
・書籍…『地球温暖化防止の市民戦略』(気候ネットワーク編、2005年、中
央法規出版)
・ホームページ…気候ネットワーク URL:http://www.kikonet.org

                      畑直之(気候ネットワーク)


**********
4)COP11,COP/MOP1:2006年、これからが遅すぎる本番
                      大林ミカ(ISEP副所長)

 昨年11月28日から12月10日にかけて、カナダ・モントリオールで開
催された第11回気候変動枠組み条約締約国会議(COP11)/第1回京都
議定書締約国会議(COP/MOP1)では、京都議定書の運用ルールがすべて
合意され、2008年から2012年に迫る議定書の第一約束期間の次の取り
組みについての今後の交渉プロセスや、また、米国や途上国を含めた長期的な
行動について対話を始めることが合意された。締結から8年をかけて、京都議
定書という、史上初めて経済よりも環境を優先することを国際的な公約とした
システムが完成し、正式に動き出し、また同時に、議定書の今後の方向性につ
いても、緩やかではあるが前向きな形で世界全体が合意に達したのである。
 それぞれの目的に違いはあっても、ねばり強い交渉態度を尽くした政府と、
先進的な環境政策を講じる産業界、温暖化防止の強い意志を持って行動する世
界の市民・NGOなど、すべてのセクターの努力が生んだ結果であり、その成果
を素直に喜びたい。「京都議定書は死んだ」というメッセージが、日本からです
ら発せられていたのだから。
 モントリオールの合意は、地球温暖化防止への強い決意を表しているが、同
時にこれまでと同じように長い道のりの始発点でもある。議定書の第一約束期
間は小さな一歩を示しているに過ぎず、今後来る交渉と期待される「約束」で
は、各国政府は、現在の経済システムを基礎から変える根本的な改革を迫られ
ることになる。その深刻な現実に引き比べると、日本の地球温暖化防止の国内
対策の現状は、今回のSEENで畑氏が報告しているような、ほとんどジョー
クとも言ってよい状況である。
 環境エネルギー政策研究所は、地域のエネルギー政策の作り上げに実際に関
わりながら、国および国際レベルの政策提言を行っている団体であるが、今回
のCOPは、まさに、そのような視点での活動が大いに報告される場でもあっ
た。国際交渉は、高度な政治問題として多くの駆け引きが行われ、重要な動き
ではあるが遅々として進まない一方で、実際の地球温暖化防止のためのさまざ
まな努力は、現場である地域や産業の場で、交渉や公約の後ろ盾がなくとも確
かに進んでいる。最も象徴的なのが、ブッシュ政権を冠する米国政府だろう。
 カリフォルニア州やニューヨーク州は、2004年7月にその他の州や市と
共に、大手電力会社五社に対し、二酸化炭素の排出に上限を設け、今後少なく
とも十年間にわたって毎年一定量削減するよう求める訴えを起こしているし、
ニューヨーク州は、2005年8月に、州内の発電所から排出される二酸化炭
素排出量を2020年までに現行水準より10%削減することを義務付けた州
法の制定を目指すことも発表している。また、カリフォルニア州では、将来の
削減努力義務に備えて、州法に基づき、温室効果ガスの削減を行った際に
1990年をベースラインとして登録できる、任意の登録制度が動いて(カリ
フォルニア気候行動登録制度)おり、さらに、2005年6月、温室効果ガス
の排出量を、2010年までに2000年レベル、2020年までに1990
年レベル、2050年までに1990年の80%以下にまで削減することを州
の行政法令により定めている。
 これらの取り組みから、再び日本の状況を振り返ると、わたしたちISEP
の活動や日本の地域の役割が見えてくる。日本政府は、今回のモントリオール
の成果に大きく貢献したが、今後もポジティブな交渉態度がとれるかどうかは、
日本が、期待される「約束」を果たせるかどうかに大きく左右され、そのため
には、国内対策の強化が最も優先的な重要課題となる。ISEPが行っている
地域レベルの活動や政策提言、たとえば、東京都が率先する一連の大胆な地球
温暖化防止政策は、国策に対する挑戦であると同時に、大きなエールでもある。
日本の政府に対峙すべきは外圧ではなく日本のNGOであり、その役割を認識
しつつ、これからも地域とともに取り組みを行っていきたい。

