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5.ベルリンの風 第9回 新たな謎へ
                     山下紀明(ISEP主任研究員
           /ベルリン自由大学環境政策研究センター博士課程)

 2月中旬からハンブルクを4回、バルセロナを1回訪れました。今月20日
に帰国する前のコロキウム(ゼミ)での発表に向け、最後のデータ収集です。
これまでに計26件のインタビューを行い、貴重な情報を提供していただきま
した。今回の調査ではインタビュー相手はもちろん、その紹介者も含めて多く
の方からの厚意と応援をいただきました。それに答えるためにも、成果をまと
め、彼らへのフィードバックや現実の政策作りへの提案を通して貢献ができる
ようにしたいと強く思います。
 一部前回と重複しますが、私の研究は「なぜ、いくつかの都市は積極的な自
然エネルギー政策を発展させることができたのか?」という謎を比較により解
き明かすことです。前回は調査地である東京、バルセロナ、ハンブルクの太陽
熱政策の違いについて外部条件として「国の政策のギャップ」と「自治体の権
限」を中心にまとめました。今回は3都市が積極的な先進地域となりえた内部
条件について考えてみます。
 政治学において多くの研究がなされているアドボカシーコアリション枠組み
(AFC)によると、それぞれの信念に基づき政策を実現しようとする連合体
が活用する資源として以下の6つが提示されています:(1)政策決定のための
公式な法的権限(2)世論(3)情報(4)動員数(5)資金(6)巧みなリ
ーダーシップ。自然エネルギー政策を推進してきた自治体を中心とする連合体
について(1)(3)(6)を中心に3都市に共通する内部条件を考察します。
 東京では都の再生可能エネルギーチームとISEPを中心とするNGO、事
業者連合が連合体を作り、2000年ごろから金をかけずに知恵を使った施策
を進めていました。2006年以降は人事異動や組織改変をへて気候変動政策
全体の推進体制が整い、自然エネルギー政策推進への大きな追い風となりまし
た。自らの情報収集・専門知識に加え、ISEPや事業者と連携して情報を活
用して新たな政策作りを行ってきました。同時にこれまでの一連の環境政策の
知見や経験が内部にも外部にも蓄積されており、それらを活かしたリーダーシ
ップとコーディネーションが見られます。
 バルセロナは1980年代後半から環境政策を標榜する議員がNGOや事業
者との連合により、自然エネルギー促進制度の情報を収集し、太陽熱義務化制
度を作り上げました。その後エネルギー問題を扱う専門組織が設立され、自ら
の取組みから情報のフィードバックを得て、実践と改訂を担っています。地域
のエネルギー供給を担うガス会社の影響力は大きく、建設業界やビルオーナー
などとも議論がありましたが、交渉をへて制度は改訂されています。一方で前
述の議員とともに市民組織は中心となる連合体から外れていきました。現在は
環境担当副市長がリーダーシップを発揮し、太陽熱制度をはじめ環境政策全体
の推進に大きな貢献をしています。
 ハンブルクでは当時のEU全体での電力自由化の流れとも相まって2002
年に公共電力会社を手放しましたが、エネルギー供給に対して自治体の影響力
が失われた事への批判が根強くありました。2008年から当時政権の座にあ
った緑の党が牽引車となり公共電力会社を新設し、電力網や熱供給網を買い戻
す準備も進めています。公的電力会社の新設は他の都市でも見られますが、ハ
ンブルクが最も大規模なものであり注目されています。今年2月の選挙で政権
政党となったドイツ社会民主党(SPD)も公共電力会社の取組みを促進する
方向に動きそうです。再生可能エネルギーチームは他の環境担当部署と密接な
コミュニケーションを取りながら、気候変動政策全体をコーディネートする部
署も事業者と連携を積極的に進めていますが、NGOは連合体には入っていま
せん。
 上記のような取組みをへて3都市それぞれの文脈の中で自然エネルギー政策
を積極的に進める連合体を形成し、実践してきました。もちろん各都市によっ
て異なる様々な制約もありますが、インタビュアーの一人は「制約が必ずしも
問題となるわけではない。」と述べました。彼らは資源を活用し、数々の工夫に
より、逆に多くの機会を生み出しています。先進地域の取組みはこうした人々
が支えているのだと実感しました。
 次回は本連載のまとめとして、10ヶ月間の滞在で得たものについて書きま
す。

                     山下紀明(ISEP主任研究員
           /ベルリン自由大学環境政策研究センター博士課程)
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4.ベルリンの風 第8回 比較による謎解き
                     山下紀明(ISEP主任研究員
           /ベルリン自由大学環境政策研究センター博士課程)

