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1.風発:よくわかる自然エネルギー(6)
                       飯田哲也(ISEP所長)

・自然エネルギーの熱利用

 自然エネルギーの普及では、注目を集める太陽光発電や風力発電などの電力
分野のほかに、熱利用の分野が重要となる。太陽熱温水、木くずなどのバイオ
マス利用、地中熱や温泉熱利用などが代表例だ。
 固定価格制などの政策で飛躍的な普及を遂げつつある自然エネルギー電力に
比べると、まだ決め手となる政策に乏しいが、これから大きな可能性があるた
め「眠れる巨人」と呼ばれている。
 熱利用とは具体的には暖房や給湯を指す。これらは40~60度程度の比較
的低温で、家庭などでもっとも割合が多い需要だ。本来、暖房や給湯は、廃熱
や太陽熱温水などの「質の低いエネルギー」で賄うことができるが、現実には、
ほとんどが電気や化石燃料(ガスや石油)などの「質の高いエネルギー」で賄
っている。ここにエコロジー的なミスマッチがあった。
 バイオマスでは北欧のバイオマスが代表的な成功例だ。スウェーデンやフィ
ンランドでは木くずを使った地域熱供給、デンマークでは畜産からのバイオガ
スを使った地域熱供給で、化石燃料を大幅に代替してきた。さらに近年では、
取扱や運搬に便利な木質ペレットを使ったボイラーやストーブが急速に普及し
ている。
 太陽熱利用では、ドイツやオーストリアでの取り組みが先行してきたが、バ
ルセロナで1998年に導入された導入義務付け(ソーラーオブリゲーション)
が、2006年には国の法律となって、一気に普及を加速した。これを追って、
ドイツが2008年には「自然エネルギー熱利用義務付け法」を導入して、後
を追っている。
 日本で暖房・給湯といえば、未だに電気・ガス・灯油以外の選択肢が事実上
ない状況だ。かつて1980年代に石油ショックを受けて、太陽熱温水器が一
気に普及した時期があった。しかしその後、原油価格の低落とともに、政策的
な支援のなく市場は低迷した。押売事業者が主体のビジネスモデルだったこと
も災いして、消費者トラブルも発生し、今日に至るまで低迷している。熱政策
の再構築から始めるしかない。

・自然エネルギーと輸送燃料

 自然エネルギーの普及分野の第三の領域は、輸送燃料だ。とくに自動車燃料
がもっとも重要だが、船舶・飛行機の燃料もある。
 自動車燃料については、水素や燃料電池などさまざまな代替燃料が期待され
試みられてきたが、ここにきてバイオ燃料と電気自動車がこの数年で一気に主
役に躍り出た。
 バイオ燃料は、ブラジルのサトウキビに代表されるバイオエタノールとドイ
ツなどで主流のバイオディーゼルなどがある。昨年、バイオエタノールは世界
全体で約7500万キロリットル、バイオディーゼルが約1700万キロリッ
トル生産された。全世界でみると、ガソリンのおよそ5%を代替したことにな
るが、ブラジルでは50%以上、アメリカでも約10%がバイオ燃料で代替さ
れている。
 ただし、バイオ燃料にはさまざまな課題もある。まず食糧との競合、第二に
森林の縮小、第三に一部のバイオ燃料はむしろ二酸化炭素を増やすおそれある
点だ。そのため、「持続可能なバイオ燃料基準」を設けて、そうした問題の少な
いバイオ燃料を認証・選別する取り組みも始まっている。また、藻類やセルロ
ースなど新しい技術でバイオ燃料を生み出す努力も行われているが、まだ実用
化に時間を要する。ディーゼルが主体の船舶やすでにバイオ燃料で試験飛行を
実施している航空機燃料も考えると、今後もバイオ燃料の重要性は増してゆく
と思われる。
 電気自動車自体は自然エネルギー源ではないが、ガソリン自動車よりも数倍
程度効率が高く、たとえ石炭火力からの電気であっても、脱石油と二酸化炭素
削減には効果的だ。さらにその電気を自然エネルギーで賄えれば、事実上、二
酸化炭素をまったく排出しない自動車となる。また電気自動車は、スマートグ
リッドと組み合わせた利用も考えられており、将来のエネルギー社会では、主
役となる可能性を秘めている。
 日本は、バイオ燃料の普及やバイオ燃料自動車では世界に出遅れたが、自動
車各社の電気自動車に掛ける意気込みは大きい。10年後、自動車とその燃料
はどうなっているか、激しい変革と厳しい国際競争は、始まったばかりだ。

