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4.バイオマスエネルギーの将来展望
         ~ECOFYSのエネルギーシナリオに寄せて~
        熊崎 実(筑波大学名誉教授・日本木質ペレット協会会長)

・思考実験としてのシナリオ
 今年の初めにWWFは「再生可能エネルギー100%」のビジョンを公表し
ました。その基礎になっているのが、オランダに本拠を置く著名なコンサル会
社ECOFYSが作成したエネルギーシナリオです。大きな筋書きとしては、
2050年までに化石燃料と原子力を再生可能なエネルギーに置き換えるとい
うものです。
 脱化石燃料を目指す長期シナリオはすでにいくつも公表されていますが、バ
イオマスエネルギーに限って言えば、ECOFYSのシナリオは、気配りがよ
く行き届いていて、一番の出来ばえではないかと思います。たぶんバイオエネ
ルギーに詳しい優秀なスタッフがこのコンサル会社にいるからでしょう。彼ら
はドイツ太陽エネルギー協会(DGS)の依頼で『Planning and Installing
Bioenergy Systems』(Earthscan、2005)という優れた書物をつくってきました。
バイオエネルギー・システムの設計や機器の設置に携わる人たちの必読書にな
っています。
 ECOFYSのエネルギーシナリオは一種の思考実験です。自然エネルギー
100%の社会が40年後に簡単に到来するとは思えません。問題はどのよう
な条件がそろえば、そのような社会が実現するかということです。私の専門領
域に即して言えば、「化石燃料や原子力の利用がなくなったときに、バイオマス
にどのような負担がかかってくるか」を示唆してくれるのです。

・バイオマスの究極の出番
 問題のシナリオの全体像は図1に描かれています。世界全体のエネルギー消費
量(供給量)は2000年の270EJから始まって、2030年の350EJにまで上昇し、
2050年には260EJに減少しています。人口が増加しているにもかかわらず、
エネルギーの最終消費をここまで減らすには、もちろん徹底した省エネが欠か
せません。
 当初、総エネルギー消費の16%でしかなかった再生可能エネルギーのシェアは
50年後には95%にまで上昇しています。バイオマス単独で同様のシェアを求め
ますと、13%から40%に引き上げられている。絶対量でも35EJから105EJへと
きっかり3倍に増えています。
 実のところ、ECOFYSのシナリオ作成者たちは、将来に必要とされるエネルギー
は可能な限り太陽エネルギーや風力、地熱などでまかない、バイオマスは使わな
いようにするという原則をかかげています。それが結果的には総エネルギー消費
の4割をバイオマスに頼ることになった。近年に公表された類似のシナリオのなか
で、バイオマスシェアがこれほど高い例は見当たりません。

Smallbiomass1(変換後)


 なぜそうなったかと言えば、化石燃料を全面的に排除しているからです。シナ
リオでは熱の利用を極力抑えて再生可能なエネルギーによる「電化」を進めてい
るのですが、それではカバーしきれない領域が残ってしまうのです。例えば、
長い距離を走る航空機や船舶に使われる燃料がそれですし、また製造業や機械工
業、製鉄業などの一部の工程で要求される高温熱もその典型例です。この部分は
バイオマスで埋めるしかありません。
 現在のところ、バイオマスのエネルギー利用で主流になっているのは暖房や給
湯などの低温の熱供給ですが、こちらのほうはある程度太陽熱や地熱でカバーで
きる。したがって将来的には、バイオマスの主たる仕向け先が輸送用の燃料と工
業用の高温熱に収斂していく可能性は十分にあります。ECOFYSが描いた図1の
シナリオではまさにそれでした。
 化石燃料も元をただせば遠い昔に生きていた生物であり、その意味ではバイオ
マスとは近縁関係にあります。石炭や石油がなくなることで、エネルギーのみな
らず、成分利用やマテリアル利用の分野で、さまざまな穴が開くことになります
が、バイオマスを使えばたいていの穴を埋めることができる、それがバイオマス
の最大の特徴と言えるかもしれません。

・安定供給の難題
次にバイオマスの供給面に目を向けます。図2によれば、現在では「在来的な木質
燃料」が圧倒的なウェートを占めています。これは発展途上国を中心に大量の木
材が燃料用に伐採されているからですが、この部分は2030年頃までにゼロになる。
代わって増えてくるのが農林産物の生産・加工から排出される残さや有機系都市
廃棄物などの「残廃物」です。これらは放置すると環境汚染にもつながるもので、
エネルギーとして率先して利用すべきバイオマスとされています。