 1月のベルリンは気温零度前後と寒いものの雪はほとんど降らず、12月に
積もった雪もすっかり解けてしまいました。そんなある日、一人の博士候補生
が環境政策研究センター(FFU)の会議室でディフェンスに臨みました。
 ディフェンスとは博士論文を提出した後の口頭試問です。その場で自らの論
文の正当性を守りきれば晴れて博士として認められます。形式は国や大学、学
部によっても異なりますが、FFUでは指導教官を含む5人の教授陣を相手に
20分のプレゼンテーションと2時間ほどの質疑応答が課されます。
 今回ディフェンスを行った同僚は、欧州各国における自然エネルギー電力の
固定価格買取制度が収斂してきた要因を研究してきました。彼は数百ページに
渡る論文の内容を短い時間で端的に述べ、教授陣からの質問に対しては理論も
現実もふまえた上で時折ジョークを交えつつ回答。博士を名乗るにふさわしい
資質を示し、見事に審査を通りました。自分も数年後には今の研究をまとめ、
ディフェンスを行うのだと想像し、身の引き締まる思いでした。

 今回から2回にわたり、これまでの研究から明らかになったことを述べて
いきます。指導教官は「研究は推理小説に似ている」と言います。ある事件(社
会的に重要な出来事)に対して、研究者はWho done it?(=誰がそれをしたの
か?)やHow done it?(どうやってしたのか)を、データや証言を集めて当時
の状況を再構築した上で、そこに含まれる謎を解き明かしていきます。特に比
較政治学は、単に各ケースの状況を羅列するのではなく、それぞれの共通点と
相違点を比較することで、それらにまたがる謎を解き明かすことに本質があり
ます。
 私にとっての謎は、「なぜ、ときには悪条件の中でさえも、いくつかの都市は
積極的な気候変動政策、特に再生可能エネルギー政策を発展させることができ
たのか?」です。そこには外部要因と内部要因があり、今回は外部要因につい
て考察します。
 これまでの連載でご紹介してきたように、私の研究調査地は東京、バルセロ
ナ(スペイン)、ハンブルク(ドイツ)です。3カ国とも自然エネルギー、特に
太陽エネルギーの推進で重要な地位を占めてきました。一方で気候変動政策全
般についての姿勢は大きく異なり、日本は停滞中、EUの中では後追い型のス
ペインと先導役のドイツとに分かれます。
 研究の中で顕著な違いが見られたのは、都市の太陽熱推進策でした。東京都
は補助制度の開始にあたり、ISEPや事業者と協力して太陽熱利用システム
の製品規格の再整備、グリーン熱証書制度の立ち上げを働きかけました。さら
に公共建築物への太陽熱導入ガイドラインや大規模開発時の自然エネルギー導
入検討義務も整備しています。バルセロナは新築・改修時の太陽熱導入義務化
を発案し、現在でも国よりも厳しい基準を設定していますが、金銭的な補助制
度はありません。他方ハンブルクでは補助金はあるものの、他に特筆すべき制
度はありません。
 こうした独自制度の違いの説明する外部要因として、一つは国の政策の空白
(ギャップ)、もう一つは自治体の権限が考えられます。3都市を比較すると、
国の制度のギャップが大きい日本やスペインで独自の取組みが行われています。
そのギャップをどのように埋めるのかは、自治体に備わっている権限とそれを
活用する工夫が大きく関わってきます。
 東京とバルセロナについては、自治体が制度を形成する時点で、国による自
然エネルギー熱利用の政策は手つかずの状態でした。東京は本来国が主導する
べきであろう製品規格やグリーン熱証書スキームの制度を自ら整備。さらに建
築規準に加える形での太陽熱導入義務化は権限上難しいものの、大規模開発時
の検討義務化として一部導入に成功しました。バルセロナでは太陽熱義務化に
あたって、既存の建築規準に組み込んだ点に工夫が見られます。新たな条例を
作る際には権限の議論が起こると想定されたため、既存の制度を改正して入れ
込むことで、摩擦を避けたのです。
 ハンブルクでは国の自然エネルギー導入義務化があるため、現在策定してい
る気候変動マスタープランでも太陽熱についての目新しい施策は検討されてい
ないようです。
 次回は上述の謎を解くためのもう一つの鍵、内部条件について紹介します。

                   山下紀明(ISEP主任研究員/
            ベルリン自由大学環境政策研究センター博士課程)
4.ベルリンの風 第7回 バルセロナの実践とイメージ
                     山下紀明(ISEP主任研究員
           /ベルリン自由大学環境政策研究センター博士課程)