・自然エネルギーと地域づくり

 自然エネルギーは、地域づくりに大きな貢献をする可能性を秘めている。
 第1に、自然エネルギーの建設と運転が、地域経済にプラスをもたらす。小
さな効果と思いがちだが、そうでもない。一例を挙げると、秋田県で風力発電
を1000本建設する構想がある。仮にこれが完成すると、その電力の売上げ
は、昨年の秋田県の米の出荷額(約800億円)に匹敵するほどだ。
 第2に、現在、ほとんどを地域外から買っている電気や灯油などで流出して
いる地域の資金が地域に留まる。その金額も、例えば人口1万人で年間数十億
円に達し、けっして少なくはない。その地域に留まる資金が、地域に仕事や雇
用を増やすことに貢献する。
 こうしたことから、総務省が昨年度の緊急経済対策の一環で、自然エネルギ
ーを軸とする「緑の分権改革」を立ち上げて、全国の地方自治体で取り組みが
始まっている。
 ただし地域には、自然エネルギー以外のさまざまな「資源」が不足している。
とくに、そうした自然エネルギー事業を立ち上げる人財や資金が欠けている。
じつは、地域には十分すぎるほど資金がある。たとえば青森県の地域金融だけ
で2兆円規模の資金が、貸し出しに回らず、地域外や海外の債権、もしくは国
債に回されており、地域に投資されないことが課題だ。
 たとえば青森県には200基近い風力発電があるが、地域資本のものはわず
かに3本しかない。それ以外は中央資本の風車であるため、せっかくの地域エ
ネルギー事業の利益が、地域外に流出することになる。
 とはいえ、地方自治体や三セクの事業は、非効率性や無責任が心配される。
そこで、デンマークで「自然エネルギー100%アイランド」を実現した「地
域環境エネルギー事務所」という社会モデルが注目されている。行政と地域団
体と住民が協力して設立する地域の自然エネルギーを事業化・社会化する「新
しい公共」のモデルとも言える。「緑の分権改革」が目指す一つの社会モデル
でもある。

「聖教新聞」2010年9月6日、10月4日号、10月18日号掲載

                       飯田哲也(ISEP所長)
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1.風発:よくわかる自然エネルギー(5)
                       飯田哲也(ISEP所長)

・実現へのラストチャンス

 自然エネルギーの普及政策は、電力・温熱・輸送燃料という三つの需要側
に分類して考えることが多い。今回は、まず電力分野での自然エネルギーの
普及を考える。
 自然エネルギー発電の分野は、水力発電が古くから実用化されているが、
近年の状況はまったく異なるものだ。風力発電や太陽光発電に見られるよう
に、近年は「政策による普及」によって、自然エネルギー発電が爆発的に広
まりつつある。
 1990年ごろからドイツや英国、デンマークなどで電力市場を活用した
新しい普及制度が次々に試みられてきた。その中で、2000年にドイツで
改良された固定価格制度(自然エネルギー電力を一定価格で長期間購入する
ことを定めた制度)が、「最も成功した環境政策」と呼ばれるほどの成功を
収めたのである。
 なお、従来の大型ダム式の水力発電は、河川環境や地域社会に与える影響
が大きいため、こうした政策の対象外となっている。
 実は、日本も10年程前まで、議員立法でドイツとほぼ同じ固定価格制度
を導入する試みがあったが、官僚と電力会社の反対に遭い、現状の固定枠制
度(電力会社に一定の量の自然エネルギー購入を義務づける制度)へと姿を
変えた経緯がある。
 この固定枠制度は、本家の英国などでも失敗したもので、日本もこの制度
選択の結果、「自然エネルギー後進国」へと転落したのである。
 今、固定価格制度が見直され実現の機運が高まってきているが、まだ問題
が山積みだ。特に、かつて固定価格制度に反対した官僚や審議会委員が制度
設計しているため、過去の失敗や経験が十分に生かされておらず、各方面か
らの懸念を真摯に受け止める姿勢にも欠けている。
 「21世紀の産業」として出現しつつある自然エネルギーの分野で、新た
な一歩を踏み出すには今がラストチャンスだ。官僚と既得権益による「国益
の喪失」を避けるために、政治が未来への選択を主導すべき時であろう。

