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1. 風発 リアルワールド
  (飯田哲也、ISEP所長)

2年ぶりのザルツブルグである。サウンド・オブ・ミュージックの舞台にもなっ
た湖水のほとりに立つ古城を本拠とするザルツブルグセミナーという研究財団が
ある。そのザルツブルグセミナーの一環として、1995年以降、欧州エネルギー政
策の「改革(Reform)研究グループ」のワークショップが毎年開かれており、わた
しも1998年頃からときおり参加するようになった。

その名のとおり、エネルギー政策の各分野における「市場改革」が主要なテーマ
だが、市場原理主義とは無縁である。ここで「自由化」(liberalization)と報告
する研究者がいれば、即座に「自由化」ではなく「規制の再構築」
(re-regulation)であると指摘される。かといって環境原理主義でもなく、基本
的には、環境(持続可能性)を中心に据えつつも、市場も折り込んだ新しいエネ
ルギー政策・エネルギー市場のあり方が指向されている。今年の大きなテーマの
一つは、施行を目前に控えた「欧州排出量取引」だった。(なお、飯田がコバリ
エル教授と共同で報告した「RPSの失敗 - スウェーデンと日本の共通の教訓」
は、ISEPのウェブサイト http://www.isep.or.jp/ に掲載。)

ところで、今回のワークショップでは、「リアルワールド」(現実世界)という
キーワードが目立った。欧州でも、市場原理主義に悩まされていることが伺える
キーワードといえよう。机上の理論で政策の一側面だけをつまみ食いした結果、
英国、スウェーデンなどでのRPSの失敗や、新たな寡占の進むドイツの電力市
場や設備投資が滞って大停電の危機すら懸念される英国といった報告がつづき、
前提条件としても結果の評価でも「リアルワールド」をしっかりと折り込むこと
の重要性があらためて強調されたのである。これは、「政策の熟慮」
(deliberation)とともに、今日の政策形成の重要な要素であろう。

ひるがえって日本はどうか。「RPSでは市場メカニズムが機能するので経済効率
的である」といった、素朴な市場原理主義がはびこっているところは欧州と同じ
状況だが、議論の水準ははるかに低く、政策への市場原理主義の影響がより大き
いために、いっそう深刻な状況といえる。

他方で、核燃料サイクルをゴリゴリに推進している原子力ムラの人々は、今では
朽ち果て「悪夢」となった何十年も前の「夢」の世界を生きていて、これを押し
通すためには、デタラメだろうが無茶な論理だろうが平気で押し通そうとする。
現在、原子力委員会の長計策定会議で議論されている核燃料サイクルの是非で、
「六カ所再処理工場を放棄すると、全原発が停止し、これを補うために、膨大な
火力発電の費用がかかるため、これを政策変更コストにするべき」といった電力
会社の主張を見ると、ほとんど居直り強盗と変わらない論理に呆れ果てる。

この両極の狭間で又裂きのような状況に置かれた日本のエネルギー環境政策に対
して、持続可能な社会に向けたリアルワールドの議論を構築していくことの重要
性を、あらためて噛みしめた1週間だった。

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3.  ドイツ便り Nummer 5

東海村の臨界事故がドイツの市民社会と脱原発論争に与えた影響
 - 日本のマスメディアがほとんど報道しなかった事実の記憶 -
 (大石りら、ISEPドイツ駐在研究員)

今月はドイツの環境・エネルギー政策をめぐる重要なトピックがたくさんある。
まず、八月に発効したばかりのドイツの自然エネルギー改正法の主眼とバックグ
ラウンドペーパーの発表。それらに対する再生可能エネルギー各分野の業界団体
や環境NGOによる評価と批判。また、ライプツィヒ郊外に建設された世界最大規
模のシェル=ソーラーの太陽光発電所とその竣工式におけるドイツ連邦環境大臣
の「PV生産においても世界一を目指す」宣言。ソーラーエネルギー促進に貢献す
る全国500以上におよぶ市民イニシアティブの統合組織誕生と活動開始。そして
また、将来における風力エネルギー研究開発の重点についての政府発表。英仏に
おける風力エネルギーブームに対するドイツの風力エネルギー業界の反応。再生
可能エネルギー促進における東欧諸国との経済協力関係の強化に関する政府発
表。(以上のテーマについては、紙面の枚数制限の都合から自然エネルギー専門
誌『ソーラーシステム』の2004年秋号No. 98に拙論掲載予定。)また、電力会
社大手による不当な電力料金値上げ要求に対する政界・経済界・消費者連合から
の批判。(9月30日にシュレーダー首相を中心とする会合の場“エネルギーサ
ミット”が設けられ、電力会社の要求が退けられる見込み。)