カリフォルニア気候行動登録制度:California Climate Action Registry:
http://www.climateregistry.org/Default.aspx?refreshed=true

東京都:「地球温暖化阻止!東京作戦」のHP:
http://www.metro.tokyo.jp/THEME/ondan.htm

                      大林ミカ(ISEP副所長)

3.連載「光と風と樹々と」(4)
 スローフードと「食の地元学」が提起するもの
               長谷川公一(環境社会学者 東北大学教員)

・現代の「通奏低音」

 東北大学の大学院で指導している院生が、『「食の地元学」と地域づくり―宮
城県旧宮崎町における「食の文化祭」活動を事例として』という力作の修士論
文を書き上げた。読みながら、スローフードや地元学を称揚する現代のまなざ
しと、市民風車をはじめとする自然エネルギーへの期待感との間には、ある「通
奏低音」が流れていることをあらためて実感した。今回は、予定を変えて、こ
の澁谷久美子さんの修士論文を参考に、どんな「通奏低音」が響きあっている
のかを考えてみたい。結論を先取りしていえば、(1)地元の食材(エネルギー
資源)や食(エネルギーの使い方)の伝統を大事にする地域主義であり、(2)
食(自然エネルギー)の本来的な豊かさの防衛と復権をめざす点であり、(3)
効率最優先の産業文明に対するアンチ・テーゼであり、(4)技術主義的な処方
箋への不信感である。大量消費の使い捨て文化を象徴する、原子力発電とファ
スト・フードの親近性と、それに対抗する、自然エネルギーとスローフードの
相同性は、面白い論点ではないだろうか。ファスト・フードのチェーン店がそ
うであるように、原子力発電所も、地域外からの侵略者であり、札束による地
域文化の破壊者である。
 
・ 「知識と快楽をペアにする」――スローフード運動の原点

 スローフード運動が始まったのは、1986年、この2月に冬季オリンピッ
クが開かれる北イタリアのトリノ近くのブラという人口約3万人弱の小さな町
においてである。今もここに、国際本部がある。
http://www.slowfood.com/(英語版など各国語サイト)
かたつむりをシンボルマークにして、規格化され・均質化されたファスト・フ
ード的な価値観に対抗するこの運動にふさわしい。小さな町や市からいろいろ
な動きが始まるのは、ヨーロッパやアメリカなどの「常識」といっていい。今
や100ヵ国以上に、8万人以上の会員がいる(2005年12月末現在、上
記サイトによる)。「絶滅」が危惧される食品を守るための「味の方舟」運動や、
環境教育ならぬ「味覚教育」など、卓抜な取り組みが行われている。
 スローフード運動の歴史は、島村奈津『スローフードな人生!』(2000年、
新潮社)などに詳しいが、創設者の1人で現会長のカルロ・ペトリーニ氏は、
1949年ブラの生まれで、大学時代は社会学を専攻したという。「大学紛争の
世代」で、「知識と快楽をペアにする」(イタリア的!)を合い言葉に、食事と
ワインをテーマとした地元での様々な文化活動がスローフード運動の原点であ
る。次は有名な話だが、「スローフード」という言葉が生まれたのは、1986年
のある晩、ペトリーニ氏と仲間達約10名ほどのディナーの場での会話からであ
る。ちょうどファスト・フードの代表、マグドナルドのローマ店出店問題をめ
ぐって、イタリア中が大騒ぎになっていたとき、仲間の1人が冗談のように口
にした「スローフード」という言葉に始まる。
 日本におけるスローフード運動の現状については、ニッポン東京スローフー
ド協会のサイトが詳しい。
http://www.nt-slowfood.org/about/index.html
2003年10月現在、日本には32の支部(コンヴィヴィウム(共生の意)
と呼ばれる)があり、2200人が会員という。サイトをのぞいた限りでは、
山形スローフード協会の活動が充実しており、具体的なイメージがつかみやす
い。
http://www.slowfood-yamagata.jp/
 