・「変動型電源」普及の鍵握る

 電力分野での自然エネルギーの普及では、「固定価格制度」のほかに、電
力系統との連係・接続が重要な鍵を握っている。
 なぜなら、自然エネルギーの中で最もコストが下がり、普及の先頭に立っ
ている風力発電、そして将来的に最も大きな可能性が期待される太陽光発電
の両方が、自然条件によって時々刻々と発電量が変わる「変動型電源」であ
るからだ。
 電力は、基本的に発電量(供給)と消費量(需要)を常に一致させておく
必要がある。そのため従来は、消費量の変動に合わせて発電量を調整し、時
には揚水発電なども使って需給を調整してきた。そこに発電量が大きく変動
する自然エネルギーが入ってくると、調整はさらに困難になるという心配だ。
 とはいえ、日本の現状では風力発電などの割合が低いため、ほとんど問題
は生じない。むしろ電力系統に接続しなければ「市場に参入」できず、普及
できないことから、欧州を中心に、送電系統に自然エネルギーを他の電源よ
りも優先して接続する「優先接続」の原則が早くから確立されてきた。
 さらに電力市場改革が先行している欧州では、送電会社が発電会社や電力
供給会社から切り離されており、普及する自然エネルギーによる電力変動を
緩和し、調整するための「スーパーグリッド構想」が進む。
 これは、出力調整に向く北欧の大型水力と北海の洋上風力群と欧州を結ぶ
もので、送電会社は「将来世代のために自然エネルギー用の送電線を作る」
と胸を張る。
 地域分散型の自然エネルギーが地域に便益をもたらす形で普及するにつれ
て、送電線は電力会社の私物から、高速道路のような公共財に変わりつつあ
る。
 片や日本はどうか。電力会社は、風力発電による電力系統への影響を過剰
に心配し、風力発電に対して厳しい制約を課している。欧州や北米・中国な
どの風力先進国と対比すると、「安定供給」と送電線が、独占を維持するた
めの方便に堕ちているのではないか。

・賢い電力網-実用化に向けた開発を推進

 電力分野での自然エネルギー普及のため、重要な鍵を握る電力系統の将来
像として、「スマートグリッド」(賢い電力網)が期待されている。
 スマートグリッドは、オバマ大統領のグリーン・ニューディール予算の中
で取り上げられてから一躍注目され、今や世界中でバブル的なブームの様相
を呈している。
 特に、その助言者に米インターネット検索大手「グーグル」がかかわるな
ど、話題に事欠かない。
 スマートグリッドとは、情報技術(IT)やスマートメーター(賢い電力
計)を用いて、省エネルギーや分散型電源・バッテリーなどを統合した需給
調整も行うことがイメージされている。やがては、オープンな電力市場の情
報や取引を活用し、分散型の自然エネルギーを分散型の需要家に供給する「
仮想電力会社」など、まったく新しい電力サービスや電力市場を生み出す可
能性を秘めている。
 現在、スマートグリッドは自然エネルギーの普及に欠かせないと喧伝され
ている。自然エネルギーを大量導入した際の出力変動を、家庭の電気機器や
電気自動車の蓄電池等、需要側をスマートグリッドで調整することが期待さ
れているからだ。
 そのため国は、スマートグリッドの開発実証事業に巨額の予算をつけ、国
内はもとよりアメリカなどとも連携した開発を進めようと鼻息が荒い。必ず
しも間違った方向ではないが、開発実証事業だけが先行し、制度や市場が置
き去りになっている状況は、自然エネルギーの普及やスマートグリッドの実
用化という点でバランスを欠いている。
 自然エネルギーの普及には、スマートグリッドの実用化以前に、既存の系
統を最大限活用するための優先接続や運用ルールの整備が急務である。それ
によって特段の系統整備をしなくても、相当な自然エネルギーを増やすこと
が可能だ。
 スマートグリッドを構成する技術やソフトウエアは、10年以上も前から
取り組まれてきたものだ。今後も技術開発の重要性は論をまたないが、それ
以上に重要なのは、日本の閉じた電力市場をオープンにすることだ。そうし
た制度や市場の整備を急がない限り、ここでも新たな「ガラパゴス」(世界
標準からかけ離れた市場)が生み出されることになりかねない。