 昨年末は雪のベルリンでWeihnachten(ヴァイナハテン=クリスマス)と
Silvester(ジルベスター=大晦日)を迎えました。12月24日は店もほぼ閉
まり街がひっそりとしている中、ベルリン大聖堂のミサに多くの家族連れが参
加しており、厳かな光景を垣間見ました。対照的に大晦日の夜は花火がそこか
しこで鳴り響く大騒ぎ。昨年のサッカーワールドカップ(W杯)の熱狂を思い
出させます。振り返れば昨年6月、W杯開幕頃にベルリンでの生活を始めまし
たが、あっという間に年を越し滞在期間は残り2ヶ月程。残りの貴重な時間で
精一杯動き回りたいと思います。
 さて、今回は昨年11月下旬から12月初旬にかけて行ったバルセロナにつ
いてのインタビューの様子をお届けします。
 2年ぶりにバルセロナを訪れて気付いたのは、市民用貸し自転車の大幅な増
加。自転車専用レーンは2年前もありましたが、赤と白に塗られた貸し自転車
が街中の至る所に並び、それを利用する姿も頻繁に見かけました。市の太陽光
/太陽熱の教育施設も新たに出来ており、非常にわかりやすい展示に感心。合
わせて海岸にそびえる巨大な太陽光パネル(440kW)も見学できました。
さらに市立歴史博物館、カタルーニャ歴史博物館を訪れ、「ここはスペインとは
別の国だよ」と言い切る市民達の感覚を少しはつかめたように思います。
 バルセロナは今年行われた欧州環境首都2012、2013コンテストにて
最高得点を記録しました。残念ながら環境首都には選ばれませんでしたが、
2011年首都であるハンブルクと並び総合的に高い評価を獲得。そんな街の
実像に迫るべく、今回は地元NPOを中心に話を聞きました。
 これまでにも書いてきた通り、バルセロナで最も興味深い制度は2000年
に導入された太陽熱義務化条例(S.O.)です。トップダウン型で何をするに
も中央=マドリッドにお伺いをたてなければならないスペインにおいて、温熱
部門という国の政策のギャップを見抜き、独自にS.O.を定めそれが各地に
広がっていったのは極めて例外的なことでした。マドリッドの自然エネルギー
コンサルタントも「バルセロナのS.O.導入はスペイン全体にとって重要だ
った」とその意義を認めています。しかし今回のインタビューでは、その時期
を境に行政と地域ネットワークの関係性が薄れていったことが浮き彫りになり
ました。
 2000年以前は市議であり、S.O.を含む環境政策の立案に尽力した
Josep Puig氏によれば「2000年以前と以降は大きく状況が変わってしまっ
た。」それまで進めていたアジェンダ21の内容は大きく弱められ、市のエネル
ギー計画は現状延長型で政策的な追加措置はなされず、地域エネルギーセンタ
ーも官僚的になっていると嘆きます。S.O.についても改善の余地があり、
制度対象外である既築ビルへの対策も課題のまま、バルセロナには総合的な気
候変動戦略が不在。さらにこうした停滞の背後には巨大ガス会社の存在がある
と指摘しています。
 またバルセロナに拠点を置くあるNPOによれば「この10年で太陽熱や太陽
光の導入は進んでいるが制度的な発展は無く、協働関係も無くなってしまっ
た。」最近、彼らが市民出資の太陽光設置の仕組みを作りあげ、大きく展開する
ための協働の提案を行ったが、市側に断られるということもあったそうです。
 一方でなぜ環境都市としてのバルセロナの評価はこの10年で大きく上昇し
たのか? 上記のNPOは「他都市での取組みが非常に乏しいこともあり、
2000年までの議論をもとに多くの施策をすでに導入済みという点ではスペ
イン随一と言える。しかしそれ以上にこの街が持つ芸術・文化・観光都市とし
ての良いイメージとの抱き合わせで、実情以上に名前が売れてきているので。」
と語っています。
 今回のインタビューで評価と実情との差を把握できたことは大きな収穫でし
た。1月末には市と地域エネルギー事務所へのインタビューを予定しています。
NPOとは異なる意見をどこまで引き出せるのか、十分に準備して臨みます。
 最後に、今回話を聞いた方々が逆境の中であっても常に街の発展のための取
組みを試みている姿勢に勇気をもらいました。SEENへの掲載許可への感謝
の念とともにここに記します。

                   山下紀明(ISEP主任研究員/
            ベルリン自由大学環境政策研究センター博士課程)
4.ベルリンの風 第6回 ハンブルクの戦略
                     山下紀明(ISEP主任研究員
           /ベルリン自由大学環境政策研究センター博士課程)