・ 「死んでる」と評された町での「食の文化祭」

 もうひとつの日本版スローフード運動といえるのが、「食の地元学」である。
イタリア直輸入の根無し草的な流行と化しかねない「スローフード」運動に対
して、地元学の提唱者で長年の実践活動の経験をもつ結城登美雄氏が、新たに
提起したのが「食の地元学」である。同氏の指導のもとで行われた「食の地元
学」の最初の試みが、1999年11月にはじまり現在に続く、宮城県宮崎町
(2003年4月合併により現在、加美町)での「食の文化祭」だった。澁谷
さんの修論は、スローフード運動との連関を論じながら、この活動の背景や直
面し、乗り越えられてきた、そして現在、とりわけ町村合併後に直面している
課題などを分析した社会学的な事例研究である。
 興味深いのは、宮崎町が特別な地域ではなくて、むしろ「死んでる町」だと、
宮城県商工会連合会に評されるぐらい、長年過疎化に悩み、活気の乏しい地域
だったということである。ここには何も特産品がないと地元の人びとも信じ込
んでいた地域での、「あるもの探し」が「食の文化祭」だった。「スローフード」
は地元にあったものなのである。約1500世帯の町で、1999年の第1回
には約600世帯から約780品、第2回には約1100品の家庭料理が出品
されたという。とくに圧巻は「年越し膳」にはじまる年間の行事食である。地
域の人たちは、農業地帯宮崎町の食のゆたかさを確認しあい再発見した。
2002年12月、「食の文化祭」活動は、「地域に根ざした食生活推進コンク
ール」で農林水産大臣賞を受賞している。その後、「食の文化祭」は、大分県竹
田市、熊本県水俣市など九州の市町村、秋田県阿仁町などにひろがっている。

・勝因は対抗的なフレームにあり 

 スローフード運動の世界的な成功や地元学運動の成功の一因は、アンチ・テ
ーゼ運動にとどまらない、きわめて具体的でポジティブな対抗価値の呈示に成
功している点にある。社会学ではフレーム(ひとことでいえば、運動などの動
員のためのコンセプト・枠組み)やフレーミングというのだが、ファスト・フ
ードに対抗するシンボルとして、「スローフード」は卓越したフレームであり、
シンボルだった。直感的でわかりやすく、言葉としての含蓄があり、包容力が
ある。「地元学」も同様である。今までどう表現すればいいかわからなかった、
ファスト・フードに対抗したいもやもや感を解消してくれる、あっそうか、と
「腑に落としてくれる」そういうシンボルである。「グリーン電力」や「市民風
車」にも、こういう側面があるだろう。
 もう一つわかりやすい例でいうと、2005年9月の衆院選は、「改革を止め
るな。」という小泉自民党の直裁なフレームが、「日本をあきらめない」という
民主党のフレームに圧勝した選挙戦だった。
 2004年5月から昨年3月末までの10ヶ月間のオランダとアメリカ・ミ
ネソタ州での在外研究で私が痛感したのは、政治的リベラリズムの世界的な苦
戦だった。環境・平和・人権という、リベラリズムを主導してきた普遍主義的
なシンボルが、2001年9月11日以降、急速に色あせてしまったのである。
政治的リベラリズムの復権のカギは、災害やテロリズム、雇用不安など、リス
ク社会に怯える人びとの心を捉え得るような魅力的な価値の呈示にある。スロ
ーフードや「食の地元学」が照らし出すのは、消費社会に対抗する価値として
の魅力である。

               長谷川公一(環境社会学者 東北大学教員)


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4.上海からの風の便り(3)
   木村寿香(Imperial Collage, University of London、上海交通大学)

連載の前号で取り上げました中国の「自然エネルギー法」の特徴のひとつは、
固定価格買取り制度の導入です。従来、自然エネルギー発電は「初期投資コス
トが高いが、リターンは不確実」であることが投資のネックになっていました。
固定価格買取り制度の導入によりリターンの不確実性の低減が期待でき、これ
によって投資がある程度促進されると思われますが、投資の意思決定の主体は
あくまで企業であり、政策によって与えられた経済インセンティブに実際のと
ころどう対応するのかは、個々の企業の経営戦略如何です。

中国の発電業者は、旧国家電力公司が分割して設立された中国国電集団など五
大発電業者が半分のシェアを持ち、その他は地方政府や民営企業が運営する小
規模な発電事業者が数百社乱立しています。五大発電業者も含めて、電力業界
の自由化のもと生存競争が激化しているなかで、固定価格買取り制度の導入に
どう対応するのかは、政策の有効性の検証材料として今後の注目に値します。