「聖教新聞」2010年7月26日、8月9日号、8月23日号掲載

                       飯田哲也(ISEP所長)
1.風発:よくわかる自然エネルギー(4)
                       飯田哲也(ISEP所長)

・政策の仕組み-固定価格制度の展開

 現在、政府が自然エネルギーの「全量買取制度」を検討しているが、その起
源は1978年にアメリカで公布された「自然エネルギー買取法」だ。
 特にカリフォルニア州で手厚い減税と高い買取価格が定められ、80年代に
同州だけで風車建設ラッシュが起きた。
 欧州では、84年にデンマークで風力協同組合と電力会社、政府が電力購入
の「3者合意」を結び、その後のひな型となった。これがドイツに渡って、今
日の固定価格制度の原型となる「電力供給法」が90年に成立した。
 自然エネルギーを電気料金の90%の価格で買うという制度により、風力発
電の本格的な普及が始まった。その後、この政策はデンマーク、スペインへと
「輸出」されていった。
 片や英国では、90年に自然エネルギーを競争入札で競わせる政策を導入。
2000年に見直したが、いずれも十分な普及効果が得られなかった。
 その後、電力供給法には2つの重大な課題が生じた。一律価格のため、風の
強い地域に集中して風力発電が伸びたものの、太陽光発電など、ほかの自然エ
ネルギーや、ほかの地域では普及が進まず、風力発電が集中した地域の電力会
社に負担が大きくなったことだ。
 1995年にドイツのアーヘン市が電気料金に地方税を上乗せし、それで太
陽光発電を電気料金の10倍で買うという制度を導入。瞬く間にドイツ中の都
市に広がった。ちょうど98年に成立した新政権が、これを参考に法改正を行
い、国民が平等負担するように見直して、今日の「自然エネルギー促進法」
(2000年)となった。
 こうして自然エネルギーを普及させる「政策の仕組み」が世界中に広がり、
発展していったが、日本は取り残され、「補助金」頼みが続いてきたのだ。

・費用負担とコスト-将来への投資の責任

 現在、政府が自然エネルギーの固定買取制度を検討している。その中で、平
均的な家庭で月に100~500円と試算されている、消費者の費用負担が議
論になっている。また、重工業など電力の大需要家も費用負担への懸念を訴え
ている。
 確かに、社会全体による負担は公平である必要があり、負担が過大となって
は困る。しかし、何と比べて「公平」「過大」なのか、立ち止まって考える必要
があるだろう。自然エネルギーの負担だけを見ると、問題の本質を見失ってし
まう。
 原油価格が高騰した2008年には、電気料金がいきなり500円も上乗せ
された。その年、日本は化石燃料を23兆円も輸入している。
 国内総生産(GDP)の5%もの国富(国全体の富)を、ただ海外に支払っ
ただけで、国内のエネルギー設備の形成には何の役にも立っていない。こうし
た費用負担とも公平に比較する必要がある。
 自然エネルギーの特性を、少し長い時間軸で考えてみる必要もある。小規模
分散型技術である自然エネルギーは、パソコンや携帯電話などと同じように、
「作れば作るほど性能が上がり、安くなる」という技術的特長を持っている。
 中でも風力発電は、すでに従来の化石燃料発電よりも安くなっている国や事
例が生まれつつある。高コストとされる太陽光発電も、年5割を超える急速な
市場拡大で一気にコストが下がりつつあり、数年で電気料金よりも安くなると
予想されている。
 つまり長い目で見ると、自然エネルギーのための費用負担はどんどん小さく
なり、やがては不要となる上、化石燃料の輸入も削減することができる。しか
も化石燃料は、今後も高騰や乱高下の不安があるのだ。
 そして汚染者負担原則も忘れてはならない。私たち電気の消費者は同時に地
球温暖化などの責任も負っており、将来に向けた投資をする責任があるのだ。