来年からいよいよ開始するEU内部の排出権取引とそのルールづくりのプロセス
におけるNGOの積極的参加などは、最も重要なトピックであると思われるが(来
月号の『SEEN』で報告する予定)、今月はチェルノブイリ以来最悪の原子力エネ
ルギーと位置付けられた五年前に東海村で起きた臨海事故の記憶が風化しないよ
うに、犠牲者の死と苦しみを無駄にしないために、東海村の臨海事故がドイツの
市民社会と脱原発論争に与えた影響について、(そのほんの一部についてである
が)日本のマスメディアが報道しなかった事実の記憶として述べておきたいと思
うので、お許し願いたい。

1999年9月30日に起きた東海村の臨界事故は、ヨーロッパの人々にとってチェル
ノブイリの悪夢を彷彿とさせただけではなく、それが“世界をリードする技術大
国とみなされている日本”で発生したという事実が、皮肉なことにドイツにおけ
る「原子力の安全神話」の崩壊に決定的な影響を及ぼした。世論の関心が非常に
高く、事故の犠牲者となられた従業員の壮絶な苦痛に対して強い同情が湧き起こ
り、周辺住民の放射能汚染による健康被害が心配されたために、ドイツのマスメ
ディアは数週間にわたって、事故の全貌をあきらかにしつつ、日本の原子力行政
の内幕についても詳細に論じた。事故の翌週、ドイツ連邦議会においても、事故
原因解明に関する情報をもとに徹底的に討議された。(1999年10月6日の連邦議
会議事録参照。)

日本の原子力行政やエネルギー政策にこの臨界事故を契機として転換が生じるか
という点にドイツのマスメディアの注目が集中したのではあるが・・・。クオリ
ティ・ペーパーとして海外でも有名なフランクフルター=アルゲマイネ紙の女性
特派員記者が数ヶ月にわたって事故後の日本における成り行きについて報じたの
ちに「日本の原子力行政は放射能汚染と同じように不可視である」と結論づけた
のが、最も印象的であった。

東海村の事故を契機として、その翌年にあたる2000年春、「ドイツの原発に完璧
な責任保険を今すぐかけよう」というキャンペーンが開始された。キャンペーン
開始にあたって、東海村の臨界事故の教訓が宣言されており、そのことがドイツ
社会全体における同キャンペーンの隆盛の背景となっている。このキャンペーン
の狙いは、最悪の事態を想定して原発に“完璧な損害賠償のための責任保険”を
かけようとすれば、その保険料はその支払いが経済的に不可能であるほど高額と
なることや、被害総額を試算すると年間の国家予算の10倍から20倍におよぶこと
をあきらかにすることである。(試算は経済省の調査結果と科学研究機関による
データを基礎としている。)

キャンペーンの中心となったのは、1985年にノーベル平和賞を受賞したIPPNW
「核戦争を防止する国際的な医師たちの会」、ドイツ法曹界を代表するNPOであ
るNPV、BUND地球の友ドイツ支部(会員数約37万人)である。それに最大野党で
ある保守党CDU/CSUの「核エネルギー反対する議員グループ」、ドイツ最大の環
境NGOであるNABU(会員数約39万人)、カソリック教会の青年部組織、再生可能
エネルギー業界団体など多数が加わった。

ドイツのマスメディアが大きく取り上げたこの署名運動には、政治家、三百人以
上の大学教授、文学界や芸能界やスポーツ界の著名人、ホテルチェーンを含む観
光関連業界団体や農業共同組合などが参加している。この署名運動は現在もなお
続けられている。