Smallbiomass2(変換後)


 2番手に登場するのが森林での「補間伐採」(complementary fellings)です。
毎年森林で成長する林木ストックのうち、建築材やパルプ材などとして伐り出され
ない部分を、持続可能な形で利用することを狙っています。「成長量」と「伐採量」
の差分の利用ということで補間伐採と訳しておきました。
 日本の例で言えば、森林の成長量は1.2憶m3程度と推計されていますが、伐採量と
して統計に計上されているのは0.35億m3程度。この差分が補間伐採の候補になるの
ですが、総量の半分がエネルギー用として収穫できるとしたら結構な量になります。
かつて薪炭林として利用されていた広葉樹林の成長分が有力な候補になるでしょう。
ECOFYSのシナリオでは、在来型の木質燃料のうちの1/3だけが持続的に生産されて
いると見て、この部分を補間伐採に組み込んでいます。
 ところで、残廃物というのは農林業生産や人びとの消費活動の結果として生じるも
のですから、調達できる量におのずと限界がありますし、また補間伐採の場合には、
林木ストックの成長量以上には収穫できません。残念ながら、この二つだけでは必要
なバイオマスがまかなえないのです。
 そこで3番目に「エネルギー作物」が登場します。優先される作物としては輸送燃料
が得やすい菜種やオイルパーム、シュガーケインやメイズがまず入ってくるでしょう。
さらには成長の速い草本(エレファントグラスやミスカンサス)や木本(ヤナギや
ユーカリ)も植えられるはずです。
 エネルギー作物の栽培に必要な土地は世界全体で2.5億ha(農地面積の1/6)。WWF
では、食料や木材の生産に要する農林地の転用や、環境保護に必要な森林などの開発は
やらないとしています。灌水の必要な乾燥地も除外されている。となると土地を見つけ
るのが容易ではありません。結局、対象になるのは主として粗放に利用されている放牧
地などに限られてきます。放牧地が減れば肉などの生産が当然落ちてくる。先進国の
住民は肉の摂取量を半分にし、途上国の人たちも少ない肉で我慢するよう求められてい
るのです。

・見えてきた一筋の道
 ECOFYSのシナリオにしたがって、2050年までに再生可能エネルギー100%の社会を
実現しようとすると、バイオマスに相当な負担がかかるのは明らかです。エネルギー作物
の栽培に大きな面積が取られるだけでなく、エネルギー用として森林から伐り出される
木材の量も45億m3と言いますから、これは現在の総木材生産量33億m3(燃料用+産業用)
を大幅に上回っています。
 このシナリオでは、すでに実用化されているか、あるいは実用化が確実に見込める技術
を前提にしています。ただその例外としてオイル用藻類の栽培が2030年以降に実用化する
と見て入ってきている。そうでもしないと辻褄が合わないのでしょう。少し無理をしてい
るのではないかというのが、率直な感想です。しかしそのことを非難しているのではあり
ません。
 おそらく40年後に化石燃料と原子力の利用をゼロにするというのは、いささか非現実的
な目標というべきでしょう。多少時間が余計にかかるとしても、減少していく化石燃料を
できるだけ上手に使って、再生可能なエネルギーとのベストミックスやベストコラボレー
ションを探求していけば、それほど無理をしないで脱化石燃料の時代が迎えられるのでは
ないか。WWFのエネルギーレポートを一読して、その思いを強くしました。
 最後に意地悪じいさんのコメントを一つ。WWFジャパンは本レポートの要約版を日本語
で公表していますが、そのなかでcomplementary fellingsを「間伐」、energy cropsの
cropsを「穀物」と訳している。これが完全な誤訳であることは、小論からも明らかでしょう。
これらは特別の専門用語ではありませんし、英語の本文の中で繰り返し説明されているこ
とですから、少し注意していれば、この種の間違いは避けられたはずです。