しかし、もう少し視点を広げてみて「誰のための自然エネルギーか」と考えて
みると、今後の自然エネルギーの発展が、発電業者の「企業の論理」のみに頼
っていていいのかという疑問が湧いてきます。「自然エネルギー発電のための
コスト」は主に企業が負担しますが、「自然エネルギーを選ばないことによるコ
スト」を被るのは、中国を筆頭にした世界中の市民です。低コストの石炭火力
発電による被害は、大気汚染として中国の環境に、酸性雨を通じて周辺国の環
境に、さらに温室効果ガスの排出を通じて地球全体の環境に深い陰を落として
います。その中でも特に中国都市部における大気汚染は深刻です。世界で最も
大気汚染が著しい都市のトップ20のうち、16が中国の都市であり、実に中
国の都市の8割以上において、WHO(世界保健機構)の基準を超える二酸化硫
黄と二酸化窒素の排出が観測されています。また最近の世界銀行の調査によれ
ば、2001年から2020年の期間において年間59万人が大気汚染のため
に早死する可能性があると予測されています。

深刻な「自然エネルギーを選ばないことによるコスト」の負担は、市民の「自
分の消費するエネルギーを選択する権利」擁護の実効を向上させる必要性を浮
彫りにします。エネルギーの選択に関して、政策のみならず企業の意思決定に
市民が影響を及ぼすメカニズムが必要です。市民そして消費者主権というコン
セプトは、欧州では既に確固とした地位を得ていますが、計画経済から市場経
済への移行途中にある中国においては、近年になってやっと注目され始めたと
ころです。連載の前号でご紹介したように、中国では自然エネルギーは送電線
網のカバーしていない無電化地帯を電化する手段として、主に農村において推
進されてきました。しかし、今後もう一歩踏み込んで「主流エネルギー」とし
て自然エネルギーを普及させるためには、中国のなかでも経済成長の著しい沿
岸部における巨大な新興消費者のパワーと自然エネルギーをリンクさせること
が鍵となってくると思われます。

全国レベルでは、市民をエネルギー選択に積極的に参加させる政策はまだあり
ませんが、地方政府レベルにおいては実験的な取組みが始められています。そ
のなかでも、私が今最も注目している「上海市のグリーン電力プログラム」を
次回の連載でご紹介したいと思います。

  木村寿香(Imperial Collage, University of London、上海交通大学)


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5.「お笑い原子力ムラ敦賀」(9)