・新産業の興隆-存在感なく出遅れている日本

 100年前、T型フォードの第1号が世に送り出された。これがその後、「ビ
ッグ3」に代表される自動車産業として急成長した。
 これに歩調を合わせたのが石油産業。競合する鉄道会社を買収し破綻させて
まで、成長したことが知られている。こうして20世紀は、自動車と石油の世
紀となった。
 その自動車産業の象徴であるビッグ3は、2009年にいずれも事実上の倒
産となった。石油も、地球温暖化への対応に加えて、「ピークオイル」(=石油
生産が近年ピークを迎え、減少していくこと)への懸念などから、本格的な「脱
石油」の時代を迎えている。
 こうした世紀単位で産業が盛衰しつつある今日、自然エネルギー産業が興隆
している。すでに何度か触れた通り、自然エネルギー市場は年率60%の勢い
で成長しており、今や世界で15兆円市場に達し、10年後には100兆円市
場を伺う勢いである。
 その中で、自然エネルギー企業も急成長している。多くは10年以内に起業
した自然エネルギー・ベンチャーで、今や時価総額で1兆円を超える企業が4
社(09年5月時点)、1000億円超ではさらに10社以上に及ぶ。
 こうした企業の多くは、自然エネルギー先進国のドイツはもちろん、スペイ
ン、ノルウェー、ポルトガル、そして中国、米国、インド、台湾と多様な新興
国にも広がっている。まさに現代のグリーン産業革命の恩恵にあずかろうと、
世界中が自然エネルギー産業の創出を競っている。
 ところが日本は、太陽光発電を輸出する一部の大企業を除いては、ここでも
ほとんど存在感が無く、大きく出遅れている。かつてのホンダやソニーのよう
に、未来を見据えて世界市場に打って出る、21世紀の社会起業家の登場を期
待したい。

「聖教新聞」2010年6月7日、6月21日号、7月5日号掲載

                       飯田哲也(ISEP所長)
1.風発:よくわかる自然エネルギー(3)
                       飯田哲也(ISEP所長)

・自然エネルギーの新興大陸

 自然エネルギーを巡る地殻変動がおきている。いわゆる新興大国が、自然エ
ネルギーの市場と産業と金融と国際政治をリードしていることだ。もはや従来
の先進国・途上国という二分法で軽んじることはできず、むしろ日本は大幅な
後れを取っている。
 昨年、世界でもっとも風力発電が増えたのは中国だ。前年までの累積設置量
の倍となる1300万kWが1年で増えた。いまや累積でもアメリカに肉薄す
る世界2位となった。太陽光発電でも、昨年、世界で1000万kWを越えた
生産量の4割を中国が占めた。中国は、これだけの成果を、わずか5年で成し
遂げたのである。2005年に、世界自然エネルギー国際会議を招致し、そこ
で「自然エネルギー促進法」の導入を宣言したことがすべての始まりだ。
 ブラジルは、1970年代の石油危機以来、豊富なサトウキビ生産を活用し
たアルコール燃料を普及させてきたが、2002年にどのようなアルコール濃
度の燃料でも走らせることのできるフレックス燃料自動車が開発されてから、
普及に拍車がかかった。今や、アメリカと並ぶ「バイオ燃料大国」だ。アメリ
カのバイオ燃料がトウモロコシ原料が主体で、食糧生産との対立や二酸化炭素
削減効果に疑問があるのに対して、ブラジルのバイオ燃料はいずれも問題がな
いことが立証されている。
 そしてインドは、1990年代から風力発電の普及に力を入れてきたが、
2006年には自然エネルギー省を設置し、風力発電の普及で中国に次ぐ勢い
だ。
 さらに、いずれの新興大国でも、グローバルなベンチャー資金や公開株式市
場からの資金調達を受けながら、グローバル新興企業が次々に誕生し、成長し
ていることも見逃せない。中国のサンテックパワー(太陽光)、ブラジルのペト
ロブラス(バイオ燃料)、インドのスズロン(風力発電)などが代表例だ。毎年
数十パーセントもの成長を遂げている自然エネルギー市場は、昨年はまだ12
兆円に過ぎないが、10年後には100兆円を越えるとさえ言われている。
 日本の存在感が霞みつつあるのは、中国のGDPが日本を追い越すという「金
額面」だけでなく、こうした新興大陸が21世紀産業の創出で市場や産業におけ
る存在感と国際政治的なリーダーシップを発揮しているという事実にこそ由来
するのではないか。