        熊崎 実(筑波大学名誉教授・日本木質ペレット協会会長)
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1. デリー再生可能エネルギー国際会議(DIREC)報告
  ISEP研究部長 エリック マーティノー
2. DIREC2010で実感したこと ~世界の長期シナリオについて考える
  ISEP理事/主席研究員 松原弘直
3. DIREC 報告 現場としての自治体
  主任研究員 山下紀明
4. 自然エネルギー金融セッション報告
  古屋将太(Aalborg University, PhD student/ ISEP fellow)
1. デリー再生可能エネルギー国際会議(DIREC)
ISEP研究部長 エリック マーティノー

2010年10月27日~29日にインドのデリーにて、インド政府主催の「デリー再生可能エネルギー国際会議(DIREC)」が開催された。この会議には政府高官、国際機関、市民団体、民間セクターから1300人以上が参加し、自然エネルギー、エネルギー安全保障、気候変動、経済発展について討議を行った。形式は全体会合、閣僚級会合、ステークホルダーによるフォーラム、CEOによる円卓会議など多岐にわたり、主要な4つのテーマである技術、政策、ファイナンス、遠隔地でのエネルギー供給についての議論が行われた。これと同時にワークショップ、サイドイベント、最新の技術を紹介する自然エネルギー見本市も開かれた。また、閉会にあたっては、デリー宣言も採択され、政府、NGO、業界が多くの取組みを約束し、その約束はデリー国際アクションプログラムに盛り込まれた。

DIRECは2004年にドイツ政府の主催によってボンで開かれて以来、4回目の閣僚級の会合となる。ボン会議の後は2005年に北京で、2008年にワシントンD.C.で開催されている。この一連の会議や政府間やステークホルダー、業界の会合によって「国際アクションプログラム(IAP)」が推進されており、このIAPには先進国と途上国の双方の自然エネルギーに関する自主的な取組み、コミットメント、目標が含まれている。IAPはREN21(21世紀のための自然エネルギー政策ネットワーク:www.ren21.net)によって管理されている。

DIRECはREN21代表のMohamed El-Ashry氏とインドの新再生可能エネルギー省Deepak Gupta大臣によって開会された。El-Ashry氏は2008年のワシントン自然エネルギー国際会議(WIREC)以降の自然エネルギーに関する発展に焦点をあて、先進国と途上国双方からの自然エネルギーに対する政治的なコミットメントが近年増えていることを強調した。また、気候変動による影響は急速し、エネルギー安全保障やエネルギー確保の必要性からも、自然エネルギーの成長は経済不況にも関わらず続いて行くだろうとの見通しを示した。一方、Gupta大臣は政府機関やステークホルダーにデリー国際アクションプログラムへの署名と共に自然エネルギーに関するコミットメントを呼びかけ、こうしたコミットメントがDIRECの成功へと導くであろうと強調した。

会合では「カンクーンへの道」とのセッションが設けられ、特に2010年12月にメキシコのカンクーンで開催されるUNFCCCのCOP16に関連づけて、気候変動の緩和と適応に関する国際的な取組みについて話し合われた。「緑の経済と自然エネルギーの役割」のセッションでは、インドの20~25%の排出量削減計画と豊富な太陽エネルギー源の利用について発表された。「ビジョン2020-エネルギー安全保障、気候変動、経済発展における自然エネルギーの役割」のセッションでは、2020年と2030年に焦点をあて、IEAのWorld Energy Outlookが紹介された。World Energy Outlookでは、2010年から2030年にかけて新しいエネルギーのインフラに対する投資額は5兆ドルになると予測され、R&Dと新しい政策の重要性が述べられている。ヨーロッパ風力エネルギー連合(EWEA)のArthouros Zervos会長は、自然エネルギーは今後のエネルギーシステムの基礎であると述べ、世界での自然エネルギー目標の達成を楽観的に捉えた。また、自然エネルギーの成長は期待を上回るものであり、長期的には経済的であるとの見解も示した。

全体会合の後は、3つのセッションに分かれ、閣僚、ステークホルダー、CEOがそれぞれの立場から自然エネルギーを議論した。エネルギー関連の各国の閣僚が、エネルギーの国際的な取組みに関する問題点、解決に向けての選択肢、また技術によって自然エネルギーがエネルギー産業を支配できるかについて討議した。数人の閣僚は、自然エネルギーの今後の成長の度合いが国によって違うことを認識しつつも、セクター間や国境を超えての協力の必要性を強調した。ステークホルダー間の会議では、「人的資源」への投資、貧困層にとっての新しいビジネスモデルとなることも考慮したエネルギーの供給、政治的な行動を起こさない、あるいは遅らせることによる生じるコスト、今後の自然エネルギー産業の規模(今後20年で40~50兆米ドル)、製造者がクリーンエネルギー技術をさらに吸収することによってしっかりした流通機構が発展することなどが議論された。多くの討論者は自然エネルギーを拡大させるには政府が先導しなければならないと主張した。