 11月下旬、いよいよベルリンにも雪が降り出しました。コートはもちろん、
帽子にマフラーに手袋での完全防備が必要です。12月1日のベルリンの気温
は最低マイナス10度、最高マイナス8度。大阪生まれで東京より北に住んだ
ことが無い私には未知の領域に突入していきます。この連載の題名は毎年夏に
ベルリンフィルハーモニーの野外コンサートで披露される楽しげな曲が由来な
のですが、これから冬の間は「ベルリンの雪」に変更してしまう方がよいのか
もしれません。
 と言いつつ、私は12月初旬をスペインのバルセロナで過ごしています。イ
ンタビューに向かう途中の明るい空、東京とそれほど変わらない気温を満喫中
です。(それだけにベルリンに戻るのを一層恐れている面も。)バルセロナでの
調査の様子は来月お伝えしますので、今回は11月中旬のハンブルクでのイン
タビューからの示唆をお届けします。
 本連載の第4回ではハンブルク市民による住民としての意見をご紹介しまし
た。(注1)。今回の訪問の目的は研究機関、NGOのメンバーへのインタビュー
ーです。ハンブルクでは現在、気候変動対策へのマスタープラン作りが進行中。
11月下旬には市から委託を受けた研究機関が基本的な方向性を示すための提
案書を発表。その中で今後ハンブルクが取り組むべき政策分野を明確に示して
います。これまでも数多くの取り組みがありましたが、それらを戦略的に統合
していく指針となるものです。
 電力・熱・交通・産業用熱の4分野に需要側・供給側を組み合わせた8項目
の中で、熱と交通の需要側の2分野を最重点分野に指定。熱については新規建
築物のエネルギー認証制度と既存建築物の暖房システムの改善を提言。ドイツ
全体で新築および大規模改築時の自然エネルギー熱導入義務が2009年から
施行されていますが、まだまだ改善の余地があり自治体として追加施策が必要
という認識です。交通については道路の有効活用と公共交通の整備・魅力増大
が鍵。先月のDIREC2009の都市セッションでも話題になったように多
くの街にとっての共通課題と言えます。
 一方電力については国の普及政策が強力であり、ハンブルクとして自然エネ
ルギー導入への追加的な補助や省エネ施策は進めているものの、今後新たなモ
デルとなるような政策を作り出すことは想定されていません。産業についても
多くの企業が温室効果ガス削減についての協定を市と結んではいるものの、政
策的手法でのさらなる削減は考慮しづらいようです。
 ハンブルクの中長期目標の数字自体はドイツの目標値と同じなのですが、都
市の発展と特性を考慮し、追加的に削減すべき量が推計されています。EUと
国の施策によって温室効果ガスを削減した状態を100とすると、2020年
にはさらに約13%、2050年では約30%分を自らの施策で減らさなけれ
ばなりません。これを少ないと見るか多いと見るかについては意見が分かれる
ところでしょう。ひとつ確かなことは、国の中長期的な目標と方向性が明確だ
からこそ推計が可能なのであり、他の国の調査候補地に比べハンブルクが有利な点です。
 さらにハンブルクが一つの市でありつつ州でもある特別市(Staatstadt)で
あるために、他のドイツの都市と比較して有利なのは州としての規制権限があ
ること、データが得やすいことです。ミュンヘンも環境政策を進めている大都
市ですが、この2点で大きな違いがあります。
 またドイツの著名な研究機関の自治体政策担当者によると、ハンブルクやミ
ュンヘンが計画している電力会社の公共性を高める方策についての両面性を指
摘しています。「自然エネルギー比率」を高めるといった自治体からの要請が容
易になる一方で、公共団体であっても売上の縮小や採算性については組織とし
ての反発が出やすくなります。この点は大きな行政組織に共通した問題の構造
があり、過度の期待への注意を述べていました。
 ハンブルクの地元NGOからは建築および暖房に関する意見がありました。
既存住宅の暖房システムの多くが電気式で、安い夜間電力メニューを提供する
大手の会社から自然エネルギー供給会社への乗換が進まないこと。さらに改修
への補助制度の不備を指摘していました。
 ハンブルクには12月にも自治体の政策担当者へのインタビューを行います
ので、今回得た情報を基に切り込んでいきます。

注1)SEENアーカイブ 2010年10月
http://isepseenarchive.blog88.fc2.com/blog-date-201010.html