 日野行介(毎日新聞大阪社会部記者、今年3月まで福井支局敦賀駐在記者)
 今回は関西電力や日本原電、日本原子力研究開発機構(旧核燃機構、動燃)
という福井県の原発御三家の社員たちが敦賀でどのように暮らしているか、そ
の暮らしぶりの一端を紹介したい。
 日本の原発”先進地“敦賀に原発がやってきて40年余り、運転員など高卒
採用の現場社員は地元出身者が多くを占めるようになった。だが大卒、大学院
卒のエンジニアや事務社員という原発事業者本体のエリート層は地元採用はし
ておらず、今も東京、大阪で一括採用している。当然ながら有名大学の卒業者
ばかりだ。原発が地域に来た功績として、「地元雇用の増加」を挙げる人は多い
が、地元雇用は原発事業者本体よりも、下請け孫請けの業者が多くを担ってい
る。
 さて原発事業者本体のエリートたちの多くは会社が用意する社宅に住んでい
る。日本原電、旧核燃機構は会社全体に占める敦賀での機能が大きいため、敦
賀市内にマイホームを構える社員もいるが、関西出身者が多い関電ではあまり
見かけず、ほとんどが社宅に住む。特に働き盛りの中年層は単身赴任が多かっ
た。
 3事業者とも巨大企業だけに敦賀市内にある社宅はいずれも豪華なのだが、
私が最も驚いたのは敦賀市郊外にある旧核燃機構の単身者用の寮、通称「分室」
と呼ばれる建物だった。ここは単身赴任者や独身者用の寮で、基本的に外部の
人間は入れないのだが、私は一度だけ入ったことがある。
 それは一昨末。旧核燃機構と私も所属する地元記者クラブとの懇親会(会費
制)のことだった。核燃機構側が分室を会場に指定してきたが、私はそれまで
分室の存在を知らず、核燃機構の職員にどこか詳しい説明を求めた。すると「タ
クシーに『分室まで』と言えば、連れて行ってくれます」と、とぼけた答えが
帰ってきた。懇親会の当日になり、タクシーの運転手に指定された通り「分室
まで」と言うと、運転手は何の疑問も持たない様子で車を発進させた。「分室を
知らない敦賀のタクシー運転手は居ない」のだそうだ。
 単身寮のどこで懇親会をするのか疑問だったが、案内された場所を見て驚い
た。簡素に見えた寮の中には豪華で本格的なバーとちょっとしたパーティ用の
スペースがあり、懇親会の準備がされていた。割り箸を入れる袋にまで「サイ
クル機構分室」と書いてある手の込みようで、地元の人々を接待するパーティ
が夜な夜なここで開かれているのがうかがえた。(注:我々報道陣は旧核燃料サ
イクル開発機構を核燃機構と略すが、本人たちは核燃の仕事を覆い隠すためか
「サイクル機構」と略す)
 社宅については地元の人から他にも驚くべき話を聞いたことがある。私自身
が確かめた話ではないのだが、20年前まで日本原電の社宅内では社員の妻を
対象にブランド品のバーゲンが年1、2回開かれていたというのだ。会社側が
補助するため、海外ブランド品のバックや洋服が市価の半額以下で売られてい
たという。地元の主婦たちは、社宅の奥様に知り合いがいない限り、中に入る
ことができなかったという。
 話は少し変わるが、毎週月曜日の朝、関西から北陸への玄関口でもあるJR
敦賀駅前には黒塗りの乗用車がずらりと並ぶ。関西や東京にある自宅で家族と
共に楽しい週末を過ごした原発エリートたちが敦賀に戻ってくるのだ。
 地元で「原発推進」を訴える人々は二言目には「原子力との共存共栄」を主
張する。一方で原発事業者のエリートたちも「地域振興に貢献したい」とこれ
に応える。原発と地域の共存共栄は一見成り立っているようにも見えるが、「共
存共栄」はあくまでも「カネ」の話に過ぎない。
 日本原電のある幹部が「40年経っても、この街で我々はやっぱりよそ者な
んですよ」と少し悲しそうな表情で話すのを聞いたことがある。地元の人々も
今だに「原電様」、「関電様」などと原発エリートたちを呼ぶことがある。原発
は厳然たる階層というコンクリート製の土台の上に建造されているのだ。


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6.プロジェクトフラッシュ

「備前グリーンエネルギー株式会社」設立のご報告
                    岡山咲子(ISEPインターン)

 備前市では2005年12月8日、自然エネルギーの利用を促進し、省エネ
ルギー設備の普及を図る事業会社「備前グリーンエネルギー株式会社」が設立
された。これは、同年9月に市民・事業者・行政の協業により発足した備前み
どりのまほろば協議会が、「環境と経済の好循環まちモデル事業」をより具体的
に担っていく主体として設立したものである(事務所は備前市吉永町)。
 備前グリーンエネルギー株式会社は、備前市内の公共施設、事業所、一般家
庭に環境に優しいエネルギー設備の導入を提案していくとともに、市民出資
募集する重要な役目がある。提供する環境エネルギーサービスは大きく二つあ
る。一つは「省エネルギーサービス」でそれぞれの施設に適した最新の省エネ
機器を、経済的負担をできるだけ意識せず導入していただく。二つ目は「熱供
給サービス」で、各施設に対して蓄熱型の薪ストーブとペレットボイラー、太
陽熱温水システムを組み合わせた最適な自然エネルギー設備を提案する。
 環境省からの交付金と市民からの出資で、二酸化炭素の排出抑制につながる
エネルギー効率に優れたこれらのサービスを提供する。交付金は設備導入費の
3分の2を上限に充てることができる。残りの3分の1は匿名組合契約で全国
から出資を募る。数億円が目標で本年度内に出資者や設備利用者の募集を開始
する予定である。
 備前グリーンエネルギー株式会社では今月、この事業を実施するため、備前
市内における事業者の光熱費調査を実施した。今後、具体的に自然熱エネルギ
ー機器の導入や、省エネルギーの提案などを事業として実施していく。
 熱供給サービスであることと、それを大規模な市民出資で行なうこと、どれ
も日本で始めての試みである。備前市、備前市民、備前みどりのまほろば協議
会、そしてパートナーシップ組織として設立された備前グリーンエネルギー株
式会社の取り組みによって、備前市が自然熱エネルギーのまちとして有名にな
っていくか、今後も目が離せない。


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