CEOによる円卓会議では、パネリストが自然エネルギー産業の目標を発表した。多くのパネリストらが政府に対し、長期的に安定性のある、明確で一貫性した政策ガイドラインを設けるのと共に、国策としての自然エネルギー戦略を明確にするよう要求した。また参加者は、二酸化炭素の価格の有無に関わらず、R&Dによってエネルギーのコストは下がり、太陽および風力エネルギーのコストも従って競争力をつけるであろうとの確信を示した。二酸化炭素に標準価格を設けるのは難しいため、代わりに二酸化炭素の排出規制を強化してはとの提案も出された。太陽光市場は固定価格買取制度を通じて数カ国によって拡大しており、多くの場合太陽光コストはピークロードの生産時のコストに匹敵しているとの指摘もあった。

2日目は技術、政策、ファイナンス、遠隔地におけるエネルギー供給についての4つのトラックが同時並行で進み、3日目の全体会合においてまとめられた。技術に関するトラックでは、過去20年間の自然エネルギー技術の進歩について言及される一方で、温室効果ガスを450ppmに抑えるには一層の努力が必要であるとの警告がなされた。また、「スマートグリッド」、グリーン建築設計、電気自動車、次世代バイオ燃料、地域冷暖房における自然エネルギー、製造とマーケティングの重要性についても討論が行われた。

政策トラックでは、今後自然エネルギー利用の割合を50~100%にするとのシナリオは技術的にも財政的にも困難ではあるが達成できるとの結論に達した。各国は今後のエネルギーの系統を計画して行く上でも、政策だけではなく技術革新をも必要とするような政策の成功例を相互に学びあう必要がある。ファイナンスのトラックでは、産業界と政府が自然エネルギーに前例のないやり方で協力しながら投資をしていることについて言及されたものの、金融の流れを促進するためには新たな政策が不可欠であり、また、自然エネルギー政策は環境政策よりもむしろ産業と輸出の政策に照準をあてなければならない。世界の新しい金融イニシアチブが見直され、強化された。

 DIRECは「DIREC宣言」を締結して閉会した。「DIREC宣言」は以下の通りである。

・自然エネルギーの恩恵はさまざまである。特に貧困層に対するエネルギーの供給や、雇用の機会、大気汚染の改善、エネルギー安全保障などがある。

・自然エネルギーの成長は政策によって後押しされている。

・自然エネルギーが一次エネルギー供給に占める割合は世界全体では低く、導入地域も偏っている。また、世界の人口の大部分には近代的なエネルギーが供給できていない状態が続いている。

・2030年までに近代的なエネルギーサービスを供給するための目標が国連事務総長のエネルギー及び気候変動に関する諮問グループによって公表されたが、これは賞賛すべきものである。

・DIRECは、UNが2010年をエネルギー供給の国際年とすることを要求する。

・DIRECは、費用効率が高く、より革新的な技術に対する研究、開発、設置(RD&D)への投資の重要性と国際協力を再認識する。

・政府による一貫性のある政策は技術開発に好影響を与え、さらには自然エネルギーが普及するのに役立つであろう。

・DIRECは、発展途上国の人や組織の能力を強化するために、国際的な取組みを歓迎する。

・公的資金は保証やリスク負担などを通じて、大型の民間投資を発展途上国へ呼び込むのに役立っている。

・DIRECはデリー国際行動プログラムを歓迎する。この国際プログラムは政府、国際機関、民間企業、市民団体などが自然エネルギーの拡大を目的として、自らの権限や責任において自主行動を起こす事を奨励するものである。

 結論として、DIRECは多くの異なるステークホルダーや政府高官が会した重要なフォーラムであったといえる。同時並行で進められたセッションやイベントも多様であり、また全てのセッションが堅苦しいプレゼンテーションではなくパネルディスカッションであったため、高いレベルでの交流ができた。DIRECによって、自然エネルギーの国際的な発展と対話へのきっかけがもたらされた。
2. DIREC2010で実感したこと ~世界の長期シナリオについて考える
ISEP理事/主席研究員 松原弘直