                     山下紀明(ISEP主任研究員)
3.ベルリンの風 第5回 個人と自治体による選択
                     山下紀明(ISEP主任研究員
           /ベルリン自由大学環境政策研究センター博士課程)

 10月31日に夏時間から冬時間へと切り替わり、家中の時計の針を1時間
遅らせました。いよいよ冬の始まり。さっそくクリスマス商戦のチラシが郵便
受けに届いていました。友人からは「ベルリンの冬は暗くて寒いから。楽しみ
はヴァイナハテン(クリスマス)とジルベスター(大みそか)の大騒ぎくらい」
と口を揃えますが、音楽・映画・演劇といった屋内イベントはこれからがシー
ズン本番。この季節を待ち望んでいる方もたくさんいるようです。
 さてベルリンで現在の家に引っ越してから、まだ行っていない手続きがあり
ました。それは電力会社を選択すること。SEENを毎月ご覧の皆さまには改
めてご説明することもないかと思いますが、ドイツでは電力自由化が進められ
一般家庭(アパートの一世帯であっても)でも電力会社やメニューを選択して
契約できます。日本ですと各家庭が電話会社を指定する感覚に近いでしょうか。
 ドイツでは1998年ごろからの電力自由化により当時8社あった大手電力
会社が4社に統合されていきました。規模が大きい順ではE.ON、RWE、
Vattenfall Europe(以下V.E.)、EnBW。このうちベルリンでは三番手の
V.E.が基本となります。V.E.では化石燃料を含む通常の電気、コジェ
ネレーション中心、ノルウェーの水力発電100%といった5種類のメニュー
を用意しています。どれも毎月の基本料金が5?7ユーロ、加えて従量料金が1
kWhあたり20セント前後という値段設定です。
 また、ドイツでは大手電力会社以外に自治体や独立系の電気事業者、地域エ
ネルギー供給会社もあります。なかには自然エネルギー由来の電力供給を専門
に行うGreenpeace energy、Naturstrom、LichtBlickなどもあり、相互にメニ
ューや料金を比較できるウェブサイトも作られています。上記の会社が供給す
る電力も7割方は水力発電ですが、V.E.同様北欧の大規模水力によるもの、
ドイツ国内の小水力を主とするものなどその内実は異なります。また残りの3
割についてもバイオマスや風力、コジェネレーションなどの組合せがあります。
 今回私はEWS Schoenauという電力会社を選びました。電源は新規開発の小水
力を中心としており、電気料金の一部を太陽光などへの投資に回すグリーン料
金プログラムも準備している点を考慮して決めました。その分値段は他より少
し高く、今回私が滞在する10ヶ月間での総費用を推計してみるとV.E.の
通常電力と比べると1万円ほど上乗せとなります。留学中の苦しい懐事情と相
談しながらも、せっかくの電力会社とメニューを選ぶ機会ですので、比較検討
してみたうえでの選択となりました。
 こうした自然エネルギー電力供給会社の顧客数は数万から数十万世帯程度が
多く、ドイツ4000万世帯と比べれば一部です。しかしながら自然エネルギ
ー法で着実に国内の自然エネルギー供給源を増やすとともに、電力会社とメニ
ューの選択によってさらに一人一人の市民の需要側からも電力源の選択に参加
できることは大きな意義があると感じます。
 研究の面では、10月8日に会議での発表を行いました。私の所属する環境
政策研究センターが毎年開催する「Berlin Conference on the Human Dimensions
of Global Environmental Change」(地球環境変化の人的側面についてのベルリ
ン会議;筆者訳)でのことです。今年の副題は「環境変化と環境ガバナンスの
社会的側面」。そのなかの「重層的ガバナンス:地域の反応(第二セッション)」
において「太陽熱市場における東京都の役割:重層的ガバナンスの観点から」
として供給側、需要側の双方の観点から気候変動政策を進める東京都の政策作
りとそれを取り巻くアクターについて報告しました。
 また同様のテーマを持つ研究者の発表を聞き、大いに刺激を受けました。最
も興味深かったのはブラジルの2大都市の事例報告です。ブラジルという振興
経済国でもサンパウロ、リオデジャネイロという大都市が積極的な気候変動対
策を行っており、リーダーシップや他の自治体との関係性などからサンパウロ
がより進んでいると述べていました。
 自治体が外部状況と内部状況を勘案し、どのようにして供給側と需要側の政
策を選択していくのかは社会的にますます重要性を持っていくはずです。今月
末からハンブルクやバルセロナを訪れ、自体帯の政策担当者やNPOなどに直接
インタビューを行い、その答えを探ってきます。

                     山下紀明(ISEP主任研究員)
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