(キャンペーンに関心を持たれた方へ。全体像についてはドイツ語のホームペー
ジ参照 http://www.atomhaftpflicht.de/ 。IPPNWのキャンペーン担当者ヘン
リック・パウリッツ氏とは英語でコミュニケーション可能paulitz@ippnw.de ま
たはkontakt@ippnw.de に直接メールで御連絡お願いします。)

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2. 政策コメント ロシアの京都議定書批准・閣議決定を歓迎する
  (大林ミカ、ISEP副所長)

9月30日、ロシア政府は、京都議定書の批准案を閣議決定した。今後は、ロシア
下院・上院の両方で審議が行われるが、両院とも現大統領の与党が圧倒的多数を
占めているため、法案の可決は確実とみられている。今回のロシア政府の決定に
より、1997年のCOP3での採択から約7年もの歳月を経て、ようやく京都議定書
発効が行われることになった。

京都議定書は、各国が協働して議論を重ねてきた唯一の国際的な枠組みである。
議定書に記された地球温暖化防止のための努力を行うことは、すでに批准してい
る日本を含めた124の国々のみならず、地球上すべての国にとって、気候変動緩
和のための重要な意味を持つ。

現在、日本は「地球温暖化対策推進大綱」の評価・見直し作業を進めているが、
経済産業省・環境省それぞれによってとりまとめられた中間報告によれば、議定
書に定められている目標値を達成するどころか、増え続けている状況が報告され
ている。しかし、このような状況を放置するだけでなく、今までの施策の失敗を
そのままに、さらに今後の取り組みすら回避しようとする動きも未だ存在する。

数々の異常気象を考慮するまでもなく、地球温暖化の脅威はすでにわたしたちの
身近に及んでいる。京都議定書の約束は、今後の大きな削減を実現する第一歩で
あり、まずは、議定書の目標の達成に真剣に取り組む事が重要である。さらに、
中長期的視点からの地球温暖化対策は、議定書の議論の延長線上にあるべきであ
る。

今回、京都議定書の発効が確実となったことで、世界は、気候変動緩和に向けて
大きく前進することとなった。議定書の約束を守り地球温暖化を防止すること
は、新しい経済と環境の融合をわたしたちにもたらす。日本は、温暖化対策税や
国内排出量取引制度など新しい施策の導入に向けて直ちに行動を始めるべきであ
る。

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4. プロジェクト・フラッシュ
(ISEPが内外で取り組む活動からトピックスを拾って紹介します。)

グリーン電力、新しい研究会発足の動き
(大林ミカ、ISEP副所長)

経済産業省は、今年6月「新エネルギー産業ビジョン」と題するレポートを発表
し、自然エネルギーを中心としたエネルギープロジェクトの促進を行うことで、
3 兆円産業の創出を謳った。今までISEPが国内でも中心となって提案してきたグ
リーン電力に関わるプロジェクトが提案されており、また、過去にSEENでも紹介
したが(SEEN Vol.3)、日本エネルギー経済研究所に同省が委託し調査・検討が
行われた「内外のグリーン電力プログラム研究会」での議論も反映された内容と
なっている。

「内外のグリーン電力プログラム研究会」では8月に報告書を上梓した。この研
究会には、ISEPから飯田と大林が参加し、国内でも最先端のグリーン電力に関す
る情報を集積するISEPとして、貢献ができたのではないかと思う。内容は、米国
・欧州それぞれのグリーン電力プログラムに関わる現状と課題、日本におけるグ
リーン電力の状況、さらには、欧米タイプのグリーン電力プログラムを日本で実
現するための可能性などについてとりまとめられたものである。

そして、これらの動きの次のステップとして、9月15日付の電気新聞一面トップ
に掲載されたように、日本でグリーン電力プログラムを行うためにどのような諸
条件が必要か、などを調査する新しい研究会が経済産業省によって企画されてい
るようである。報道や周辺情報によれば、グリーン電力に関わるWTP調査や、日
本型電力自由化市場下でのグリーン電力PPSあるいは規制市場下での電力会社に
よるグリーン電力プログラム創出の可能性が検討される。委員には、昨年度から
引き続きISEPの名前も挙げられているようである。ISEPでは、今後ともこれらの
動きに積極的に関わりながら、持続可能なエネルギーシステムを実現するツール
の一つとしてのグリーン電力政策に関して、提言活動を続けていく。

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