この再生可能エネルギーの国際会議DIREC2010を知る日本人はまだまだ少ない。ちょうど生物多様性の国際会議COP10が開催された時期と重なったこともあるが、日本国内では海外の再生可能エネルギーの急成長を実感できる機会はほとんどなく、国内での課題と向き合うのに精一杯で、インドの様な発展途上国で開かれる国際会議への関心は小さいのが当たり前かもしれない。そこで、まず日本国内でこの国際会議を紹介する特集ページをJREPP(自然エネルギー政策ポータルサイト)にオープンした(http://www.re-policy.jp/DIREC2010/ )。少しずつ情報を掲載しているが、会議に参加して得た情報をさらに掲載していく予定なので、是非、ご覧頂きたい。

実際に会議に参加すると日本の存在感があまりにも小さいことに驚いたが、世界の急成長からみると日本は、いまや再生可能エネルギーの世界では「途上国」なのである。もちろん、政策的・制度的にもっとも進んでいるのは欧州(EU)だが、最近は中国やインドなど、その政策手法や制度を取り入れて急成長している発展途上国が多くある。その中、日本の現状を少しでも知ってもらおうと、日本で初めて発刊した自然エネルギー白書2010の要約版を英訳してリーフレットとして会場で配布した。会議2日目の政策トラック中で、ISEPの飯田所長が再生可能エネルギーに対して四面楚歌の日本の政策状況を紹介しており、日本の現状を世界の中で客観的に評価できる良い機会だったと考えている。

会議の2日目に4つに分かれたトラックの一つで「政策(Policy)」について議論が行われた。今回はその中で、最初のセッションで議論された「長期シナリオ」に焦点を当てて紹介する。長期シナリオは、最近発表された欧州でのいわゆる再生可能エネルギー100%シナリオなど、これまでと比較してさらに先進的なシナリオが発表されるようになってきている。IEAやEUの業界団体などが主催するサイドイベントでもテーマとして取り上げられており、それも合わせて紹介をする。この長期シナリオのセッションでは、ISEPの研究部長Eric Martinotがモデレータを務め、政策決定において重要な長期的な再生可能エネルギーの導入シナリオについて、多角的に議論された。EUやドイツにおいては、これまでの大幅な導入の成功を受けて、すでに2050年までに再生可能エネルギーによる電力供給を100%するシナリオが提案されおり、実際にそれを実現するために必要な政策や制度、基盤の整備にかかる費用などがテーマとなっている。再生可能エネルギーの大量導入に関する費用については、気候変動への対応や化石燃料使用の低減、そして産業発展や雇用増大など、得られる多くのメリットに比べれば長期的にみて、十分に低いという指摘がされた。

サイドイベントでは、具体的な長期シナリオの紹介があり、EREC(European Renewable Energy Council)とグリーンピース・インターナショナルの共催イベントでは、ERECのシナリオ”RE-Thinking 2050”での欧州100%再生可能エネルギーシナリオや、全世界を対象としたシナリオとしてグリーンピースの”Energy [R]evolution”最新版などが紹介された。ERECのシナリオでは、電力だけではなく、熱利用や運輸燃料を含む総エネルギー需要100%が2050年までに可能であることが示されている。”Energy [R]evolution”では、世界の平均気温の上昇を2℃以下とするため、世界のCO2排出量を2050年までに80%削減し、再生可能エネルギーの導入割合を世界全体で80%までにするためのシナリオを示している。一方、IEA-RETDとIRENAが共催したサイドイベントでは、IEAとしてはもっとも大胆なACESシナリオを発表しており、2100年までに大気中のCO2濃度を400ppmまで安定化するためのシナリオとなっている。

これらの長期シナリオが示しているのは、世界が目指すビジョンの実現は決して安易なものではなく、様々な政策や技術の革新、果敢なチャレンジや大規模な投資が必要であり、各国政府や多くのステークホルダーが協力して初めて実現できるものであるということである。そして、世界の国々はすでにその実現向けて走り始めているということが、この会議を通して改めて実感することができた。
3. DIREC 報告 現場としての自治体
主任研究員 山下紀明