・世界から立ち遅れる日本

 日本は、エネルギー自給率がわずかに4%ときわめて脆弱な国だ。温室効果
ガスも1990年比で9%増(2007年)で、京都議定書で約束した6%削
減を大幅に超過している。原子力発電は、全般に老朽化が進む中で、相次ぐ事
故・トラブルなどで稼働が低迷する一方、社会的合意が不十分なため、新増設
も思うように進んでない。
 そうした日本にとって自然エネルギーはもっとも重視されるべきエネルギー
であるにも拘わらず、世界でわずかに1%以下の市場規模という状況に過ぎな
い。個別に見ても、唯一世界をリードしていた太陽光市場も、ちょうど欧州や
アメリカなどで爆発的な市場拡大が始まった2005年に、日本では逆に補助
金を打ち切った結果、それ以降、日本は唯一、市場が縮小する国となった。風
力発電は、電力会社が安定供給を心配するあまり、事実上、風力発電を締め出
してきた結果、市場が低迷を続け縮小の一途を辿っている。バイオマス、地熱、
小水力など、その他のエネルギーも大同小異だ。
 さらに閣議決定された温暖化対策基本法案でも、民主党がマニフェストで掲
げた「自然エネルギーを2020年に10%」という目標を盛り込むに際して、
既存の大規模水力発電や未利用熱などを自然エネルギーの定義に加えることで、
「正味の増分目標」を切り下げる姑息な操作が官僚の手で行われたのである。
 自然エネルギーは、温暖化対策としてもエネルギー対策としても中心的な役
割を果たすことが明らかになっているばかりか、21世紀に出現した新成長産
業であり、地域分権的な活性化にも貢献するものだ。小規模分散型であること
が既存のエネルギー産業を脅かし、地域分権であることが中央のエネルギー政
策権益を脅かすが故に、そうした国益に反するサボタージュが行われたのであ
る。
 こうした日本の状況を打開するには、「自然エネルギー革命」の本質を見据え
た、真の政治主導が必要であろう。

・自然エネルギーの「第4の波」

 自然エネルギーが今日の隆盛に至るまで、ほぼ10年単位で4つの時期に分
かれる。
 まず1970年代の石油危機とそれに続く政府や電力会社による原発推進に
反対して、環境保護運動が自然エネルギーを求めた時代だ。ソフトエネルギー
やスモール・イズ・ビューティフルなど今日に繋がる基本的な考えが生まれた
時代だが、この時点では「ユートピア技術」に留まっていた。
 次に、第2次石油危機や米国での原発事故を経た1980年代。政府が代替
エネルギーとして本腰を入れ、北欧やカリフォルニア州で成功モデルも生まれ
たが、原油価格の低落で多くの国で努力が途絶えた。
 地球温暖化問題が本格化した1990年代に入って、欧州で「政策の仕組み
で普及する」という考えが広がる中で、ドイツの固定価格制の成功例が出現し
た。
 そして2000年代は「本流化の時代」だ。2002年のヨハネスブルグサ
ミットでは、世界全体の自然エネルギー拡大目標で決裂した。これで逆にドイ
ツ政府が「自然エネルギー2004」を主催し、世界的な政治気運を巻き起こ
した。ドイツ発の固定価格制が世界に広がり、自然エネルギーが爆発的に普及
するなか、温暖化対策のみならず、エネルギー対策、そして産業・雇用・地域
政策としても期待されるようになった。
 2008年の経済危機に対して、自然エネルギーを軸とするグリーン・ニュ
ーディールが世界中を席巻し、今や新しい産業経済の軸となっている。
 日本では、太陽光発電メーカーを除けば、本流化にはまだ遠い。これは、自
然エネルギーが「四面楚歌」に置かれているからだ。経済的な政策支援が乏し
く、電力会社による導入制約が厳しく、硬直的な縦割り規制の狭間に陥り、そ
して不十分な社会的合意という、「四面楚歌」をどのように解消してゆけるのか。
 日本で自然エネルギーが本流化するまでに、越えるべき課題は少なくない。

「聖教新聞」2010年4月19日号、5月10日号、5月24日号掲載

                       飯田哲也(ISEP所長)
2010.11.16
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