 DIRECでは2つの場で地方自治体についての議論が行われました。一つは初日の午前午後を通して行われたICLEI(持続可能性を目指す自治体協議会)南アジアなどによるパラレルワークショップ「Strategy for Sustainable Habitat(持続可能な住環境のための戦略)」。もう一つは2日目午後に政策トラックの中のセッションとして行われた「State and Local Governments(州および地方政府)」。それぞれの報告や討論を通じて問題の現場であり解決策を実践する場となる自治体が抱える共通の課題、先進国と途上国での異なる課題について認識しました。
 「持続可能な居住環境のための戦略」での最初のセッションではインド、ドイツ、米国やイタリアなど各国の政府や研究機関からの報告者が地方自治体の重要性と期待について述べました。そのなかの一人として当研究所の研究部長Eric Martinotも登壇。これまで彼が中心となってまとめてきた「自然エネルギー世界白書」と「地方自治体の自然エネルギー政策に関する世界白書」の概要を紹介しました。
 つづいての「持続可能性とグリーンな都市」のセッションでは、米国のソーラー都市、インドでの取り組み、ICLEIのブラジルやインドにおける活動からの課題と教訓などが紹介されました。米国のソーラー都市で興味深いのは、ミシガン州やカリフォルニア州で行われた共同購入プログラムです。自治体や地域団体が太陽光や太陽熱に興味のある市民や会社を募り、量をまとめて一括購入することで価格交渉力を上げ、パネルや施工にかかる初期費用を下げる効果があります。インドでも太陽光や太陽熱の取り組みがはじまっており、エネルギー効率化や建築、水利用といった各分野と連携して進められていることが報告されました。
 2日目の「州および地方政府」セッションについては、提示された4つの論点に沿って報告や議論をまとめておきます。

1.自然エネルギー促進の成功事例について
-数多くの成功事例と失敗事例から学ぶべきであり、情報ネットワークがますます必要である(このことは一見当然であるが、世界各地で同じような失敗が何度も繰り返されているという現状がある。)
-環境政策と雇用や産業などの社会経済的側面を統合して解決すること
-必ずしも最初から包括的な戦略が必要な訳ではなく、取り組みやすい分野から進めていく柔軟な姿勢も重要
-継続的な取り組みの向上のためにはマネジメントシステムや評価システムが鍵

2.都市計画
-地方自治体は発展の速度に注意を払うこと。特にデリーのような途上国の大都市では急速な都市化、人口流入、エネルギー需要の増大が極めて深刻な問題となっている
-適切な都市空間計画と交通システムが鍵

3.マイクロファイナンスと消費者金融
-それぞれに自然エネルギー導入の初期費用として活用されており一定の意義がある。同時に運転管理時の費用については補助金等も少なく問題となっている。

4.地域の能力開発
-人的資源が予算と同時に最も重要。特に農村地域では運転管理のための能力開発と訓練が必要。

 こうした議論からは2つの重要な点が見えてきます。共通の課題としての環境政策統合、都市・地域計画。一方で途上国の都市では発展速度の問題、農村地域ではファイナンスと能力開発という極めて重要な課題があること。これらの課題に取り組む国際ネットワークや研究はいくつもありますが、その数は圧倒的に不足しています。地域固有の文脈と状況を共有して長期的に課題解決に取り組む組織は今後ますます重要になっていくでしょう。
 また「地方自治体の重要性と責任は極めて大きい。国際交渉で将来の排出削減について話し合われている一方で自治体は積極的に進めなければならない」という発言がありました。昨年のCOP15に向けた自治体会議でも同様の趣旨の文章があり、意識ある自治体の共通認識が出来つつあることを感じました。
 このほか会議全体で感じたのは、ドイツ、イタリア、米国、デンマークの存在感です。これらの国はインドとの強いつながりを示すかのように大きなサイドイベントや報告の至る所に顔を出していました。今後ますます自然エネルギーの大きな市場となるであろうインド・中国に対して国際支援とビジネスの両側面から結びつきを強めていることを実感しました。

米国のソーラー都市については下記(英語)
http://www.solaramericacities.energy.gov/
Solar Powering Your Community: A Guide for Local Governments(パンフレット )
http://www.solaramericacities.energy.gov/resources/guide_for_local_governments/

イクレイ南アジアのサイドイベントについては下記イクレイ日本のウェブサイトから概要やリンクがご覧になれます。
http://www.iclei.org/index.php?id=11823
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